全国市長会が運動部の地域移行に待ったをかけた。SNS上では極めて不評だが、これには無理なからぬ事情がある。そもそもスポーツ庁の検討会提案が、絵に描いた「変な餅」なのだ。食えたものではない。

(写真:フォトAC)


 記事

 

市長会、期間の柔軟化を要望 運動部活動地域移行
 (2022.07.01 日本教育新聞 NIKKYO WEB)

www.kyoiku-press.com 全国市長会は、休日の運動部活動を地域移行する目標時期を見直すよう求める緊急意見を出した。「経費負担の在り方や受け皿の確保などの課題が整理されていない中、期限を区切って地域移行を進めることに対し、多くの自治体から懸念や心配の声が広がっている」などと訴えた。スポーツ庁有識者会議では、令和7年度をめどに地域に移行するとの提言を出していた。
 緊急意見では、国が地域移行の必要性や方向性を明確に示し、教職員や生徒、保護者らの理解と協力を得るよう要望。また、施設確保や費用負担などの問題の解決には時間がかかることから、期間を限定することなく、地域の実情に応じて移行できるようにすることを求めた。スポーツ環境の整備に地域による格差が生じないような具体策を示すことも要求した。
 費用負担の在り方については、地域移行によりスポーツ団体に支払う会費は、学校の運動部活動の部費と比べ高額となることが想定される、として国が財政負担の仕組みを明確にすることとした。
 この他、スポーツ団体の整備や指導者の人材確保についても国の財政措置や支援を求めている。

 

  一週間以上前の記事で見落としていたが、重要な内容なので改めて拾っておく。
  運動部の活動を地域に移行することに、全国市長会が待ったをかけたというこの件、SNS上では「市長会が逃げた」だの「期限を区切らなければいつまで経っても移行できない」だの悪評ふんぷんである。後者については全く正しく、しかし前者についてはムリもない事情がある。
 「令和7年度をめどに地域に移行する」など、とてもでないが現実的でないからだ。
 

【部活動の地域移行には20年の失敗の歴史がある】

 部活動に関して外部の人材をつかうことで教員の負担を減らそうという試みには、もう20年近い歴史がある。
 ある時は「地域の人材活用」、ある時は「学社融合」、またある時は「部活動の社会体育への移行」という呼び名で、市町村も学校も、繰り返し外部に人材を求めてきた。そしてついに一度も成功してこなかったのだ。
 
 単純に考えて、野球やサッカーの経験者ならそこそこいても、男女バスケットボールだの剣道だのといったスポーツでは、そう簡単に人材は見つからない。
 それにもかかわらず強引に進めた「社会体育への移行」は、悲惨な結末を迎える。ごく一部の、生徒に全国大会の頂点までをも極めさせようと考える顧問たちが、これを奇貨としたからだ。
 
 彼らはさっそく社会体育のチームを立ち上げ、部活動をやめてしまった。学校で名ばかりの部員は下校時刻になるとさっさと帰宅し、夕食を食べて宿題を終えると、午後6時からの社会体育に参加するため、再び学校の体育館へ向かったのだ。
 朝も登校前に体育館で練習し、そのまま学校の昇降口へと向かう。練習時間は毎日4時間にも及び、休日の練習は無制限となった。学校における教育活動という軛から、完全に自由になったのだ。
 
 他の顧問はそれほど熱心でもなかった。
 しかしひとたびそうしたチームと試合で対戦すると、大人と子どもほどの力の差でなぶり者にされてしまう。それは親にとっても教師にとっても耐えがたいことだった。
 
 顧問の力量にも練習の質にも差はあるにしても同じ三年間、部活動に身を捧げてきた我が子が、教え子が、コート上で、あるいはグランドで、同い年の子たちに弄ばれているのだ。
 バスケットボールで66対4、バレーボールで1セット25対2、サッカーで20対0・・・。野球で26対0となると、延々と守備を続けるさらし者である。それが平気な顧問はやはり教師としても人間としても問題があると、私は思う。
 どんなに勝つことに執着のない顧問でも、せめて相手の半分くらいは点を取りたい、たとえ一矢であろうと報いたい、そう考えるのが人間ではないか――。すると必然的に社会体育のチームを立ち上げて、同等に近い練習をしなければならなくなる。
 
 社会体育への移行という以上、教員以外に引き受ける人材がいればいいのだが、そもそも地域に経験者さえいない場合がある。やはり先生しかいないと保護者に拝み倒され生徒に泣きつかれると、教員としては受けざるを得ない。学校の部活を社会体育に移行することで、教師の負担はむしろ倍増したのだ。
 

【問題が問題となった理由】

 今年6月6日にスポーツ庁の運動部活動の地域移行に関する検討会が長官に提出した「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」はけっこう厄介な内容で、サブタイトルに「~少子化の中、将来にわたり我が国の子供たちがスポーツに継続して親しむことができる機会の確保に向けて~」とあるように、中心的な内容は、「本当は野球をやりたいのに、少子化のために野球部が成立しないいくつかの学校の生徒を集め、連合チームとして中体連に出られるようにしよう」というものだった。

 ところがそこに、
「平成 18 年度に行われた調査結果と比べて、平成 28 年度の調査結果では、土日の部活動指導に従事している時間数が1時間6分から2時間9分とほぼ倍増しており、部活動指導に係る負担が増していることがわかる」
と、教員の働き方改革を絡めたために難しいことになった。
 二つは方向性がまったく異なるからだ。

 

少子化による部活不成立は大した問題ではない】

 一般に少子化の顕著な中学校では、野球部やサッカー部など大人数を必要とする部活が成立しなくなると、それらを廃部にしてバドミントンやテニス・卓球といった少人数でも可能な部へと編成替えをしていく、それでよいと考えていたのである。
 現実問題として部員10名の野球部やサッカー部ではなかなか強くなれないが、バドミントンやテニスなら大規模校の選手よりコートに立てる時間が圧倒的に長く取れ、県大会やさらにその上も目標に入ってくる、それで十分だった。

 もちろん何が何でも野球・サッカーという子は、これまでも親の責任で遠く離れた地域の野球クラブやサッカークラブに通っていた。本人がその気になって親がそこまで応援するような子は、才能も実力もあって将来は甲子園やプロを目指そうという子ばかりである。たとえ中体連の大会に出られなくても、全市または複数市にまたがってチームの中で練習した方が、高校やその先の競技人生にとってよほど有利だ。


 つまり「提言」が示すような組織に、新たな需要はさほどない。そもそも土日に地域の野球チームに参加する子どもたちは、平日は学校の何部に所属すればいいのか?


【部活の繁忙期、学校を単位としない土日練習で何をすればいいのか】

 6月6日の「提言」はマスコミを通して、一般には「学校の部活動の土日分を地域の専門家が担う」というかたちで周知された。「提言」の中に「単に運動部活動の実施主体を学校から地域のスポーツ団体等へ移行するのではなく」とあるにもかかわらず、である。しかも報道は明らかにこちらの方に重点がかかっていた。

 全国市長会「運動部活動の地域移行に関する緊急意見」も、文中に、
経費負担のあり方や受け皿の確保などの課題が整理されていない中、期限を区切って地域移行を進めることに対し、多くの都市自治体が唐突感を持って受け止めるなど懸念や心配の声が広がっている。
とあるように、「提言」の意図は理解しつつも、明らかに学校の部活をそのまま地域に移行することの困難を訴えている。

 さらに実際問題として、秋から冬にかけての部活動の閑散期、土日に部員を集めて体力づくりや基本練習をさせるのは分かるにしても、活動の過熱する大会直前1~2か月の、本来はチーム練習や練習試合をしたい土日に、複数校の部員を集めて地域スポーツ団体にどんな練習をさせようというのだろうか?

 全国市長会が要望として挙げた第一が、
「学校部活動は、教育活動の一環として実施してきたものであり、運動部活動の地域移行の必要性や方向性などを明確に示すとともに、国が中心となって周知を行い、地域、教職員、生徒、保護者及びスポーツ団体など関係方面の十分な理解と協力を得ること」
であったことは無理なからざることである。

 

【悪いのは誰だ?】

 結局、部活動改革は、今回も絵に描いた餅に終わるだろう。ただ何もなく終わるのではなく、本質的問題が3年先延ばしになるのだ。しかし悪いのは全国市長会でもスポーツ庁でもない。文科省にあれもこれも持ち込んで、すべて実現せよと迫るあの人たちである。