キース・アウト

マスメディアはこう語った

茨城県の教員採用試験が定員割れしそうだという。正規教員まで足りなくなる状況は、当然、講師もいないということ、4月1日に学級担任がいないクラスがたくさんできるということだ。やはり教員の勤務実態を知らせてはだめだ。しかし知らせずに採用するのも詐欺だ。

(写真:フォトAC)

 

記事


県教委の来年度の教員採用 志願者数が採用予定人数下回る
(2022.04.28 NHK茨城NewsWeb) 

www3.nhk.or.jp


 全国の学校現場では教員不足が課題になっています。
 茨城県教育委員会は来年度は新たに900人余りを採用する計画で、現在、出願を受け付けていますが、志願者数は今月25日現在でおよそ600人と採用予定人数を下回っています。

 茨城県教育委員会は来年度、公立学校の教員として新たに923人を採用する予定です。
 全国で教員不足が深刻になっていることから、県教育委員会は日程をずらしてほかの自治体との併願を可能にするなど採用試験のあり方の見直しを進めていて、今回は県外の試験会場を東京、仙台、名古屋に加えて新たに大阪、福岡にも設けるほか、教職大学院の課程を修了した人などは試験の一部を免除することにしています。
 出願の期間は実習助手を除いて来月6日までとなっていますが、県教育委員会によりますと、今月25日現在の志願者数はおよそ600人で、採用予定人数に届いていないということです。
 文部科学省が初めて行った教員不足の全国調査では、去年5月の時点で県内では小学校の12.1%、中学校の24%で教員が不足していて、全国平均を大きく上回っています。

 

 放送されるや否や、大きな反響のあった記事である。
 これまでの教員不足は主として産休代替や療休者の代わりの講師が足りないという話で、正規職員の不足は採用試験の倍率が下がったという文脈でしか語られてこなかった。しかしこの記事は、茨城県で教採受験者の全員を合格させてもまだ300人(33%)も足りないという話なのだ。正規が足りなければ講師もいるはずがない。したがって来年4月には学級担任のいないクラスが県内で300近くにも及ぶという、とんでもない話である。

 

 しかし締め切りまでまだ一週間。これだけ大きなニュースになれば全国から受験生が殺到するということもあるかもしれない。締め切りの5月6日まで、しばらく様子を見てみよう――ということで一度は見送った。ところがSNS上でこれが評判となると、関連してあるとんでもない文書が取り上げられ、議論沸騰となった。それが茨城県教員採用パンフレット「茨城県の先生になろう!」である。
 
 なかでも衝撃的だったのは20代後半の小中学校教員が、1日をどのように過ごしているか、具体的に示したページである。

 二人とも朝7時半までには出勤し、少なくとも午後7時になっても学校にいる。中学校の先生の場合は具体的に「時には学級通信づくりでパソコンに向かうこともあります」とあるから、仮に30分でできたとしても(もちろんありえないことだが)、退勤時刻は7時30分ということになる。職場での滞在時間は12時間。ここから休憩時間の1時間を差し引いても11時間勤務。超過勤務は実に3時間ということになる。これが毎日となると月22日の勤務で超過労働は66時間にもなるのである。
 同じパンフレットの2ページ目にある「目標:超過勤務45時間/月を超える者の割合0% (令和4年度末)」の何と空しいことか。達成できるはずがない。

 

 もしかしたら「こんなありさまですが、是非とも本県の教員になってください」という土下座レベルのお願いなのかもしれないし、超過勤務があまりにも常態なのでうっかり整合性を取り忘れただけなのかもしれない。あるいは「実態はこうですが、超過勤務を大幅に減らせと政府が言うのでとりあえず書いておきます」といった小さな抵抗なのかもしれない。
 いずれにしろ茨城県教委がウソつきなのかバカ正直なのか、よくわからなくなる話では、ある。

*もっともパンフレットは一昨年配布された「令和4年度採用試験(令和3年度試験、令和4年4月採用)」用のものであり、今年度受験者のためのパンフレットはネットから探れない。もしかしたら実際には配布済みで、サイト上は批判のためにリンクを外しただけなのかもしれない。今は変なおじさんが解説するつまらない動画になっている(「茨城県の先生になろう!」)。