キース・アウト

マスメディアはこう語った

いくら文科省が脅し、教育委員会が叫んでも、教員の労働時間が減らないのは、忙しさにかまけて見ないふりをしていた仕事が次々と溢れ出てくるからだ。

(写真:フォトAC)

記事

 

平均11時間勤務、9割が隠れ残業 やはり過酷だった、教員の勤務実態調査
(2025.07.30 OVO) 

ovo.kyodo.co.jp

 学校教育の現場は、未来を担う子どもたちを育てる大切な場所。そこで働く教員は、主役の子どもたちと一緒に未来を創っていると言っても過言ではない。だが、長く言われてきたことだが、相変わらずその勤務の実態はかなり厳しい。教員向けWebメディア「みんなの教育技術」(小学館・東京)が実施したアンケート調査では、平均の勤務時間は11時間、9割が隠れ残業をしており、法定の勤務時間を上回る勤務が常態化しているようだ。
(以下、略)

 

【実態はどうなのか】

 「勤務時間」を問われたら実労働時間(〔職場にいる時間〕-[昼食+休憩時間])を答えるのがふつうである。ただし教員の場合は法律*1に定められた休憩時間(45分*2)は2時間目と3時間目の間の20分休み、及び給食時間中に設定されているものの、実際には日記を見たり宿題をチェックしたりで有効に使っていない場合がほとんどである。したがって8時15分出勤、17時退勤でも実労働時間は8時間45分となる。それをそのまま報告しているのか、それとも形式上取得していることになっている45分を差し引いて報告しているのか、それだけでも違ってくるだろう。
 それに「8時15分出勤、17時退勤」という文字面を見ただけでも8時間労働の非現実性は明らかで、8時15分の出勤時刻に合わせて学校に向かっていたのは、生徒と一緒に、にこやかに登校していた、あの伝説の「坂本金八」一人くらいのものである。普通は遅くとも7時30分には出勤し、18時くらいまではどうしても学校にいる。それもかなり時短を頑張った場合で、よほどテキパキやらないと7時半では遅すぎるし18時に退勤するなどおぼつかない。
 そう考えると、平均の勤務時間は11時間、9割が隠れ残業は非常に妥当な数字だといえる。ただしそれも半数以上が週3日以上の持ち帰り残業を行っているという実態を前提にして初めて可能なことだ。

 ちなみに中学校の教員だったころの私は朝6時半までに出勤し、19時半に退勤するのが基本だった。朝は7時から、夕方は19時まで部活があったからどうしてもそうせざるを得なかったのである。もちろん事務仕事や教材研究はすべて持ち帰りとなったから、それも入れると15~16時間の労働が基本となっていた。記事の中にある、
寝る、入浴以外の時間はすべて仕事しているのに、授業準備などが間に合わないため毎日すべてがつらい
は決して大げさな話ではない。
 しかしこれだけ教員の働き方改革が叫ばれている中で、なぜこれほどまでに時短が進まないのか――それには二つ理由がある。

【第一の理由:仕事が減らない、人が増えない】

 第一の理由は仕事がまったく減らないということと人が増えないこと。
昭和の学校になくて現在の学校にあるもの――総合的な学習の時間、全国学力学習状況調査、特別な教科道徳、小学校英語、プログラミング学習、環境教育、キャリア教育、ICT教育、その他「〇〇教育」と名の付く(いわゆる)追加教育。これらは増えこそすれ絶対に減らない。不登校対策、保護者対策、見たこともない仲間が起こした不祥事対策、等々々。それに対し定数法で決まっている教員数はほとんど増えていない。
 仕事は増えても人は増えない――これで労働時間が減るはずはない、という非常に単純な算数の話だ。

【第二の理由:封じ込めていた仕事があふれ出てくる】

 これはあまり大きな声で言えない話なので先生たちも黙っているが、とにかくこれまでは忙しさにかまけて、手をつけずにいた仕事が山ほどあるのだ。それが「教師の働き方改革」で表面上に余裕が生まれた瞬間にあふれ出てきているのだ。分かりやすいところで言えば「よい子の対応」。
 いわゆる「悪い子」たちは口を開けば、
「先生たちは勉強のできる良い子ばかりかわいがって、オレたちのことは見向きもしない」
などと平気で言うが、冗談じゃない。お前たち「悪い子」のために使う時間が膨大すぎて、「良い子」のことなんか、ほとんどほったらかし状態じゃないか。
 教師たちはその状況を自嘲的に「良い子はどうでもよい子」と言ったりしてきたが「良い子」だって伸びたいのだ。余裕ができたらもう少し見てあげたい――それが少しできるようになっている。 
 授業も、ずいぶんいい加減なまま今日まで来てしまった。少し見直して、少しでも手を入れたい。以前から気になっていたあの生徒、まだ何かが起きているわけでないが、今なら声をかけてあげられる。
 見ないふりをしていた教室の壊れた個所の補修、未整理の書類の確認。本当は手も付けていないのにやったことにしていた係の仕事(「資料室の管理係」ってたぶん30年くらいは誰もやってないよね。おかげで不用品置き場だ)。

 前々から手を入れたいと思っていたあの仕事、この仕事、余裕の出てきた今こそすべき時だ――と、そんなふうに考えると仕事は減るどころか永遠に増え続ける。

【これから必要な意識改革】

 文科省もマスコミも、ここから先は「先生たちの意識改革が必要だ」とか言ったりするが、「教師としてすべきなのにやってこなかった」パンドラの箱をいままで通り閉じたまま、「子どものために現在やっていることもやめる」という意識改革が、はたして現役の教師たちに可能なのか?

 むしろ社会や政府の方に、教育のためには金も人も手間も惜しまないという意識改革が必要なのではないだろうか。

*1:「職員の勤務時間、休暇等に関する条例」

*2:上記条例の第6条第一項に「1日の勤務時間が6時間を超える場合においては、少なくとも1時間の休憩時間を勤務時間の途中に置かなければならない」とあるのに、8時間労働で休憩を45分しかとれないことにはとても面倒くさい理由があるので、別に調べてほしい。