キース・アウト

マスメディアはこう語った

教師が多忙なのは、教師自身の意識改革ができていないからだろうか

f:id:kite-cafe:20191014195948j:plain
教師諸君! 注意して見ていよう
そうでないと 世界一忙しい日本の先生の現状の
その責任が教師自身のせいにされかねない
あるいは小手先の政策でごまかされてしまいそうだ
しかし そもそも
部活や生徒指導は教師の本業ではないのか?

というお話。

--------------------------------------


2019.07.20

 世界一忙しい日本の先生
部活、生徒指導…本業以外が負担に


産経新聞 7月18日]

 日本の先生は世界で一番忙しい-。経済協力開発機構OECD)が6月にまとめた世界の小中学校教員の勤務実態調査でも明らかになった、教員の長時間労働。生徒指導や部活動、会議の資料作りといった授業以外の負担が重くのしかかり、知識や専門性を高めるための時間が十分に確保できない。教員たちは、過酷な現実にさらされていた。

■電話相談に3時間

 「起きられない児童を毎朝迎えに行っていた。教員の仕事の範囲を超えていたと思います」

 大阪市立小の教員だった40代の女性はこうため息をついた。以前担任をしていた学級に、母子ともに朝起きられない家庭があった。毎朝家庭訪問して起こし、食事や着替えを促して一緒に登校。遅刻をすれば学級運営に支障が出るので必死だった。「虐待など、行政や警察が介入するほどの問題を抱えるわけではない。そんな家庭は、学校がサポートせざるを得ない」と実情を打ち明ける。

 さらに、放課後は校内のさまざまな行事の準備に追われる。会議が多く、資料作りなどの事務も膨大だ。そこへ追い打ちをかけるように保護者からの電話相談が、ときには3時間を超えることも。「1人でこなせる負担を超えていた。定時に帰れることはまずなかったが、それでも教材研究には手が回らなかった」

 OECDが公表した48カ国・地域の中学校と15カ国・地域の小学校の調査では、日本の教員の1週間あたりの勤務時間は中学校が56時間、小学校が54・4時間といずれも最長だった。

 特に中学校の教員の事務業務に費やす時間は平均の2倍以上と長く、逆に知識や専門性を高めるための職能開発に充てた時間は平均を下回った。大阪大大学院の中沢渉教授(教育社会学)は「職務分担が明確で教科指導に特化できる欧米の教員と違い、日本は生徒指導や部活動、保護者対応など仕事の範囲が広すぎる」と指摘する。


■残業、月80時間

 自ら交渉して業務を減らした教員もいる。大阪府南部の公立中で理科を教える女性教諭(40代)は数年前、出産を機に運動部の顧問と担任の業務を辞退。それまでは土日も休めず、平均残業時間は「過労死ライン」とされる月80時間を超えていたが、今では月約20時間に減った。「部活動は本来は生徒による自主的な活動。顧問は教員の義務ではないが、ほとんどの教員が引き受けており、当初は冷たい目で見られた」と振り返る。

 だが、「育児をしながらの限られた勤務時間で、授業の質を高めることこそ大事。そのために顧問と担任を諦めるのはやむを得なかった」。育児だけでなく介護や病気などで働き方を見直せるような職場環境になるよう願っている。

文科省対策「先生も夏休みを」

 教員の過重労働を重く見た文部科学省は、平成29年12月、部活動や事務仕事への外部スタッフの活用などを盛り込んだ「緊急対策」を決定。30年度から学校の事務仕事を担う「スクール・サポート・スタッフ」(SSS)の配置を進め、今年度は全国で3600人を採用した。今後も人数を増やしたい考えだ。

 大阪府東大阪市立柏田中学校は今年度、元教員で子育て経験のある女性(36)をSSSとして採用した。学校ホームページの更新やプリント印刷、校内清掃などを担い、新屋和昭校長(60)は「教員は喜んでいる」という。

 同中では週2日の部活動休止日、週1日の定時帰宅日も設定している。だが、新屋校長は「空いた時間を教材研究に費やす教員も多い。勤務時間を減らすには、意識改革が必要だ」と訴える。

 文科省は夏休みに教員がまとまった休日を確保できるよう、長期間の学校閉庁日の設定を要請する通知を6月末、全国の都道府県・政令市教委に送付。研修についても、報告書を簡素化したり、内容を見直したりするよう求めた。文科省の担当者は「教員の働き方改革は道半ば。業務を1つずつ見直し、休めるときにしっかりと休んで本来の業務に注力できる環境作りを進める」としている。(木ノ下めぐみ)



 もはやこうした記事に向けて何かを言うこと自体が苦痛になってきた。何度言っても、あまりにも学校は理解されていない。

 文科省の担当者は「教員の働き方改革は道半ば。業務を1つずつ見直し、休めるときにしっかりと休んで本来の業務に注力できる環境作りを進める」としている。
 こう言われると何か学校内に「休めるときもしっかり休めない」環境があるかのように聞こえるが、そんなものが問題なのではない。問題は「休めるとき」自体がないことだ。それを仕事にメリハリをつけない教員のせいにされると、私たちも素直になれない。

 

【教員が休めないのは教員自身の責任なのか?】

 教師の忙しさを教師自身のせいにする考え方は、教員に最も近いはずの校長レベルでも少なくない。
.
 記事を読むと、大阪府東大阪市立柏田中学校では週2日の部活動休止日、週1日の定時帰宅日も設定しているという。
 だが、新屋校長は「空いた時間を教材研究に費やす教員も多い。勤務時間を減らすには、意識改革が必要だ」と訴える。
 サラッと読むと気づかないが、要するに「せっかく休みを上げたのに、それを教材研究に使ってしまう。いったいどういうつもりだ。子どものために何でもやる、より良い先生になりたいといった前向き過ぎる意識を、根本から考え直さなくてはいけない」と怒っているのだ。

 しかしもし新屋校長の学校の職員が、一斉に意識改革を果たし記事の前半にある女性教師のように、
「育児をしながらの限られた勤務時間で、授業の質を高めることこそ大事。そのために顧問と担任を諦めるのはやむを得なかった」
と言い出したら、それを受け入れる余裕はあるのだろうか。全員が担任や部活顧問を降りてしまう事態――。

 新屋校長個人に限って言えば自校の教員を全員、育児をしないで済む独身者と年配者で固めるだけの政治力を持っているのだろう。しかし東大阪市の教員すべてに意識改革が進んだとしたらどうなるのか。
 学級担任や部活顧問がほとんどいない学校運営というものが、私には思い浮かばないのだ。
 

【スクール・サポート・スタッフは有効に違いないが】

 「スクール・サポート・スタッフ」(SSS)の試みはもちろん大切なことだ。私もずっと必要性を訴えてきた。しかし私の考えていたのは2学級に一人程度の配置で、国の考えとは規模が違う。
 
 30年度から学校の事務仕事を担う「スクール・サポート・スタッフ」(SSS)の配置を進め、今年度は全国で3600人を採用した。
 
 全国に存在する小中学校の数はおよそ3万。3600人のSSSは10校に1.2人程度の配置だ。
 それで仕事になるのか。
 
 そのことを念頭に記事を読み直すと、
 学校ホームページの更新やプリント印刷、校内清掃などを担い、新屋和昭校長(60)は「教員は喜んでいる」という。
も、何かバカにしたような話に聞こえてくる。
 この程度で喜んでいるとしたら、教師はほんとうにバカなのかもしれない。

 

【部活や生徒指導は本業ではないのか?】

 そもそもこの記事はタイトルからして間違っている。
 世界一忙しい日本の先生 部活、生徒指導…本業以外が負担に
 
 教師の仕事は教科を教えることで、部活や生徒指導は本業ではない――。
 メディアや一般社会はもちろん、時には教員自身ですらそう思っている。しかしこれは間違いだ。

 
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領のどれを見ても、部活や生徒指導は“本業”の一部である。
 
 例えば教育基本法の第一条は、
 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 

 学習指導要領(例えば小学校)の「第一章総則 1 各小学校教育の基本と教育課程の役割」の始まりはこうだ。
 学校においては,教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い,児童の人間として調和のとれた育成を目指し,児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。
 
 指導要領に言う「人間として調和のとれた」というのは、知育(教科教育)、徳育(道徳・人間関係の学び)、そして体育(体づくりと保健衛生)のバランスのことをいう。これにそれぞれ三分の一のエネルギーを注げと言っているのである。
 そこでは当然、部活も生徒指導も重要な項目となってくる。
 
 産経新聞だって生徒指導の中に“いじめ”の指導が入っていることを覚えていれば、生徒指導…本業以外が負担にとは書かなかったろう。
 
 何度も何度も、何度も何度も繰り返すが、日本の教員が忙しいのは本業以外の仕事が多すぎるからではない。それを行う人員、つまり教員の数が少なすぎるのだ。
 
 そのことを忘れてはならない。