キース・アウト

マスメディアはこう語った

教頭は過労死直前というごく当たり前の話。しかし教頭は案外しぶとい。さらに言えばしぶといはずなのに、しばしばワイセツ事件の容疑者としてマスコミに顔を出す。なぜだろう?

(写真:フォトAC)

記事

 「激務で倒れそう」ほとんどの教頭が過労死リスクの高い働き方をしている事実 仕事が多岐にわたり緊急対応も多い大変な業務
 (2022.08.22 東洋経済ONLINE)
 執筆:妹尾昌俊・東洋経済education × ICT編集部

toyokeizai.net

 「学校の先生がとても忙しい」ことは広く知られるようになったが、その中でも「とりわけ激務なのが副校長・教頭だ」と教育研究家の妹尾昌俊氏は話す。全国公立学校教頭会の調査では、約8割の副校長・教頭が過労死ラインである月80時間を超える時間外勤務を余儀なくされているとみられ、中には朝7時から夜の9時、11時まで働いている先生もいるという。なぜ副校長・教頭は、こんなにも忙しいのか。その仕事内容と、過酷になりやすい業務の特徴について妹尾氏に解説いただきながら解決策を考えてもらった。
 
 約8割の教頭が過労死ライン超え
 全国の小中学校の副校長・教頭(以下、副校長・教頭をまとめて教頭と表記)のほとんどが過労死リスクの高い働き方を余儀なくされている。
 
 こうしたことは、10年以上前から、少なくとも教育関係者(教職員、教育委員会文部科学省など)の間ではよく知られていたことではある。だが、事態は一向に改善しないどころか、悪化しているところもある。

 全国公立学校教頭会によると、2021年の公立小中学校の教頭の通常日(行事前や特別な日を除く)の勤務時間は、11時間以上が約83%にも上る。1日11時間というと、月当たりの時間外勤務は70時間近く。土曜、日曜などに残業する人も多いから、こうした教頭の多くは過労死ラインとされる80時間を超えているとみたほうがよい。
 
 1日13時間以上という人は、2年前よりは多少マシになっているとはいえ、直近でも約3割に上る。これは120時間以上の水準(1日5時間以上×24日と仮定した場合)で、いつ倒れてもおかしくないような働き方だ。数日前も、ある小学校教頭から「周りの教頭は朝7時から夜の9時、11時まで働いている人が何人もいる」ということを聞いたばかりだが、本当に心配だ。
 (以下略)

 

 【比較的に良くできた記事】

 執筆者の妹尾昌俊という教育評論家はコンピュータの前だけで記事を書く人で、しばしばあらぬ方向に話が進み、私は好きになれない。しかし今回は「その仕事内容と、過酷になりやすい業務の特徴について妹尾氏に解説いただきながら解決策を考えてもらった」というように編集部の調査の上に妹尾氏がコメントをする形式をとっており、その分、客観性のしっかりとした良い記事となっているように思う。
 
 さて、教頭がなぜ忙しいかをまとめた四つの視点、
 第1に、教頭の仕事の範囲は広く、多岐にわたっている。
 第2に、緊急性の高い対応が多いことが、教頭の仕事をより大変にしている。
 第3に、以上の2点(業務の多さと緊急性)を、新型コロナを含む昨今の学校教育事情が、さらに悪化させている。
 第4に、教頭への評価の問題もある。
は確かのその通りだ。

 しかし「教頭は基本的に授業を持っていないために緊急性の高い仕事にすぐに対応できてしまいそのぶん日常的な仕事は常に夜に回される」とか、「そもそも開錠・施錠は教頭の最も大切な仕事で、誰よりも早く出勤して誰よりも遅くの残っているのが本来の姿、だから一般教師の過剰労働が解消しない限り永遠に長時間労働はなくならない」とか、「総務および雑用係のため、防災機器の扱いからハチの巣ができやすい場所まで熟知していなくてはならない宿命がある」とか、そういった具体的な部分にも触れてほしかった。

 他にも、追加される新しい仕事(例えば「特異な才能を持った子どもたちへの支援・教育」)に対するいち早い対応、不登校になりかかっている教員への支援、代替えがいない場合はつなぎの学級担任、校長の失言のしりぬぐい・・・等々、書き出したらきりがない内容にも十分に突っ込んではいない。
 

【しかし対応策はお粗末だ】

 また、無理ないと言えば無理はないのだが、「今すぐ取りかかれる解決策」はあまりにもお粗末だ。
 書類や手続きのなどの断捨離は教頭のできる仕事ではない。それらを下ろしてくる教育委員会だって分かっていながらできない。それは議員たちが次々と教育問題について議会で質問し、マスコミが繰り返し問い合わせ、市民もメールなどを通じて常に批判や無理な提案をしてくるからである。答えを持っていないと持っていないこと自体を責められる。
 分担・分業といっても教師の働き方改革が求められる昨今、配下の教員に仕事を回すわけにも行かず、PTAはマスコミの支援を受けて規模を縮小し始めているところだ。仕事を振り分けるわけにも行かない。ときおり遊びに来る猫の手を借りるわけにも行かない。
 ボランティアを募ろうにも、ひとが集まれば今度はその人たちへの説明・訓練・作業確認をしなくてはならない。それくらいなら自分でやった方が早い。
 かくして教頭の仕事は減らない。
 
 記事には「教頭の中には校長を目指している人が多いこともあって、校長や教育委員会に悪く思われたくないという心情になりやすい」という表現もあったが、過労死直前の教頭にとって、そこから抜け出すのは降任人事を頼るか中途退職するか、あるいは校長に出世するしかない。おそらく多くの教頭(副校長)が校長を目指して励んでいる背景には、そんな事情があるのだろう。ただし校長はありとあらゆる会合で挨拶をして、あとは不祥事の責任をとるだけの、ほんとうにつまらない仕事だ。
  

【付記:教頭はなぜワイセツ事件に関わるのか】

 教頭先生たちの働きを見てつくづく感心するのは、病気になる人が実に少ないことだ。普通の病気になる人も心の病に陥る人も、一般の教師に比べるとおそらく有意に少ない。もともとそういう人が選ばれているとも考えられるし、気を張っていれば数年は何とかなるという話なのかもしれない。しかしそれにしても、あれだけ過重な働きをしているにしては、あまりにも元気だ。
 もうひとつ感心するのは交通事故・交通違反が驚くほど少ないことだ。体力のギリギリで働いて睡眠不足の日も少なくないはずなのに、なぜか居眠り運転だとか信号の見落としだとか、あるいはスピード違反だとかがない。不思議なことだ。
 それでいてワイセツ事案で検挙される例は驚くほど多いのも、大きな謎である。
 
 たしかにあんな働き方をしていたらストレスも尋常ではないだろうし、家のことは一切できないから夫婦関係も(必ずしも悪くなくても)良好というわけにはいかないだろう。家族からも見放されている。
 職と立場を考えれば普通のサラリーマンがストレス解消に使う場所にも、簡単に立ち入るわけにはいかない。浮気など、とりあえずしている時間がない。

 これは一般教員についてもいえることだが、これだけ教員のワイセツ事案が問題視される中で、誰も「教員の性生活とその問題性」といったテーマで研究しないのはほんとうに不思議である。