キース・アウト

マスメディアはこう語った

一部の科学者は「スマホやゲームをやりすぎると脳が破壊され、心身が侵される」というが、脳はそこまでヤワではないだろう。しかしだからといってそれらを野放しにしてもいいというものでもない。

 記事

 子どもが突然キレるのはスマホのせい?デジタルが「脳に悪い」といわれる本当の理由
(2022.09.07ミュレ)

mi-mollet.com

 デジタルスクリーンは子どもの脳を壊す

   現代生活においてデジタル機器、なかでもスマホやPC、タブレット、ゲーム機といったスクリーンを有する機器はなくてはならないものになっていますよね。
   しかし、筆者などは「テレビばかり見ていると頭が悪くなる」と親に叱られて育った世代ということもあり、このデジタル漬け、およびスクリーン漬けの生活に不安がないといえばウソになります。ですから、デジタル機器に対して一歩引いて見ているところがあります。
   これがデジタルネイティブと呼ばれる若い世代になると、どのような感覚になるのでしょう? おそらく、筆者ほどに抵抗を感じてはいないのではないでしょうか。しかし、そんな人たちにとって少し不都合な研究結果が発表され、話題を呼んでいます。
   
   それは、スマホタブレット、ゲーム機などの「デジタルスクリーン」は「子どもの脳を壊す」ということ。この説を唱えるのは、10年間にわたって7 万人以上の子どもの脳と認知機能の発達を追跡調査した医学博士・川島隆太さんです。川島博士は自身が監修を務めた『子どものデジタル脳完全回復プログラム』という米国のベストセラー書籍の日本語版において、子どもの脳が壊れると以下のような問題が現れると説いています。
・ 学力(IQ)が下がる、授業についていけない
・ 物事に集中できない、すぐに気が散る
・ 突然キレる、泣きわめくなど、感情のコントロールができない
・ 人とうまくコミュニケーションがとれない、友だちができない
・ 不自然に太ってしまう、肥満やメタボになる
発達障害うつ病双極性障害を発症しやすい、症状が悪化する
   
   最近の子どもは感情のコントロールが苦手といわれていますが、これを見るとデジタル機器と無関係ではなさそうですね。では、なぜこのような症状が出てしまうのか? そちらに関しては、本書のオリジナル版の著者である精神科医ヴィクトリア・L・ダンクリー博士が、エビデンスをしっかり示しながらメカニズムや対処法を説明しています。
(以下略)

スマホやゲームをし続けるとバカになる、性格がゆがむ、精神的・身体的に不健康になる】

 私のような「子どものスマホ・ゲーム撲滅希求症候群」の人間が飛び上がって喜びそうな記事が出た。しかも書いたのは日本の学者ではなく、この種の研究では世界のトップを走るアメリカの医学博士だ。もう間違いない。スマホやPC、タブレット、ゲーム機といったスクリーンを有する機器は子どもの脳を破壊するのだ。
 
――と、一気に話が進みそうだが「好事、魔、多し」。自分に都合の良い話に出会えたらむしろ要注意である。私たちは都合の悪い意見には猜疑心をもって注意深く当たるが、逆は甘くなる。
 うっかりこんな記事があった、あんな論文があったと情報を振り回すと、とんでもないしっぺ返しを受けることがある。注意してみていこう。
 

【著者と監修者は?】

 とりあえず精神科医ヴィクトリア・L・ダンクリー博士について調べてみる。有名な科学者ならさまざまな場面で活躍しているはずだからである。
 ところがこれをgoogle先生に訊ねてみると、最近出版された川島隆太氏監修の「子どものデジタル脳 完全回復プログラム」(2022 飛鳥新社)の著者としてしか検索できないのである。まさか架空の人物ではないだろうが、世界にあまねく知られた専門家、というわけではなさそうである。
 
 一方、監修者の川島隆太氏は知る人は知る、覚えている人は覚えている脳科学者である。認知症患者の学習療法(読み・書き・計算をさせることによる治療)で名を馳せ、脳トレブームの火付け役となった・・・らしい。川島氏はブームのおかげで数十億円の収入を得たと言うが、そのほとんどを大学の研修室に寄付してしまったというから奇人でもある。私も数十億円手に入ったら同じように寄付したいものだ(どうせ一銭も使えずに遺産となって、子どもたちの人生を狂わせるだけだから)。


 【ゲーム・スマホは子どもの脳を破壊するのか】

 先に「火付け役になった・・・らしい」とい書いたのは、学習療法や脳トレに関するこの人の活躍を私はまったく知らなかったからである。
 この人の名を知ったのは3年前の月刊文芸春秋に載った『スマホと学力「小中7万人調査」大公開』という記事の筆者としてであり、その内容も今回とりあげた『子どものデジタル脳完全回復プログラム』とほぼ同じ、ゲームやスマホは人間の脳を破壊するというものだった。そのときも私は眉に唾をつけて読み、今もピンとこない。


 例えば文春の記事には、
 家庭で毎日2時間以上勉強をしていても、携帯・スマホを3時間以上使用すると、携帯・スマホを使用せず、かつほぼ勉強もしない生徒より成績が低くなっていた
 という記述があったが、
「“家庭で毎日2時間以上勉強をして、なおかつ携帯・スマホを3時間以上使用する子ども”がデータとして意味を成すほど大勢いたのか?」
とか、
「“携帯・スマホを使用せず、かつほぼ勉強もしない生徒”は毎日なにをやって過ごしているんだ? 部活か? 街の徘徊か?」
とか、考え始めるときりがない。
 そして何より、これほど重大な研究成果が3年経っても世間の常識にならないのは、結局、ゲームやスマホが子どもの脳をダメにするという説が、学問の世界でも一般社会でも肯定されず受け入れられてもいないからだと考えることが妥当だということだ。
 同じような警鐘を鳴らす人は少なくないので、いちおう気には留めておくべきだが、あまり深刻に考える必要もないだろう。

【それでも私は戦う】

 ただし私は今も「子どものスマホ・ゲーム撲滅希求症候群」の真っただ中にいる。もちろん「脳を破壊する」説を信じているわけではないが、とんでもなく強い依存性や昂進性、つまり中毒性があり、魂を24時間奪われる可能性があるからである。
 それらが子どもたちを連れ去ろうとするなら、私たちは全力で阻止しなくてはならない。