(写真:フォトAC)
記事
【教育会議】教員の働き方改革について意見交換 給食の改善策も議論 福岡市長「既成概念を壊す」
(2025.10.27 FBS福岡放送ニュース)
福岡市で27日、定例の教育会議が開かれました。教員の働き方改革や給食の質向上について意見が交わされました。
(中略)
学校給食の質向上については、調理のバリエーションを増やすため、スチームコンベクションや真空冷却機を導入することが検討すべき課題として挙げられました。
毎食提供されている牛乳については、ごはんとの組み合わせを考えて、お茶に変える日を設けるよう検討しているということです。
■福岡市・高島市長
「別の食材でカルシウムを摂取できる方法を模索してもらいたい。既成概念を壊していこうと。」
(中略)
教育委員会では、教員の働き方や給食について引き続き改善策の検討を進めていきたいとしています。
評
「政治とは、仮装して行う利害得失の争いである」~ アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』
【何が争点か】
学校給食について「米飯の日に牛乳が出てくるのはいかにも変だ。正しい和食を取り戻そう」という主張がある。言い出すのはたいていが地方自治体の長、しかも都道府県ではなく市町村の長だ。なぜなら給食・牛乳問題の本質が食文化問題ではなく、財政問題だからである。
慢性的な財政難に苦しむ市町村は、少しでも支出を減らしたい――そこで目を付けた支出のひとつが学校給食の牛乳補助である。「給食補助」という形で全体の中に含める場合もあるが、はっきり「牛乳補助」と銘打って牛乳だけで補助を行っているところもある。牛乳だけの場合、その額1本について4円~10円と大したことはないように見えるが、市全体、年間を通してということになるとけっこうな額になる。
人口20万人、小中学生1万5000人程度の地方都市を想定してみよう。この市の牛乳補助は1日あたり6万円~15万円である。年間200日の給食だとすると総額1200万円~3000万円。そう考えると十分に削減したくなる金額である。
福岡市の場合はさらに特別な事情がある。というのは今年の8月から給食無償化が始まってしまったからだ。1食210円~250円ほどだった給食費が市費で賄われるわけである。そのうち牛乳代はおよそ65円(推定)。4円~10円の補助でさえ削減対象として“オイシイ話”なのに、65円が魅力ないわけがない。
福岡市の小中学生の数はおよそ10万人あまり。牛乳代だけでも1日650万円。年間でおよそ13億円。米飯給食が週3回としてその分の牛乳代を浮かせるとすると5分の3=ざっと7億8000万円もの節約になるわけだ。既成概念を壊していこうと言いたくなる気持ちもよくわかる。
別の食材でカルシウムを摂取できる方法を模索してもらいたい
しかしその検討をすでに10年以上前に行った自治体があることを、高島市長はご存じないのだろうか? 新潟県三条市である。
【新潟県三条市の冒険】
新潟県の三条市は全国有数のコメどころとして2015年から学校給食を週5日の米飯給食(月に二回ほどの麺またはパン)にしようと計画した。その際、米飯給食に牛乳は合わないからやめたらどうかという話が出て、特に牛乳をやめた場合に大幅に摂取量が減ると予想されるカルシウムの不足をほかの食材で補えるかどうかの実験を始めたのだ。期間は完全米飯給食に先立つ半年前の2014年12月から2015年7月まで。その間、学校給食における牛乳の提供を停止して、他の食材によるカルシウム補充の可能性を探った。その結果、不可能ではないがそうとうに問題のあることが分かってきたのだ。
そもそも学校給食法(昭和29年法律第160号)第8条 に基づいて文部科学省が定めた「学校給食実施基準」によると、1回の学校給食で摂取すべきカルシウムは小学校1~2年生で約350mg。学年が上がるにしたがって増えて中学生で約550mgとなっている。もちろんこれだけの量を牛乳1本(カルシウム約220mg)で摂取できるはずはなく、他の食品と合わせて350mg~550mgを越えるように計算されてきたのである。すでに牛乳以外の食品に130mg~330mgのカルシウムが含まれるように献立がつくられている、そこに牛乳分の220mgをかぶせようというのだから容易ではない。
220mgのカルシウムとなると、プロセスチーズならスライスチーズ1.5枚分、ヨーグルトなら1.5個分、しらす干し(半乾燥)大さじ4杯分、桜えび(素干し)大さじ1.5杯分、煮干し体長10㎝ほどの出汁用なら10匹(体長3cmほどの頭から食べるものなら30匹~35匹)、木綿豆腐約半丁、小松菜半束といったことになる*1。
三条市の場合は代替食材として煮干し粉やレバー、大豆、小松菜などが活用された。その結果カルシウムは充足したものの、献立のバラエティーは乏しくなり、おかずも洋風化してしまうという本末転倒の結果となったという。
三条市は結局牛乳の完全な廃止はムリだという結論に達し、しかし「米飯に牛乳は合わない」という主張は曲げなかったため、給食時間以外に牛乳を飲む「ドリンクタイム」を設け、そこで牛乳を提供するという暴挙に出たのだ。
2015年9月に始まったドリンクタイムは多くの学校で二時間目休みに設定されたが、盛夏こそ子どもに喜ばれたものの、遊ぶ時間が減る、職員は予定の仕事ができない、給食着を着る余裕がないので不衛生、特に冬はおなかを壊す子どもも増えて残食も大幅に増える、という問題を抱えながら7年間も続けられ、ようやく2022年に至って廃止、元の給食の時間に戻されたのである。
【福岡市はどうするか】
「過去に学ばない者は、過ちを繰り返す」
ジョージ・サンタヤーナ(誰だ?)はそう言ったというが、福岡市はこの先どうするつもりなのだろう。
既成概念を壊していこうとばかりに、「子どもにはカルシウムが必要だ」といった既成概念も壊して進むのだろうか(ドナルド・トランプならそうする)。腹をくくって牛乳ナシにした場合、代替食材にかかる費用は牛乳65円に対して以下のようになる。
食品名 1食分の価格 備 考
牛乳(200ml) 約 65円 給食用牛乳の平均価格
プロセスチーズ 約 91円 スライス約1.5枚分
しらす干し(半乾燥) 約160円 大さじ約4杯分
桜えび(素干し) 約330円 大さじ約1.5杯分
煮干し 約 80円 出汁用サイズ(大)
木綿豆腐 約 73円 約半丁強
小松菜(生) 約 74円 1束の半分程度
プレーンヨーグルト 約 60円 カップ約1.5個分
さて、どうする? 牛乳より安いのはプレーンヨーグルトだけだぞ。しかも1.5個。
【ところで】
無償化で給食内容が貧しくなるのは仕方ないことなのだろうか?
(答え)
仕方がない。
(理由)
有償の時代、食材費が上がれば受益者(家庭)に被せればよかった。より良い給食、より子どもが喜ぶ給食をと願う栄養士は、献立を貧しくする前に、迷わず給食費の値上げを考えた。上げたところで世間の相場よりはかなり安く、弁当に比べれば保護者の負担も少ない。
しかし給食無償の時代は納税者の負担とならないよう、給食費の上昇は限界まで抑えられる。できれば下げたい。むやみに給食予算を上げれば、学齢期の子や孫を持たない納税者が黙っていない。したがって給食費は低いまま、全体として内容は物価の上昇とともに貧しいものになっていく。
そしてやがては刑務所と同じレベルの質素なものになるだろう。
これを「学校給食のムショ化」という。
*1:学校給食研究改善協会「給食で飲む 牛乳1本分のカルシウム量 を他の食品で摂ろうとすると?」、 一般社団法人Jミルク「牛乳とカルシウム」他