キース・アウト

マスメディアはこう語った

デビ夫人! あなたの真似をしたら私を誉めてくれますか?

 基本的には教育問題しか扱わない本ブログだが。
 正義をどう判断するかという点で都合のいい話なので、
 事例研究として拾い上げる。要するに、
 デビ夫人、あなたと同じことをしたら私を誉めてくれますか?
という話。

f:id:kite-cafe:20210111105701j:plain(アドルフ・フォン・メンツェル 「舞踏会の晩餐」《部分》)

 

記事

『年越しパーティー』開催のデヴィ夫人と、杉村太蔵が激しい討論 内容に賛否両論の声
(2021.01.10  grape)

grapee.jp 2020年2月から日本でも感染拡大した、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)。感染者数は日々増え続けています。
このままでは医療崩壊を起こしかねません。これ以上の感染拡大を防ぐため、政府は不要不急の外出や会食を避けるよう呼びかけています。
また、人が密集する場を減らすべく、自治体の判断によって全国各地の成人式が続々と中止になっています。

『年越しパーティー』開催のデヴィ夫人と、杉村太蔵が激しい討論

同年12月31日、都内の高級ホテルで年越しパーティーを行ったとして、『デヴィ夫人』ことタレントのデヴィ・スカルノさんに批判の声が上がりました。
報道によると、パーティーにはおよそ90人が参加していたとのこと。ネットで「マスクを着けてる人がほとんどいない」「影響力のある人だから自粛を呼びかけてほしかった」と話題になったのです。
2021年1月10日放送の情報番組『サンデー・ジャポン』(TBS系)では、デヴィ夫人をゲストに招き、今回の話題について特集。
デヴィ夫人はパーティー開催について、このようにコメントをしました。

私はね、こういう時期だからこそ勇気を持って開催したんですね。やっぱり『Go Toトラベル』とか『Go Toイート』っていうのはどうしてあったのかを考えていただきたいんですね。
このパーティーをすることによって…ホテルなんか10万円のお部屋を2万円で出しているところもある。こういうことを開催することによって、ホテルの人も助かるし、従業員の人も助かる。
ホテルに食料入れてる人、飲食の業者さん、みんな助かります。そしてオーケストラ20名。そしてダンサーも15名。そしてオペラ歌手が3名。みんな助かってます。
そして私たちはみんなストレスを抱えてますよね。ですから、こういうパーティーに来ることによってパワーをもらう、元気をもらう、みなさんがとっても幸せになる。
そして、私たちのような人間がこうしてお金を使って回さないと。日本の経済が本当に破綻してしまうと思うんですよ。
サンデー・ジャポン――より引用

自粛も大事である一方で、金銭的に余裕のある人が経済を回す必要性もあると説いた、デヴィ夫人
また、当日はホテル側とともに感染対策をとり、人数を減らしたり間隔を空けたりと工夫を凝らしたといいます。
デヴィ夫人がネットの批判に対し、「非難する人は何でも飛びついてくる」というと、コメンテーターである杉村太蔵さんがこのように意見を出しました。
ただ夫人、ホテルだとかですね、ダンサーのみなさんがこのままでは本当に大変なことになる、経済が破綻してしまうっていうお話でしたけども。
かえってこういったパーティーをやることによって、感染拡大がいつまでも止まらなくてずーっと(経済が)止まってしまう、そういう可能性も…。
「誰も感染していない。じゃあ結果的にいいじゃないか」っていう議論はですね、今成り立たないんじゃないでしょうか?
サンデー・ジャポン――より引用

杉村さんの言葉をさえぎり、デヴィ夫人は「お言葉ですけれども、パーティーは10日前で感染者はいない。そして参加者は自意識が高い。感染するのは20~30代の若い人たち若い人たちにはもっと危機感を持ってもらいたい」と反論。
コロナウイルスの感染拡大によって、日本では経済と人命を天秤にかけた状態が続いています。政府も、どちらを優先すべきかは決めかねているのでしょう。
「経済を回したい」というデヴィ夫人の考えも、「感染拡大を防ぐべき」という杉村さんの考えも、どちらが正解とはいえない極めて難しい問題です。
2人の熱い討論を見ていた番組視聴者からは、いろいろな意見が上がりました。
・「自分たちは意識が高い、若者は自意識が低いから感染する」って意見はちょっとなあ…。
・確かに経済を支えるのは大事。自粛で感染拡大を阻止しても、不景気によって命が奪われるかもしれない。
・自分は経済を回す余裕がないので、デヴィ夫人のような人がお金を使ってくれるのは正直いうとありがたい。
・パーティーをするのは勝手だけど、万が一クラスターが発生して困るのは医療従事者だから控えるべきだと思う。
このまま感染が拡大すれば、肺炎などの症状や医療崩壊によって命を落とす人が増えるでしょう。ですが経済が破綻してしまうと、不景気によって職を失い、生きていくことができない人が増えてしまうのです。
社会では、デヴィ夫人と杉村さんの討論のようなやり取りが至る所で行われています。2つの考えは両立しないため、どうしても衝突してしまいがちです。
今後、コロナウイルスがどうなるかは誰にも分かりません。2人の討論から、多くの人が「自分はどうすべきか」と考えさせられたようです。

 記事のタイトルは、「『年越しパーティー』開催のデヴィ夫人と、杉村太蔵が激しい討論 内容に賛否両論の声」である。
 視聴者の声にも
・自分は経済を回す余裕がないので、デヴィ夫人のような人がお金を使ってくれるのは正直いうとありがたい。
・パーティーをするのは勝手だけど、万が一クラスターが発生して困るのは医療従事者だから控えるべきだと思う。
など、意見の割れた様子が見られ、記事にも、
「経済を回したい」というデヴィ夫人の考えも、「感染拡大を防ぐべき」という杉村さんの考えも、どちらが正解とはいえない極めて難しい問題です。
とある。
 しかしこのように二つの正義が主張され背反するとき、たいていの場合「答えはその中間にある」とするのが一つの解法だが、その前にやっておかなくてはならないことがある。それは
 その正義をみんなが誠実に履行したら、果たして幸せになるだろうか
と考えてみることである。
 もしかしたら、どちらかは間違っているかもしれないのだ。

【異なる意見の「正しさ」を検証する】

 例えば杉村太蔵氏の考え方を徹底して、すべての人が食料の買い出しとから通院とかいった必要最低限のことしかしなくなったらどうだろうか――別の言い方をすれば、現在イギリスでやっているように、あるいはフランスやイタリアが第二波感染拡大で実施し、日本では北海道が似たようなことをやって感染者を減らした、あの方法を徹底するのである。

 日本では本格的なロックダウンが行われたことはないので分からないが、おそらくフランスやイタリアや北海道と同じことが起こるだろう。完全に実施すれば3週間以内に日本国内からウイルス感染はなくなり、この国は台湾やベトナムニュージーランドのようになる。

 一方、デビ夫人の主張に従って、感染するのは20~30代の若い人たちだからそれより上の世代で、自意識の高い私たちのような(お金持ち?)人がみんな、『Go Toトラベル』とか『Go Toイート』っていうのはどうしてあったのかを考えて、90人規模のパーティーを開いたらどうなるか――。

 私はデビ夫人のような大金持ちではないからもちろん同じことはできない。
 しかし助けるべきは「GoToトラベル」で潤った高級ホテル(どうせ割引があるならと、多くの人たちが宿泊に高級ホテルを選んだ)ではなく、中小のホテルを支えることはできそうだ。具体的に言えば今年度開催できなかった中学校時代の同窓会などどうだろう。

 田舎のホテルでなぜこんなにかかるのかと思う会費が1万8000円。そのまま泊を伴う場合は7000円の追加で朝食も出る。
 デビ夫人に比べるべくもないが、一人2万5000円のプランで100名、つまり250万円の宴会。これを1シーズンに30回も行えば十分に経営を支えることになるだろう。そんなことが日本中で行われたら、おそらく観光業の一部は例年をはるかに上回る収益を上げることができるだろう。

 しかしそれでよいのか?
 政府は大人数での飲食は避けるようにしろ、重症化リスクの高い高齢者はできるだけ外出しないようにしろと言っているのだ。デビ夫人の正義は正反対の方向にあるのだ。

 夫人に訊けば「アータたちではダメでしょ。自意識の高い人たちじゃないんだから」とおっしゃるかもしれない。そうなると自意識の意味も分からなくなるが、だったら選良である政治家たちの会合はどうか? 地域で言えば新年の名刺交換会など、その土地の名士しか集まって来ない。これだったら自意識の高い人たちばかりだから大いにやるべきか?

結局のところ、「自意識の高い人々」とは夫人が選んだ90人だけということになる。彼らだけがマスクもしないでパーティに参加できる、特別の人だということになるはずだ。

 

【どこに錯誤はあったか】

 きちんと考えれば明らかに誤りであるデビ夫人の正義を、サンデージャポンや引用記事の記事元である「grape」(ニッポン放送のグループ会社)は追及し切らなかったのか――。
 それはパーティーを開きたかったことを経済を回すことにすり替えたデビ夫人の詐術に、まんまと引っかかったためである。

 杉村太蔵氏も一般論で応酬するのではなく、こう言えばよかったのだ。
「やってはいけないのは、大人数がソーシャル・ディスタンスを保てない状態で、長時間飲食をともにすることだ。だからどうしてもホテル関係者を潤わせたかったら、知り合いでも知らない人でもいい、毎日数十組の家族をタダで招待して宿泊してもらい、ダンスや音楽は館内のテレビでリモート鑑賞するようにすればいいのだ。もちろん宿泊費はデビさんが全額、支払う。
 そうすればホテルも納入業者も、ダンサーやオペラ歌手も潤い、経済も回り、多くの人々がパワーをもらって帰ることができる――つまり夫人のおっしゃることはすべて実現し、批判を受けることもないのだ」

 判断のよりどころはただ一つ。
 その正義をみんなが誠実に履行したら、果たして幸せになるだろうか
だけである。