キース・アウト

マスメディアはこう語った

「沖縄の教師は飛び抜けて恵まれているから大丈夫」という偽情報は、どのようにして生まれたか

(写真:フォトAC)

記事


教職員に「ゆとりがある」62% 管理職に聞くと84% 現場と認識にギャップ 沖縄県教育庁
(2025.04.18 沖縄タイムス

www.okinawatimes.co.jp


沖縄県教育庁は17日、教職員の働き方改革推進計画の2024年度の成果を公表した。公立学校の教職員対象のアンケートで、「個人の裁量(ゆとり)ある時間の確保ができている」と肯定的に回答したのは62・7%だった。他の4項目では26年度末までの目標80%をクリアしており、教育庁は裁量の確保へ「さらなる取り組みが必要」との見解を示した。

(以下略)

【この結果は“常識”に反する】

 ものごとには“常識”というものがある。
 職員の62・7%もが「個人の裁量(ゆとり)ある時間の確保ができている」と答え、94%が同僚・管理職との良好な人間関係があり、児童生徒との信頼関係が構築されている(92・6%)。その上、研修や教材研究が充実していて(80・8%)、心身の健康の確保と安全・快適な職場環境がある(82・6%)。
 そんな居心地の良い沖縄県精神疾患で休職の教員、沖縄がまた全国ワースト 全国平均の2倍以上続く 休職者数は過去最多更新」2024.12.21琉球新報)で、沖縄県高教組(県高校障害児学校教職員組合)がアンケートで訊けば、
『「教員のなり手の確保」について約68.1%が「進んでいない」と回答し、「校務分掌の負担軽減」や「長時間勤務の改善」についても多くの教職員が課題を感じている』2024.12.18沖縄タイムス
というのだ。
 また、『23年度は那覇市の小中学校全教員が対象の調査が行われ、メンタル不調を感じたことがある教員の69・3%が「職場に要因がある」と回答していた』2024.10.03 琉球新報
のである。

 今日、引用した記事は「個人の裁量(ゆとり)」について管理職と一般職の間で22%もの評価の差があることを問題にして「現場と認識にギャップ」と記したようだが、これまで報道されてきた沖縄の学校の現状と差の方が、よほど大きな問題ではないか。
 これほど恵まれた職場で心が折れてしまうとなると、沖縄の教員はどれだけ甘く育てられるのだということになりかねない――。

【沖縄の教員は本当に暇なのか?】

 一般的に言ってアンケートというものは意図がある。
 前述の高教組の場合は「教職員の窮状を明らかにし、待遇改善につなげたい」という意図があるから質問の文言もそれなりの傾斜をかけるし、意図しない結果が出たら質問項目自体を隠すことだってできる(沖縄高教組がそれをやったという訳ではない)。そうした観点から見ると、沖縄県教育庁が公表したアンケート結果は、
「児童生徒・同僚などを含む学校内の人間関係および研修や研究、職場環境についてはほぼ問題ない」(ただし裁量ある時間(ゆとり)の確保に関しては、「さらなる取り組みが必要」《イマイチだったかな?》)
といったニュアンスを公表するために採られたものだと考えることができる。つまり働き方改革は概ね良好に進んでいるということだ。

 だとしたら問題は、そんな「教員の働き方改革」の手を緩めさせるような数値を、なぜ沖縄の教員たちは教育庁に渡してしまったのかということである。教育庁のアンケートに「暇だ」と答えていいことなんかひとつもないと、警戒するのが当たり前ではないか――。それが分かっていながら6割以上が「ゆとりがある」と答えるのだから、沖縄の学校はほんとうに暇なのか、アンケートに罠があるのか、はたまた単純に何かの間違いがあったとしか思えない。

【どちらかにつけろと言われれば……】

 実感と異なる結果になった理由のひとつは、アンケートの答え方にある。「どちらとも言えない」といった中間(もしくはどっちつかず)の選択肢がなく、基本的に「当てはまる」か「当てはまらないか」の二者択一が、肯定的な回答を多く導き出した可能性があるあるのだ。

 例えば「同僚・管理職との良好な人間関係」や「児童生徒との信頼関係」。それができている相手もいれば、できていない相手もいる。その意味では「どちらとも言えない」が適切だが、「できる」「できない」の二者択一となると「できている」を選ばざるを得ない。
 「できない」を選択したにもかかわらず「戦うこと(闘争=fight)」もしなければ「脱出(逃走=flight)もできないないとしたら、それは意気地なしということだ。ダメな人間だと自認することだ。それよりは「(どちらかといえば)うまく言っている」と書いた方が、気持ちの上で落ち着く。
「研修や教材研究は充実していますか?」と問われて「やっていません」「あまり熱心ではありません」はいかにも座りが悪い。「心身の健康の確保と安全・快適な職場環境はあるのか」と訊かれて、「ない」と答えれば「だったら自分でやれよ、環境はつくれ」という話になりかねない。
 いずれにしろ現状は肯定しやすく、否定しにくい。

 ただそれでも、「“現状に満足しています”という回答を教育庁に上げれば、働き方改革にブレーキがかかるかもしれない」という危惧は当然浮かぶのに、沖縄の教職員はこんな肯定的な答えを、唯々諾々と渡してしまったのか――そのことの十分な説明にはならない。

【ストレス・チェック・アンケート?】

 引用した沖縄タイムスの記事は朝日新聞その他に転載され、そのうちのひとつ「yahooニュース」には多くの疑問の声が寄せられた。そのコメントのひとつに次のようなものがあった。
「このアンケートってストレスチェックアンケートだったんじゃないかな?
自分の記憶が確かなら裁量とは書かれていたけど、(ゆとり)とは書かれていなかったような。。。」

――これだ、と私は思う。ストレスチェックだったら肯定的に書かざるをえない。否定的に書いても医師に診てもらうよう、校長から指導されるのがおちだ。制度的に現状が変えられることはまずない。だったらどうでもいいや、面倒なことにならないよう、いい方に書いておけ――でこんな結果になったのかもしれない。
 まさか「沖縄はうまくやっている」という証拠に使われるとは思わないから――。