キース・アウト

マスメディアはこう語った

生徒の自殺を防げなかった教師は なぜ一人ぼっちで戦っていたのか

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 生徒の自殺の原因のひとつが
 “怒ったり、泣いたり”といった担任の幼さだったという
 しかし最初から熟練の教師はいないし
 経験しなければ克服できない幼さ 手に入らない技術というものもある
 生徒の自殺を防げなかった教師は なぜ一人ぼっちで戦っていたのか

というお話。

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2019.07.31

 中学生自殺 市が第三者委で調査

[埼玉 NEWS WEB 7月29日]


 埼玉県所沢市で中学1年の男子生徒が自殺したことについて、市の教育委員会は29日会見を開いて、第三者委員会を設けて原因を調査していることを明らかにしました。
これまでの調査で、担任の教員の指導や学校の体制に課題があったという指摘が出ているということで、さらに調査を進め結果を取りまとめたいとしています。

これは、所沢市教育委員会が29日午前10時から会見を開いて明らかにしました。
それによりますと、去年7月、市内の中学校に通っていた1年生の男子生徒が、自宅近くの集合住宅の10階から飛び降りて自殺し、市の教育委員会は翌月、弁護士などで作る第三者委員会を設置したということです。
三者委員会は、生徒の両親や同級生たちから聞き取りを行うなどして自殺の原因を調べていますが、ことし3月に行った中間報告では、いじめは確認できなかったと指摘しているということです。
一方で、担任の教員は指導する際、「怒ったり泣いたりしていて幼さがあった」ほか、提出物が遅れると、内申書や受験に影響するという話をたびたび出すなど、学校の体制に課題があったと指摘しています。
三者委員会は、さらに調査を進め報告書を取りまとめることにしています。
生徒の父親は「息子は生前、『自分ばかり怒られる』と妻に話していました。学校の対応に問題がなかったか調べて、在校生が同じような目にあわないよう対処してほしい」と話しています。



 学校教育は常に万全ではない。
 学力問題もあれば部活の問題もある、いじめ問題に不登校、非行、インクルーシブ教育、LGBTの問題、貧困、虐待、不審者・・・公立学校に来るのはすべての国民の子弟だから、そのものが社会の縮図であり、世の中の問題がすべて入り込んでくる。
 教員はそれら全部に対応しなくてはならないが、そのすべてをうまく処理できるわけではない。したがって常に不備は残る。
 
 そんな苦しい状況にあって、最後の慰めは「児童生徒が死にさえしなければ何とかなる」というものである。その一事をお守りのように抱えて、私たちは努力してきた。
 たくさんの失敗がある、達成できなかった目標がある、願ったことの半分も叶わなかったこともある・・・しかし子どもさえ死ななければ何とかなる――。
 その頼みの綱の児童生徒に自殺されたら、ある意味で教員は終わりだ。どんな言い訳も許されない。
 
 記事にある教師は30代の女性らしいが、さぞかし無念だったろう。
 担任の教員は指導する際、「怒ったり泣いたりしていて幼さがあった」ほか、提出物が遅れると、内申書や受験に影響するという話をたびたび出すなど、学校の体制に課題があったと指摘
 責任の大半が自分にあったように書かれてしまうと、どこにも救いがない。だが、私は思うのだ。
 指導がまったく思うに任せない状況で、怒ったり泣いたり、内申書で脅す以外に、どんな方法があったのか――。

 おそらく、怒ったり、泣いたり、脅したりといった段階でその教師は終わっているのだ。経験を積んだ教師なら、そんな状況に至る前にたくさんの手を打っている。逆に言えばそうならないように手を打ち続けているのであって、彼女と同じ立場に立ってしまったら、大半の教師にできることはないのだ。
 ほんとに人間関係が崩れてしまうと何もできない――それを幼さと言われても困る。

 問題はそこまで追い込まれているにもかかわらず、彼女がひとりで対応しなくてはならなかったことである。管理職は、周囲の教員は、何をやっていたのか――。

 実はこの学校、今月の5日に中学2年生の男子生徒が同級生を殺害したとして逮捕されたのと同じ学校なのである。しかもこの3年間に、2名の自殺者と1名の殺人被害を出している。

 ハインリッヒの法則によれば「1つの重大災害や重大な事故1件につき、軽微な事故が29件、さらにその背後に隠れた事故寸前の案件が300件ある」。
 単純にそれを当該校に当てはめると、この学校は毎年軽微な事件が29件も起こり、事件寸前の案件が300件もあることになる。
 おそらくそれが実相なのだ。
 
 問題が次々と同時多発テロのように起き始めると、誰も他のクラスの面倒を見られなくなる――当該校で起こっていたのはおそらくそういうことで、今回問題となっている担任が「怒ったり」「泣いたり」「内申書で脅したり」といった場面まで追い込まれたのは、最初から孤立無援の状況にあったからだろう。
 そうでなければ毎年誰かが自殺したり殺されたりなどということが起こるはずがないのだ。

 最終報告では、その点について詳しく語ってほしいものだ。