キース・アウト

マスメディアはこう語った

そして教員は、誰もいなくなった・・・ということになるかもしれない

 


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 全国の小中学校で教員が足りなくなっているという。
 実質的に不足しているのは、正規職員ではなく常勤・非常勤の講師たちなのだが、
 なぜ彼らはいなくなったのか。
 本質的な問題点を政府も教育委員会も、そしてマスコミも回避している。
 だからやがて、この国から教員はひとりもいなくなってしまうかもしれない。

というお話。




2019.08.05

 公立小中、先生が足りない
全国で1241件「未配置」


朝日新聞デジタル 8月 5日]


 全国の公立小中学校で、教員が不足している。教育委員会が独自に進める少人数学級の担当や、病休や産休・育休をとっている教員の代役などの非正規教員が見つからないためで、朝日新聞が5月1日現在の状況を調査したところ、1241件の「未配置」があった。学校では教頭が代わりに授業をしたり、少人数学級をあきらめたりしており、教育の質にも影響が出かねない。

 単純計算すると、全国の公立小中学校約3万校の約4%で教員が想定より足りないことになる。文部科学省は教員の総数や雇用状況を毎年調べているが、こうした非正規教員の未配置の詳細は把握していない。国は教員の人件費を予算措置するが、給与額や配置は自治体に委ねている。

 朝日新聞は47都道府県と20政令指定都市大阪府から教員人事権を委譲された豊能地区の3市2町の計72教委に、5月1日現在の未配置を問い合わせた。1241件の内訳は、独自の少人数学級や特別支援教育などの担当が736件、病休教員の代わりが257件、産休・育休教員の代わりが223件――などだった。

 教委ごとにみると、未配置の最多は熊本県の103件で、茨城県102件、愛知県92件、宮城県85件、神奈川県82件と続いた。計52教委は、対応として「教頭や副校長が担当した」と答えた。また、千葉県では学校の判断で学年を3クラスではなく、2クラスに分ける例が出ている。一方、7府県9市2町の計18教委は「0件」と答えた。

 ばらつきの理由の一つは、非常勤講師の使い方に差があるためだ。非正規教員の中にはフルタイムで働き、授業のほかに部活指導や校務なども担う常勤講師と、パートタイムの非常勤講師がいる。常勤講師が見つからない場合、非常勤講師をあてるかどうかは教委によって異なり、調査では47教委が「非常勤をあてた」と答えた。一方、熊本、茨城両県のように、「非常勤講師をあてない」と答えた教委は、未配置が増える傾向にある。(上野創、編集委員・氏岡真弓)

【講師が足りない現状】

 要はリードにある通り、
1 全国の公立小中学校で、教員が不足している。
2 教育委員会が独自に進める少人数学級の担当や、病休や産休・育休をとっている教員の代役などの非正規教員が見つからないため。
3 朝日新聞が5月1日現在の状況を調査したところ、1241件の「未配置」があった。
4 学校では教頭が代わりに授業をしたり、少人数学級をあきらめたりしており、教育の質にも影響が出かねない。

 ということだが、最後の方がハチャメチャだ。

 ばらつきの理由の一つは、非常勤講師の使い方に差があるためだ。非正規教員の中にはフルタイムで働き、授業のほかに部活指導や校務なども担う常勤講師と、パートタイムの非常勤講師がいる。
 常勤講師が見つからない場合、非常勤講師をあてるかどうかは教委によって異なり、調査では47教委が「非常勤をあてた」と答えた。一方、熊本、茨城両県のように、「非常勤講師をあてない」と答えた教委は、未配置が増える傾向にある。


 常勤教師も見つからず非常勤教師もあてなければ「未配置」になるのは当然と思うが、ことさら書く以上は何か意味があるのだろうか?
 わからん。

 いずれにしろ調査に答えたうち47教委は非常勤講師を見つけることができて、熊本、茨城両県を始めとするいくつかの教委では講師を見つけることができず、「教頭が代わりに授業をしたり、少人数学級をあきらめたり」といった状況になっているわけだ。

 教頭はいちおう教員だから担任を配置したかたちにはなる(法律上校長は教員でないため、授業はできない)。
 また少人数学級を諦めるというのは多くの場合、都道府県独自で行っている小学校2年生以上での35人学級を諦めるという意味だろう。記事にも千葉県を例として学校の判断で学年を3クラスではなく、2クラスに分けるとある。
 
 公立小中学校の1クラスの児童生徒数の基準は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)で、国が定めた標準に基づいて都道府県教育委員会が定めることとされている。
 義務標準法では一クラスの児童・生徒数の標準は40人(ただし、小学校1学年は35人)となっているが、都道府県教育委員会が特に必要があると認める場合は40人を下回る数を1クラスの児童・生徒数として定めることができるとされている。
 
 そのため多くの都道府県教委が2年生、もしくは2・3年生、あるいは2年生以上6年生まで、というかたちで35人学級を実施しているが、それを諦めるというのだ。
 
 ただし副校長・教頭が学級担任をやっている様はいかにも不自然だし、例えば「お兄ちゃんの学年は71人を23人・24人・24人の3学級にしたのに、妹の学年は同じ71人なのに教員不足で35人・36人の2クラス」という状況を素直に認められる親は少ないだろう
 由々しい事態である。

 

【教員が不足する要因(需要の側から)】

 教師が足りなくなる要因として、同じ朝日新聞の別記事(「パズルの穴、合わないピースで埋めてる 教員不足に悲鳴」)は、
1 特別支援学級が増えた
2 産休・育休取得者が増えた
3 病休者が増えた
4 早期退職者が多かった
5 再任用を希望する退職教員が少なかった

の5点を挙げているが、それで分析を終えてしまえば、特別支援学級を増やすな、教員は産育休をとるな、療休にもはいるな、早期退職するなということになりかねない。
 問題をはき違えてはいけない。

 いくら需要が増えたからといって、供給がそれを上回れば何ということはないのだ。
 問題の核心は講師の需要が増えたことではなく、供給がまったく追いつかなくなったことなのだ。


 

【「講師希望者名簿」】

 私が教員になったころ――いやそんなに遡らなくても平成不況と言われたつい十数年前でさえ、講師のなり手はいくらでもいた。教委に置かれていた「講師希望者名簿」にはずらっと名前があったのだ。

 教職は安定したやりがいのある仕事で、1年や2年、あるいは10年浪人をしても追求する価値のある職業だと思われていたころのことだ。実際に不況で勤め口が少なかったこともあるが、有志の若者はコンビニでバイトをしたり望まない職場にいったん身を置いたりしながら、常勤・非常勤の講師として声のかかるのを待っていた。そしていったん講師の口にありつくと、過酷な勤務状況の中でもなんとか勉強して、本採用になるべく教員採用試験を受け続けたものだ。
 彼らが常勤・非常勤講師の大口供給源だった。

 「講師名簿」に名を連ねるのはそうした若者ばかりではない。
 結婚や出産を機に退職した人たちの中から、子育てが一段落して再び現場に戻ろうという人が出てくる。その人たちが講師に応募した。定年退職はしたものの、もう少し働いていたいという人たちも「講師希望者名簿」に名前を乗せた。
 
 名簿には人材がふんだんにあったから、何らかの理由で現職教師の一部がいなくなってもさほど困らなかった――。ところがいま。
 
 

【教員の不足する要因(供給の払底)】

 空前の求人難が「講師希望者名簿」から若者を奪った。
 ブラックな就業状況が繰り返し流布され、「安定」や「やりがい」を踏みにじった。
 教職よりも給与が良く、やりがいのある仕事がいくらでもあると、若者たちが知ってしまった。
 
 これまでは景気が悪くなると教員志望は増加し、好景気になるたびに減った。しかし今後はよほどのことがないかぎり、多少景気が下がったくらいで教員志望は増えないだろう。
 すでにまっとうな人間のやる仕事ですらなくなっているからだ。もう新卒はあてにできない。
 
 他方、中途退職や定年退職の元教員たちも「講師希望者名簿」に戻ってこない。その多くが免許を失効してしまったからだ
 
 退職後の暇つぶしに非常勤講師でも・・・と思っていた人も、3万円を払って30時間の更新講習となると二の足を踏む。
 
 前もって分かっている特別支援学級増設ならまだしも、突然発生する産育休や療休への対応となると、その気があっても更新講習など受けていられない。
 かくして「講師名簿」そのものが空になる。
 
 だったら更新講習自体をやめてしまえばよさそうなものだが、政府が「よいこと」として始めたことはやめられない。年間10万人の教師が払ってくれる講習費、総額30億円は大学の収入として定着し、いまさら政府が補填できるものでもない。
 
 かくして日本中に「担任のいないクラス」が増え続けるのだ。
 それでいいのか?