キース・アウト

マスメディアはこう語った

学校教育が企業やマスメディアの踏み台にされ、完食される。「教育は死んだ、教育は死んだ、私たちが殺してしまったのだ!」――そんなふうに叫ぶ日は、案外近いのかもしれない。

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(写真:フォトAC)


記事

「会食恐怖症」給食の完食指導が引き金に

 (2021.06.03 Yahooニュース)

news.yahoo.co.jp

 

 「会食恐怖症」をご存じですか。人前での食事に恐怖と不安を感じ、吐き気などの体調不良を引き起こす社交不安症のこと。学校給食や部活動での「完食指導」が、発症の引き金となるケースが多いという。当事者を支援する団体は「子どもに無理やり食べさせないで」と訴えている。

 

「トイレで食べたこともある」

  「食物アレルギーがないのに残しちゃ駄目。もったいないでしょ」。担任に給食を完食するよう求められたのは小学3年の時。広島県の30代派遣社員女性は、今も担任の怖い顔を思い出し、食べ物がのみ込めなくなることがあるという。

 

 当時は、食が細くて時間内に食べ終えられず、昼休みも教室に残された。給食が苦痛だった。食べきれなかったパンを引き出しに隠したことがばれて、同級生の前でひどく怒られたこともある。「みんなできることが私にはできない」と自分を責め、自己肯定感が低いまま成長した。

 

 会食恐怖症の兆候が現れたのは社会人になった頃。新生活のストレスも重なったのかもしれない。誰かと食事をすると相手の視線が気になり、手が震える。親しい友人とならお茶はできるが、派遣先の同僚との食事は避けてきた。飲み会は断り、昼食はお弁当を持参して人目に付かないところに移動。「トイレで食べたこともある。無理な場合は食事を抜いています」

 

つらいのは「自分だけじゃない」

 岡山市の男性(30)は、大学時代に異変が起きた。同級生の女の子との初デートで食事が喉を通らない。冷や汗が出て、吐き気がした。3年生の頃にはさらに悪化。ゼミの教授から「食べ物を残すなんてけしからん」と、飲み会で食べ残しがあるたびに説教された。その後は人が多い場所では1人でも食べられなくなった。

 

 男性は、174センチ52キロで線が細い。幼い頃から小食だったが、家や学校では「男の子なんだからしっかり食べなさい」「残すと作った人に申しわけないでしょ」と言われ、無理して食べていた。「胃袋の大きさはそれぞれなのに、男はよく食べるべきだのような押し付けもしんどかった」と振り返る。

 

 数年前から当事者の支援を行う一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会(東京)の交流会に参加し、徐々に症状が改善している。体験を打ち明け合い「つらかったのは自分だけじゃない。無理して食べなくてもいい」と思えたことで楽になったという。

 

 同協会の代表、山口健太さんは「以前から症状を訴える人は少なくないのに認知度が低い」と話す。山口さんも症状に苦しんだ一人。10年前、高校の部活動での食事トレーニングがもとで発症した。合宿中は朝2合、昼2合、夜3合の米を食べるのがノルマ。監督が見張っている重圧で吐き気と動悸(どうき)がしたという。「それが偏食、わがままなんでしょうか」と疑問を投げ掛ける。

 

「食品ロス」が気掛かり 

 「発症のきっかけに給食での完食指導が関わっている」―。山口さんたちが症状のある642人を対象に行った2019年のアンケートでは、50・3%がこう回答した。結果を受けて3月、教員向けの給食指導のノウハウをまとめ、同協会のホームページで公開。無理やり食べさせたり、完食を強要したりしないよう呼び掛けている。

 

 山口さんは「『食は楽しいもの』『食べることが好き』という感情がベースにあれば、食材を大切にする気持ちは自然に芽生える」と指摘。学校や家では食にポジティブになれるような教育が必要と訴える。食品ロスが問題になる中、「食べ残しは悪」の価値観が強まるのも気掛かりという。

 

 学校の給食指導はどうなっているのか。広島市内の小中学校では「完食指導はしていない」(市教委健康教育課)という。11年から13年ごろまで「残食ゼロ」の取り組みをしていたが、同課は「あくまで食育の意識を高める目的。食べ残しがいけないと押し付けることはしていない」と回答。食が細い子が多い小学校低学年の児童には、「1年前と比べてどれだけ食べられるようになったか」を評価するようにしているという。

 

 児童・思春期精神科などを専門とするライフサポートクリニック広島(広島市東区)の新宅恵子院長は、「食に関する不安は、過食や拒食と同様、複合的な要因によるもの」とした上で「完食が目的化すると、大きな負担になる」と指摘する。「栄養バランスはもちろん大切ですが、食べられない子の事情を理解し、心に寄り添う指導が必要」と話した。

 (元記事は中国新聞「人前で食事、喉通らない 知っていますか『会食恐怖症』」

 

 飽食の国――主人は食べ残しが出るほどに料理を出し、客は食べ残すことが美徳とされたその中国でさえ法律をもって食品ロスをなくそうという昨今、そして日本では2007年の「食育推進法」によって「食は命の源。食育は生きる上での基本であり、知育・徳育・体育の基礎となるべきもの」として「『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てる食育」が急務とされるこの時代、しかしその重要な指導の場である学校には、保護者・マスコミ等から繰り返し「完食指導」の非人間性・人権無視を訴える声がある。

 

【給食を平等に盛り付けて食べさせるはずがない】

 まず現れたのは「中には食の細い子もいるから、みんなと同じように盛って “食べろ”と言われても食べきれるものではない」という主張。

 しかし現場教師にしてみれば食べられない子がいるなんて百も承知、全員に同じ量を食べさせるなどあり得ない。

 

 以前から学校給食では米飯にしてもパンにしても必要量の8割しか出していないのが普通だ(食べられないから)。だから“みんな同じように”盛ってしまうと少食の子にはそれでも多すぎても、食いしん坊は絶対量が足りなくなる。そこで教師はいったん平等に配り(というのは最初から量に変化をつけるのは難しいからだ)、

「はい、『こんなに食べられないよォ』、という人がいたら持って来なさい」

「うん、そのくらいなら減らしていいよ、あとはがんばろうね」

とやるわけだ。それから、

「もっと欲しいって人、手を挙げて! ジャンケンするよ」

となる。大変手間もかかるが、全員ムリなく、かつ十分に食べさせるにはこれ以外の方法はない。

 

 同じように配れば食べきれない子の出る給食も、学級全体だと完食できる—―何しろ主食が標準の2割引きなのだからできないわけがないし、それ以上減らすと誰かが栄養不足・カロリー不足になりかねない。

 学級全体での完食はぜひとも必要で、だから食べる能力に応じた傾斜配分は私が子どもの頃から自然に行われてきたのだ。

 

【アレルギーがあっても食べさせる――はずがない】

 さらにもう一つ出てきたのが「アレルギーがあって食べられないのに、無理に食べさせる教師がいる」という話――こうなるともうイチャモンだ。

 1988年に北海道でそばアレルギーをもつ小学生が誤って食べて亡くなって以来、食物アレルギーは学校において最も警戒すべき事項になっている。当初はしばらく給食のたびに担任が除去していたが、今は調理室の段階で除かれる。忙しい担任に任せると事故が起きかねないからだ。

 

 センター給食はもちろん自校給食でも調理室内に専門のブースを設け、調理員が接触しないように注意しながら、材料の検収から調理、運び出しまで全部べつに行うようにしている。人間一人を余計に雇うわけだからたいへん予算がかかるが、命がかかっているだけに自治体はおろそかにしない。

 もう20年以上もそうなっているのに、イチャモンをつける側は事実をしらない。

 

【しかしそれでも批判は続く】

 今回もそぞろ完食指導のおかげで会食恐怖症になったというので、いったいいつの話なんだと読み直したら、なんと、

 広島県の30代派遣社員女性の小学3年の時の話、

そして30歳の男性の、

 家や学校では「男の子なんだからしっかり食べなさい」「残すと作った人に申しわけないでしょ」

と指導を受けるような年齢のころの話。そして、

 10年前、高校の部活動での食事トレーニン

の話だった。

 いまごろそんなことを言われても困るし、高校の部活のことまで責任はとれない(相撲部だったのか?)。

 

【会食恐怖症という病気はない】

 「会食恐怖症」というのも初耳なので、原因が「完食指導」かどうかもよくわからない。

 そこでGoogle検索にかけると、Wikipediaに記載がなく、Wikiにないのは一向にかまわないが、検索上位20位以内にあるのはほとんどが記事の山口健太氏と山口氏の「一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会」の絡むものだった。NHKラジオやFNNのサイトも出てくるが、それぞれ山口氏の活動をあつかったものだ。PRTIMESのサイトでは「精神科医も知らないマイナーな病気」ということになっている。

 世の中に、精神科医も知らない心の病気というものがあるのだろうか?

 

 そこでさらに調べていくと、どうやら「会食恐怖症」という病気はなく、「社交不安症」に含まれる症状のひとつらしい。「頭痛」という症状はあるが「頭痛病」という病気はないのと同じである。だから精神科医も知らない。

 知らないだけではなく専門家が、

「食に関する不安は、過食や拒食と同様、複合的な要因によるもの」

と言っているにもかかわらず、

「発症のきっかけに給食での完食指導が関わっている」―。山口さんたちが症状のある642人を対象に行った2019年のアンケートでは、50・3%がこう回答した。

だから、

無理やり食べさせたり、完食を強要したりしないよう呼び掛けている。

 

  “専門家が何を言おうが証拠があろうかなかろうが、被害者がそう言っている以上は存在する”――どこかで聞いたこともある反科学・自説のゴリ押しである。くだんの問題ではそれが支援団体の収入につながった。

 では食を強制される子どもたちの支援を標榜する「一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会」とはどんな組織なのだろう。

 

【一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会】

 社団法人というと何らかの公益性のある、ほとんどボランティアのような組織だと思われがちだが、2006年の法改正で姿を変えた。現在は公益性のある活動でなくても良く、収益があってもかまわない(ただしそれは翌年に繰り越すだけで分配してはいけない)。社員やアルバイトに給与を払うのも問題ないので、収入の一部はそういう使い方をされるのだろう。

 

 実際に「一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会」のサイトを見てみると、主たる活動は、

「会食恐怖症克服と人生の質の向上のためのプログラムの立案、カウンセリング及びセッション、書籍の出版、コンテンツ配信、セミナーの実施。会員制度の制定及び運営、ほか」

とある。

 具体的には1回2000円のカフェ・カウンセリング、5000円のカウンセリングルーム開催。50分8000円の個別カウンセリングや1セット(60日分)5500円の克服「トレーニングプログラム」の販売、講演会(教育関係5万円前後~、一般10万円前後~)、書籍販売等。

 

 カウンセリングや講演会には専門の「会食恐怖症克服支援カウンセラー」があたるが、この資格は「一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会」だけが与えられるもので、初級資格を得るためには3万円ほどの費用と二か月間のメール学習が必要らしい。

 

【私たちは学校教育を殺してしまうのかもしれない】

 世の中は需要と供給で成り立っている。

 会食恐怖で苦しんでいる人がいて「支援協会」が料金に見合う支援をしているなら、その部分については問題がないだろう。

 

 しかしあたかも会食恐怖の原因が学校給食にあるかのように誘導し、学校教育と教師を踏み台にして広く社会に貢献しようとしているとしたら、それはいかがなものか。

 

 中国新聞も学校を叩けば記事が売れる時流に乗ろうとし、Yahooニュースはさらにその上に乗っかって来る――。

 ちなみに、記事の表題は中国新聞では「人前で食事、喉通らない 知っていますか『会食恐怖症』」だったのにYahooだと「『会食恐怖症』給食の完食指導が引き金に」になっている。表題に学校の落ち度が入ると、さらに記事は売れる。

 

 企業もメディアもこぞって己のために学校を殺そうとしている。

 腐臭のしはじめた学校からは教員志望者がどんどん減っていき、子どもの栄養管理や食事マナーもきちんと指導できる熱心な親たちは、我が子を公立から私立に逃がそうとする。

 

「学校は死んだ、学校は死んだ、私たちが殺してしまったのだ」

 そう叫んで本気で「教育再生」を考えなくてはならない日は、案外近いのかもしれない。