キース・アウト

マスメディアはこう語った

クレーム対応の、落としどころも、ノウハウも、余裕も持たない学校はすぐに謝ってしまうが、謝ることでさらに追い詰められる。学校はこうして壊れていく。

(写真:フォトAC)

記事

 

ミサンガ注意の教員へ抗議→生徒に謝罪 対応に疑問の声も 浜松の中学 学校現場の苦慮浮き彫り

(2022.11.04 みんなの静岡新聞

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 浜松市の市立中学校で9月下旬、授業中に生徒のミサンガを外した教員が保護者から抗議を受け、その後の対応を巡って体調を崩し、授業やクラス担任、部活動指導を行えない状態が続いていることが3日までに、関係者への取材で分かった。学校は生徒と保護者に「行き過ぎた指導だった」と謝罪したが、事態を知った他の生徒の保護者は「謝罪は過剰な対応ではないか」と同校の姿勢を疑問視する。保護者対応に苦慮する学校現場の実態が改めて浮かび上がった。

 関係者によると、20代の女性講師が体育の授業中、2年の男子生徒が足に付けていたミサンガをほどき、生徒に手渡した。これに対し、保護者が「ミサンガが駄目という規則はあるのか」「足に触れたのはセクハラだ」などと主張し、女性講師の謝罪や学校全体への周知に加え、この生徒に関わらないよう学校と市教育委員会に求めた。

 同校は「ミサンガは学習に不要で、授業中の指導の一環だった」と説明したが、数日後から生徒が登校しなくなった点を踏まえ、口頭などで複数回謝罪した。学年集会も開いて「女性講師に不適切な指導があった」と2年生全員に説明した。

 だが、謝罪後も事態は収まらず、全校生徒への周知や女性講師の処分を求める要請が保護者からあった。この件に関連するSNSの投稿を巡る生徒間のトラブルも発生。同校教員や市教委職員は連日のように夜間まで残業し、休日も出勤するなど対応に追われたという。
 女性講師は心身の不調を訴え、10月初旬から教科や部活の指導から外れている。2年生の保護者の1人は「過剰と思われる要求に、なぜ応じるのか。先生1人が突然いなくなって多くの生徒に影響が出ているのに、十分な説明もない」と話す。
 市教委は「現在対応中の事案のため、回答は差し控えたい」としている。
(以下、略)

 学校が保護者の無体な要求に追いつめられるという報道自体が珍しいが、ここまで丁寧に書いてもらったことにも驚く。しかしそれでも限られた紙面での話、細かく見ると分からないことだらけである。

【生徒と教師の関係が分からない】

 保護者は「ミサンガが駄目という規則はあるのか」などと吠えるが、装飾品がダメなことは日本の学校の場合「常識」であり、そんなものまできまりにしたら校則はちょっとした国語辞典並に厚くなってしまう(パジャマで登校してはいけない、ウェディングドレスで登校してはいけない、水着での登校も不許可、もちろん全裸登校もしてはならない・・・・)。それを承知で、なぜこの生徒はミサンガなんぞを足につけて登校したのか。
 単なるファッションだったのか、あるいはかつて私が経験したような不良グループの符丁だったのか・・・。手首と違って体育の時間にしか見えない“足”にした、というのにも何か意味はありそうだ。
 
 その足のミサンガに気づいた女性教師はなぜ本人に外させようとしなかったのか? 「外しなさい」と指示すればいいだけなのに、わざわざ解いて返してやったのはなぜか? 没収だってかまわないはずなのに。
 そして生徒はなぜ唯々諾々と外させたのか。
 
 その場の様子を想像すると空恐ろしくなる。女性教師は生徒の前にかしずいてミサンガを解いたのだ。それが目的だったのだろうか?

【想像もつかないさまざまな保護者がいる】

 普通、人はたったひとつの事象で他人を訴えたりしない。子どもを預かってもらっている学校の教員を訴える場合はさらにそうで、満水のコップに水を一滴落とすのと同じように、つもりに積もった不満が些細なことで溢れ落ちるとき、保護者は訴える。だから保護者の異常な訴えも、学校側のだれも気づかず記事にも書かれなかった積年の恨みによるのかもしれない。

「足に触れたのはセクハラだ」
もほとんど保育園児の言いがかりだが、振り上げたこぶしの落としどころがない、そこまで保護者も追いつめられている、と考えれば、それも正しいのかもしれない。

 

 しかし全く異なる推測も成り立つ。
 かつて私の勤めていた学校で、保護者が教員を訴えそうになるという出来事があった。職員のひとりが保護者であることに甘え、支払うべき期日までにすべき入金を怠ってしまったのである。それを保護者は詐欺だという。
 怒りはすさまじく、教頭や校長が謝りに行っても聞く耳を持たない。なぜそこまで怒らなくてはならないのか。それは何回目かの話し合いで思わぬ提案が出されて初めて理解される。
「校長先生、大人には大人の解決の仕方ってものがあるじゃないですか――」

 企業にやたらと難癖をつけて引きずり回し、根負けした担当者が代品をもってくるとさっそく受け取って転売する、そういう生活をしてきた人らしい。この時は奥さんが「いくら何でも自分の子どもが通う学校を脅すのは恥ずかしい」と、離婚を盾に取り下げを迫ってようやく引き下がってくれたが、袖を引っ張ってくれる人がいないと、こうした場合でも収拾がつかなくなる。
 世の中にはそういう手合いもいるから何とも言えないが、「足に触れたのはセクハラだ」男にも、私などには想像もつかない理由があるのかもしれない。そういう場合もあり得る。記事はそこまで言ってはいないが。

【学校はすぐに謝るから、すぐに切羽詰まる】

 学校は代品を送るとか返金に応じるといった仕組みを持たないので、かえってクレームに弱い。お詫びで納得してもらい、努力でお返しすると口約束をする程度しかできないのですぐに謝ってしまい、相手が容赦ないと切羽詰まる。もしかしたらそうした安易な謝罪の積み重ねが、記事の保護者を怒らせているのかもしれない。

 

 教員はクレーム対応の専門家ではないし専門研修も受けていない。だから取り上げた記事の割愛した部分にあるように、スクール・ローヤーを置いてプロの見地で対応してもらうのが一番よいのだが、地方はそこまで予算潤沢なわけではない。また、仮に金を出すと言っても、いつ来るか分からないモンスターペアレントへの対応より、日々の活動に役立つ教員の方に金を使ってほしいと、現場の教師は言うに違いない。学校は詰んでいる。

 

 さて、結局よく分からない記事だったが、よくわからない理由で一人の有能な教師が抹殺されていく――それが学校だというとことを、世間に周知させる点では、有益な記事であったと言えるのかもしれない。