(写真:フォトAC)
記事
PTAはもう限界? “9割以上賛同”中学校が「解散」決断 理由は「加入率低下」「難航する役員選び」
(2023.03.27長野放送)
特集はPTAの在り方。PTAは保護者と教職員による学校運営を支援する集まり。ボランティアで運動会やバザーなどの手伝いや通学路の見守りなどをする。学校にPTAがあるのは当然となってきたが、近年、解散するケースが増え、長野県内でも松本市の中学校で解散が決まった。なぜ解散するのか、今後も広がるのか…。PTAも変わる年度末、背景と課題を探った。
■PTA解散 長野県内2例目
松本市の筑摩野中学校。今年度の生徒数はおよそ700人で市内一の規模だ。そのPTAが、昨年末ある決断をした。
(PTA会長):「今年度を持ってPTAは解散します」
県PTA連合会によると「解散」は、長野市の大岡小学校・中学校のPTAに次いで県内2例目だ。
大岡小・中学校のケースは児童・生徒が減り保護者が連続して役員になるなど、負担が増したことが主な要因だった。昨年度で解散、地域住民を巻き込んだ新たな活動を模索中だ。
筑摩野中は、やや事情が異なる。今回、会長と校長にインタビュー取材を要望したが、「地域の動揺が収まっていない」として断られ、話だけ聞くことができた。
二人によると、解散の主な理由は二つ。
■解散理由(1)「加入率低下」
2020年、保護者から次のような声が上がった。
(保護者)
「PTAへの加入は任意のはず。意思表示が必要だ」
これを受けて、PTAは昨年度、「加入は任意」とした上で、書面で意思確認をした。
すると、昨年度の加入率は9割以上だったが、今年度は8割ほどに低下。学年によって差があり2年生は7割程度、6割近い学級もあった。
■解散理由(2)「難航する役員選び」
数年前からPTAの役員決めが難航。共働きなどを理由に断る保護者が相次いでいた。
PTAは「このまま続けるのは困難」として2022年10月、解散と新たな有志団体を設けることへのアンケートを実施。9割以上が賛同したことから2022年12月、臨時総会で解散を決めた。
(以下、略)
評
PTA・自治会・労働組合は任意であるにも関わらず強制的に加入させられる代表的な三悪だそうだ。もともとが自主的・協働的な自助組織だから三悪などと言われると困るが、意に沿わないものを悪と呼ぶなら確かに悪には違いないが、それでも必要悪だ。簡単につぶしていいものではない。ただし保険と同じで一定数以上が加入することで成り立っている以上、一角が崩れると全体が崩壊し始めるのは止むを得ないのかもしれない。
【崩壊への序章:加入は任意】
記事にある、
「PTAへの加入は任意のはず。意思表示が必要だ」
は、PTAから抜けたいがひとりだけで抜けるのは嫌な人たちの常套句で、十数年前からネットに流布するようになったものだが、間違っていないだけに始末が悪い。
この人たちの熱心な働きかけに市町村や市町村教委が折れて入学式の際、PTA会長や校長がわざわざ時間をとって「PTAは任意団体だから加入するかしないかは自由である」と言わされるようになってから面倒なことになった。
本来はその場でPTAの必要性を縷々語り、PTAがなくなると学校がどれほど困るかを説明した上で、
「任意団体ですからPTAに加入するかしないかは個人の自由ですが、学校及び子どもたちのことを考え、是非ともご加入ください」
とか一席ぶてば事態はずいぶん違ったものになったはずだ。しかし4月当初の忙しい時期、そこまで十分に手が回らないというのも事実だろう。
自由ですと言われれば入らない選択をする保護者は一定数いる。毎年1割ずつ減って行けば1年目で9割、2年目が8割1分、3年目が7割3分で4年目は加入率6割少々。6割をきったらあとは雪崩を打ってゼロに向かっていく。拾い上げた松本の中学校はそれよりはやく見切りをつけたということだろう
【聞けばいらないと言うに決まっている】
しかしそれにしても、
解散と新たな有志団体を設けることへのアンケートを実施
とは、あまりにも安易だ。
新たな有志団体を設けるなどとすでに見通しがあるかのように言うからみんな不安にもならず賛成票を入れたりするのだが、そんなものは絵に描いた餅だ。そもそも誰が有志を集め組織化し維持するというのか。現在のPTA役員が責任をとって立ち上げてくれるだろうが、その先はずっと教員の仕事だ。
PTA解散と言ってもPTA作業やらバザーやらPTAが担っていた仕事の多くが残るわけで、それは来年度も確実に残っている「T」と集まるかどうか分からない「有志」の仕事となる。少なくとも教員の仕事は確実に増える。
【Tは働かせ放題だからいいが、金のないのは困る】
もちろん教員は「定額働かせ放題」だから仕事を増やしてこき使うのはかまわないが、困るのはPTA会費をあてにしていたこれまでの活動の始末である。
新入生や卒業生のリボンは有名だが、PTA作業に代わる「T(教師)+有志の会作業」のためのペンキ代などはどこから捻出すればいいのか?
- 長い学校の歴史の中でじりじりとPTAに頼るようになっていた校舎や体育館・グラウンドやプール等の学校施設の整備にかかる経費や維持修繕経費
- 校内や敷地内の環境整備にかかる経費
- 学校施設内の給排水設備等設備整備や維持・保守にかかる経費
- 備品の整備や修理にかかる経費
- 部活動や清掃等に必要な物品の補充等々・・・
私はPTA会費から割れたガラスの修繕費を出してもらったことがある。学校には2万円~5万円というガラスが数百枚もあるというのに、ガラス修繕費は年10万円しかないからだ。そのうち5万円を入学式前日に使ってしまった年のことだった。
「公費で払うのが筋だ」と言うのは簡単だ。しかし言ったところで出てくるものではない。取り上げた記事の学校は生徒数700名というなかなかの大校。兄弟で通う子もいるから家庭数は500ほどとして、PTA会費が1家庭2000円だとすると総額100万円。他にバザーや資源回収から入る収入、保護者に働いてもらうことで浮いてくる人件費を考えると膨大な額を頼ってきた。――もちろん望ましいことではないが、現実はそうだ。
記事の割愛した部分には
松本市の臥雲市長は、筑摩野中PTAの決断を前向きに捉えている
とあったが、その松本市長でさえ当該中学校に100万円以上の余分な予算配当をすることはないだろう。そんなことをすれば他のすべての学校でPTA会費の徴収ができなくなり、市の予算は膨れ上がってしまうからだ。
さて来年度の不足分、当該中学校はどう補填していくのか。
【PTAをなくした問題性はこれから見えてくる】
PTAがなくなって学級PTA会長もいなくなると、保護者は学校への足掛かりを失う。
「ねえ、あの件どうなっているのよ、あなた学級会長なんだから先生に訊いて来てよ」
といったこともなくなる。
学級レク・学年レク・PTA作業や行事のお手伝いもないから、それを通してパパ友・ママ友関係を培うということもなくなる。何か大きな事件が起きても保護者側に立って最初から介入できる人がいなくなる。市教委・県教委へのパイプが一つ減る、
――等々の問題は実際に動き始めてのことだ。
記事の割愛部分にも、
4月からPTAによる通学路の見守りなどがなくなる。吉沢さんたちは「フィードバック委員会」を設けて、解散の効果や影響を検証していくことにしている。
とあったが、見守りと事故の関係など、実際に事故が起こらない限り検証などできるはずがない。吉沢氏はさらに続けて「なくなって本当に必要なものって見えてくるかもしれない」と言ってまったくその通りなのだが、一度なくしたPTAを再興するのは容易ではないだろう。
旧習を守り保守的であることは常に愚かとされる。斬新で先駆的で勇気ある試みはたいていの場合に賞賛されるが、こと教育に関しては好ましいことではない。
「あれは失敗でした、ゴメンナサイ」
では取り返しがつかないからだ。
少なくとも私の孫たちの通う学校では、右顧左眄、あたりの様子を窺って「これなら大丈夫」と十分に思える段階になってから、初めて真似してくれるのが良いと私は思っている。
(参考)