キース・アウト

マスメディアはこう語った

まず隗(かい)より始めよ:新しく人を入れる算段より、今いる人間をやめさせない算段。優秀な人間を採用する算段より、育成し終わった教員を失わない算段。その方がよほど重要だと、みんな分かっているはずなのに、ね。

(写真:フォトAC)

記事

 

 都の新任教諭239人が1年以内に退職 過去10年で最高の5.7%
 (2025.04.24 朝日新聞

www.asahi.com

 東京都教育委員会は24日、昨年度採用した公立学校の新任教諭のうち、1年以内の退職者が約240人いたと明らかにした。全体の5.7%を占め、過去10年で最高という。
 (中略)
 9割にあたる217人が自己都合退職で、理由別には、精神面での不調が4割、転職などによる進路変更が3割、介護や転居など家庭の都合が1割だった。指導力不足などから正式採用に至らなかったのは22人だった。
 (以下、略)

 上司から綱紀粛正みたいな話がでると、ちょっと物知りの半可通の若者が陰で、
「まず隗(かい)より始めよというじゃないですか。とりあえず自分から襟を正してほしいものですね」
と言ったりする。確かに今の日本ではそうした使い方をする。しかし本来は違うのだ。この話は中国の古書「戦国策」にある逸話に由来するが、元はこうだ。

 紀元前4世紀の末頃、燕(えん)の国は隣の斉(せい)の国に国土の大半を占領され、国王までもが殺されてしまった。そこで、次に即位した昭王(しょうおう)は、何とか国の力を回復させようと考え、そのためには優れた人材を集めることが重要だと思い立った。そこで宰相の郭隗(かく・かい)に相談した。すると、隗はこう答えた。
「昭王よ、こんな話があります。
 昔、ある王がどんなに大金を使ってでも1日に千里を走るという名馬(千里馬)を買おうと考えて人を遣いましたが、3年たっても見つける事ができませんでした。すると宮中にいたひとりの男が進み出て、私が見つけてきましょうと言います。そこで王は千金を渡して買いに行かせたのです。
 男はほどなく千里馬を見つける事ができましたが、一足違いで、すでにその馬は死んでしまっていたのです。しかたないので男は死んだ馬の骨を五百金で買って戻ってきました。もちろん王は死んだ馬を五百金も出して買ってきたことに激怒しますが、男はうろたえることもなくこう言ったのです。
『大丈夫です、あわてずに少しお待ち下さい。人々は“王は死んだ馬にさえ五百金も出したのだから、生きた馬であればとんでもない高値で買うだろう”、そう考えて、やがて続々と良い馬を持ってくることでしょう』
と、はたして1年も経たないうちに千里馬をたずさえた者が、3人も現われたそうです。
 今、昭王が賢者を集めたいとお思いならば、まずこの私(隗)を重く用いてください。あの凡庸な隗でさえとんでもない厚遇を受けているのだからと、全国の有能な士が次々集まる事でしょう。」
 昭王はその話を聞き、隗のために立派な宮殿を建て、特に厚く遇した。するとうわさは各国に伝わり、趙(ちょう)の名将である楽毅(がくき)や政治家の劇辛(げきしん)、陰陽学者の鄒衍(すうえん)などの優れた人物が続々と集まりはじめたのである。そしてついに昭王は斉の国を破るだけの国力を得ることに成功したのだった」

 この4月、とりあえず東京都は小学校で欠員のない状況で出発することができたという*1。予算潤沢な東京都のこと、高い初任給や手厚いサポート・アシスタント体制で何とか人数を確保できたということらしい。しかし昨年度の様子を見ると採用状況には穴が開いているのだ。

 穴の開いたヤカンにいくら水を注いでも満水ということにはならない。

 新しく人間を入れる算段より今いる人間をやめさせない算段。
 優秀な人間を採用する算段より、育成し終わった教員を失わない算段。
 その方がよほど重要だと、みんな分かっているはずなのに――ね?