(写真:フォトAC)
記事
自民 教員養成の在り方を提言 免許更新講習見直しなど求める
(2021年5月5日 NHK)www3.nhk.or.jp
教育の充実に向けた小中学校や高校などの教員の養成や研修の在り方として、自民党は、大学・大学院の5年間一貫で教員を養成するプログラムの開設や教員免許の更新講習の抜本的な見直しなどを求める提言をまとめました。
自民党の文部科学部会は、1人1台のIT端末の整備や公立小学校での「35人学級」の導入など、学校を取り巻く状況の変化を踏まえ、教育の充実に向けた小中学校や高校などの教員の養成や研修の在り方の提言をまとめました。
提言では、優秀な学生を対象に大学・大学院の5年間一貫で教員を養成するプログラムや教員免許を持っていない社会人を対象にした集中的なプログラムの開設を打ち出しています。
また、教員が10年ごとに受ける教員免許の更新講習について、最新の知識や技術を習得するという制度本来の趣旨を改めて徹底すべきだとして、実施時期や方法などを抜本的に見直すよう求めています。
さらに、学校での研修を充実させるため、例えば「40分授業」の導入で1時限当たりの時間を短縮して午前中に授業を集中させることにより、午後は校内研修や授業研究に充てるよう促しています。
部会は、この提言を文部科学省に提出し、政府全体で取り組むよう求めています。
評
【たかが自民党の一部会の提言だとバカにしてはいけない】
政府ではない、単なる一公党のさらに一部会にしか過ぎない自民党文部科学部会。ここで出されたことが政策として実現するにはまだまだ時間もかかりそうにも見えるが、実はそうでもない。部会として提案し、党の提案となり、国会を通して文科省に送られ、そこで実現の可否が検討されて、その上で政策として都道府県教委、市町村教委を経てようやく学校まで下ろされる、そこまで普通は数年を要するが、自民党が本気でやろうと思えばすべてを端折ってわずか数カ月で実現させること不可能ではないのだ。権力者にはそれだけの力がある。
実際に1992年春、対米公約であるのにまったく進まない企業の週休二日制を一気に進めるため、自民党は学校を休みにすることを考え、文教部会でその年の9月からの学校五日制(月一回)を決め、実施に移してしまったのだ。
突然の動きに当時の文部省はうろたえ、週休二日制度を要求していたはずの日教組でさえ時期尚早と待ったをかけたくらいである。しかしその年の9月12日、とんでもなく中途半端な時期から五日制はスタートした。
そこで今回も私は怯え、とりあえず原文に当たらなければならないと思って探したのだが、記事にある「提案」は今のところ見つかっていない。仕方がないので上の記事だけを頼りに少し考えてみたいと思う。
(ただやはりこれだけだと分かりにくい。本来は大学・大学院、合わせると6年間であるのに、それを大学・大学院の5年間一貫というのは、残りの1年間だけを本来の研究にあてるということなのか、それとも教育学部の大学院だけは修士課程1年制ということなのだろうか等々)
【教員になるための修養年数を増やすらしい】
とりあえず理解できたことは、自民党議員が相も変わらず、
大学の教職課程の修養年数を増やし、現職の研修も増やすことで教員の質を高め、もってこれからの教育政策にあてようと考えている、
ということである。
より質の高い学生を集めるために大学の教員養成課程を医学部や薬学部と同じ6年制にすることや、採用試験の受験資格を修士以上とすることはこれまでも言われてきたことである。しかし30万人~33万人程度の医師・薬剤師に対して幼小中高の教員は100万人も必要である。それが4年制から6年制への移行の過程で丸2年間も供給が滞るとなると、全国的な教員不足が生じかねない。
そもそも6年制に移行した瞬間に、教育学部の受験者が激減することも考えられるのだ。いや確実に志願者は減る。
死ぬまで働ける医師や薬剤師と違って、教員には定年がある。
将来の65歳定年制を見越して計算すると、現行の教育学部4年制だと最長43年働けることになる。ところが6年制になると41年しか働けない。不足の2年分の給与が支払われない。しかもそれは初任の時期の2年分ではなく42年目と43年目の給与分、つまり最も高いときの給与が失われるわけだ。40年先のことを考えるとその額は2000万円にもなろうか?
2年も余計に授業料を払って生活費を使い2000万円も生涯賃金が減るとしたら、だれが教職など目指すものか。
ただし(そんなことは絶対にないと思いながらもついつい期待してしまうのだが)、優秀な学生を対象にとあるのは、もしかしたら選抜した学生に防衛大学並みの学費と給与を与え、勉強させてくれるのかもしれない。それだったら生涯賃金に差は生まれず、志願者も出てくるかもしれない。
私も現職教員として大学院に出してもらったときは給与が保障されていた(ただし学費は自腹)。そうした制度のさらなる拡充(学費も出してもらえる)だとしたら、無碍に反対しないで済む。
【教員免許更新制は簡略化・廃止の方向か】
ところで、
教員免許の更新講習について、最新の知識や技術を習得するという制度本来の趣旨を改めて徹底すべきだ
も何のことか分からない。現在は本来の趣旨に反することをやっているのか?
ただ、これについては日本教育新聞に記事(*)があって、それによると、
これまで主に大学が担ってきた更新講習は文科省がICTを活用して教育政策の動向などを伝える内容に見直すこととした。
ということだ。もしかしたら自宅で無料のオンライン講習になるということかもしれない。
もちろん「政府の意志を直接、教員に反映させるのが目的かもしれない」と警戒心も捨ててはならないが、評判の悪い更新制を、政府のメンツを保ったままでなくしていくための第一歩だと、そんな気もする。
必ずしも悪いことではない。ICTを活用してと、さりげなく自分たちの手柄を誇示しているのもかわいい。
【授業時間を1割~2割減らすらしい=国会のセンセイたちは何も分かっていない】
しかしさらに、
「40分授業」の導入で1時限当たりの時間を短縮して午前中に授業を集中させることにより、午後は校内研修や授業研究に充てる
となるとこれは問題だ。
いくら教員の日常生活が多忙だからと言っても、子どもの授業時間を減らすのは禁じ手だろう。1時間当たり小学校で5分、中学校で10分の授業短縮は、それぞれ1割強、2割の削減である。教師はその短い授業時間のためにさらに追いつめられることになる。子どもの理解が進まないからだ。
どうやら国会のセンセイたちは学校のことを何も分かっておられないらしい。
しかし党に文部科学部会があって提言を出さなければならない以上、何かを絞り出してモノ申さなくてはならない。それが学校をさらに追い詰め、教員志望を減らしていく。
志望者が減れば質が下がる、質が下がればまた叩かなくてはならない――素人はそう考える。そして新たな研修機会の創設。
こうなる底なしの悪循環だ。教員志望が一人もいなくなるまで続けなければならない。