キース・アウト

マスメディアはこう語った

教員免許更新制が廃止になるが、間違っても教師の働き方改革の一環として「先生たちを楽にさせるための政策」と曲げられないように注意しよう。更新制で困っているのは教師ではなく、文科省・教育委員会なのだ。

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 (写真:フォトAC)

 

記事

 

教員免許更新制廃止へ 文科省、来年の法改正目指す 安倍政権導入

 (2021.07.10毎日新聞

mainichi.jp

 文部科学省は、教員免許に10年の有効期限を設け、更新の際に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」を廃止する方針を固めた。政府関係者への取材で判明した。今夏にも廃止案を中央教育審議会に示し、来年の通常国会で廃止に必要な法改正を目指す。

 文科省は免許更新講習に代わる教員の資質向上策として、オンラインなどを通じた研修機能の強化を検討している。教員免許更新制は第1次安倍晋三政権による法改正で2009年度に導入されたが、大きな方針転換を迫られることになった。

 免許更新制は、幼稚園や小中学校、高校などの教員免許に10年の期限を設け、更新の際は約3万円の講習費用を自己負担し、大学の教育学部などで計30時間以上の講習を受けることを義務づけている。

 しかし、教員たちはこうした講習を学校の夏休み期間などを利用して受けにいかざるを得ず、大きな負担になっている。文科省が今月5日に公表した調査でも、受講費用や講習時間について、8割を超える教員が負担に感じていることが判明。一方、講習内容が「役に立っている」と考える教員が3人に1人にとどまるなど、実効性が疑問視される結果が出ていた。

 また、教壇に立っていない免許保有者が更新をせずに失効するケースが多いため、産休や育休の取得者が出た場合、代替教員の確保が難しくなっている問題も指摘されていた。代替教員が見つからなかった学校では、教頭が授業を実施してしのいでいるなどの実態が明らかになっている。

 さらに、現職教員が更新講習を受けるのを忘れて教壇に立てなくなる「うっかり失効」も各地で相次いでいる。神戸市では今年4月、30~50代の小中学校の教員ら7人が更新を失念していたことが判明し、担任教員の差し替えを迫られるなど、対応に追われた。

 萩生田光一文科相もこうした現状を問題視しており、昨年度以降、制度の廃止の必要性を訴えてきた。今年3月には、中教審に制度の抜本的な見直しを議論するよう諮問している。

 

【「10年経ったら教師はポンコツだ」と政府は言った】

 私は教職を一種の職人芸だと思っている。場数を踏むことが大事で、現場でさまざまな問題・状況・現象を経験し、対応を繰り返すことで腕は上がっていく。だから基本的に年長者の方が能力は高いが、もちろん例外もある。すべて大工や左官と同じだ。

 ところがこうした考え方を真っ向から否定したのが「教員免許更新制」だった。

教育の英知は大学や研究機関にこそある。したがってそこから近い者(例えば新卒)は価値はあるが、10年も離れたらポンコツだから自腹で学び直せ

 それがこの制度の趣旨である。

 

 更新制が廃止されるのは、

 しかし現代の教員は自覚も意欲も根性もなく、すぐにビービー言うから温情を施してやろう、わざわざ遠くまで来させるのも大変だからオンラインに替えてやる、感謝しろ

記事の前半が伝えるのはそういうことである。

 

【更新制度廃止はどれほどの負担軽減になるのか】

 しかし実際には夏休みの講習がそれほど大変だったわけではない。

 更新年でなくても、教員は夏休み中てんこ盛りの研修を受けさせられている。学校五日制が始まった際、週に2日も休んでいる上に夏休みまでたっぷり取っているようでは何を言われるか分からないからと危惧した文科省や教育員会が、たっぷり研修機会を増やしたうえに、校内会議も入れ込んだためである。

 更新年の教師はこうした研修に代えて更新講習を受けに行くだけで、次の年からは再び普通の研修を受けるようになるので、時間的・体力的な負担は似たようなものである。ただ3万円(正確に言えば3万円以上5万円程度まで)の経済負担と更新手続きの面倒はなくなるから有り難いことには違いないが、これで文科省のアリバイづくりをされても困る。 

さあ、免許更新制はなくした。これで楽になったろう。文句を言わずもっと働けと言われても素直に頷く教員はいない。

 

 

【更新制度廃止のほんとうの理由】

 更新制廃止が大した負担軽減にならないことは、おそらく文科省も十分承知している。それにもかかわらず廃止するのは、毎日新聞の記事の後半で語られている。

教壇に立っていない免許保有者が更新をせずに失効するケースが多いため、産休や育休の取得者が出た場合、代替教員の確保が難しくなっている問題も指摘されていた。代替教員が見つからなかった学校では、教頭が授業を実施してしのいでいるなどの実態が明らかになっている。

 年度初めの教員不足は定年退職の教員を再任用で繋ぎ留めたり、その期間を終えた人をさらに講師として雇ったりと、何とか充填できるが、年度途中の不足はそういうわけにはいかない。

 手持ちの教員に妊娠するなとも言えないし、病気でも休むなというわけにもいかない。さらに新規採用の教員まで続々と辞めてしまうとなると、明日からでも来てもらわないと教室に担任がいなくなってしまう。中学校では1教科の授業が止まってしまう。

 

 かつては次年度の採用試験をめざして、アルバイトで食いつなぎながら勉強を続ける教職浪人がいくらでもいた。コンビニよりはるかに収入が高くしかも経験の積める講師の仕事は、彼らにとっても渡りに船だった。その教職浪人がダメなら、退職教員という手もあった。

 定年退職で家にいたり他の職に就いていたり、あるいは結婚・出産などで早期退職した人も、現職の校長から頭を下げられたとなれば、一役買ってやるしかないと重い腰を上げてくれる場合があった。中には拝み倒されて、1歳児を急遽保育園に入園させたうえで3カ月だけといった約束で現場に来てくれた人もあった。

 ところが現在、浪人してまでブラックな職場をめざそうという若者は払底し、退職教員たちには免許がない。もちろん3万円~5万円を払って更新講習を受けてもらえば免許は復活するが、明日来て欲しい状況には間に合わない。

 そんなこんなで教頭先生が担任代わりをしている学級が全国に相当数、出てきてしまいしかもその状況がいっこうに解消しない。

 教員免許更新制の廃止のほんとうの理由はそこにある。

 

 

【更新制がなくなって、再び教師が叩かれる】

 引用した毎日新聞の記事はそこまで書いてくれてあるが、今朝のNHKニュースは「教員の働き方改革=負担軽減」の問題としてしか、これを扱っていなかった。

 

 間もなく、

「いくら負担軽減のためとはいえ、更新制度をやめ、教師の質を下げてまでやることではないだろう」

という話が持ち上がってくるだろう。

「更新制度廃止以来、教員の質が下がった」という神話もつくられる、教員がその矢面に立たされる。

 

 世の中の人にとっては、質の低い担任に持ってもらうくらいなら、担任のいないクラスの方がよほどましなのかもしれない。