茨城県の教員採用試験が定員割れしそうだという。正規教員まで足りなくなる状況は、当然、講師もいないということ、4月1日に学級担任がいないクラスがたくさんできるということだ。やはり教員の勤務実態を知らせてはだめだ。しかし知らせずに採用するのも詐欺だ。

(写真:フォトAC)

 

記事


県教委の来年度の教員採用 志願者数が採用予定人数下回る
(2022.04.28 NHK茨城NewsWeb) 

www3.nhk.or.jp


 全国の学校現場では教員不足が課題になっています。
 茨城県教育委員会は来年度は新たに900人余りを採用する計画で、現在、出願を受け付けていますが、志願者数は今月25日現在でおよそ600人と採用予定人数を下回っています。

 茨城県教育委員会は来年度、公立学校の教員として新たに923人を採用する予定です。
 全国で教員不足が深刻になっていることから、県教育委員会は日程をずらしてほかの自治体との併願を可能にするなど採用試験のあり方の見直しを進めていて、今回は県外の試験会場を東京、仙台、名古屋に加えて新たに大阪、福岡にも設けるほか、教職大学院の課程を修了した人などは試験の一部を免除することにしています。
 出願の期間は実習助手を除いて来月6日までとなっていますが、県教育委員会によりますと、今月25日現在の志願者数はおよそ600人で、採用予定人数に届いていないということです。
 文部科学省が初めて行った教員不足の全国調査では、去年5月の時点で県内では小学校の12.1%、中学校の24%で教員が不足していて、全国平均を大きく上回っています。

 

 放送されるや否や、大きな反響のあった記事である。
 これまでの教員不足は主として産休代替や療休者の代わりの講師が足りないという話で、正規職員の不足は採用試験の倍率が下がったという文脈でしか語られてこなかった。しかしこの記事は、茨城県で教採受験者の全員を合格させてもまだ300人(33%)も足りないという話なのだ。正規が足りなければ講師もいるはずがない。したがって来年4月には学級担任のいないクラスが県内で300近くにも及ぶという、とんでもない話である。

 

 しかし締め切りまでまだ一週間。これだけ大きなニュースになれば全国から受験生が殺到するということもあるかもしれない。締め切りの5月6日まで、しばらく様子を見てみよう――ということで一度は見送った。ところがSNS上でこれが評判となると、関連してあるとんでもない文書が取り上げられ、議論沸騰となった。それが茨城県教員採用パンフレット「茨城県の先生になろう!」である。
 
 なかでも衝撃的だったのは20代後半の小中学校教員が、1日をどのように過ごしているか、具体的に示したページである。

 二人とも朝7時半までには出勤し、少なくとも午後7時になっても学校にいる。中学校の先生の場合は具体的に「時には学級通信づくりでパソコンに向かうこともあります」とあるから、仮に30分でできたとしても(もちろんありえないことだが)、退勤時刻は7時30分ということになる。職場での滞在時間は12時間。ここから休憩時間の1時間を差し引いても11時間勤務。超過勤務は実に3時間ということになる。これが毎日となると月22日の勤務で超過労働は66時間にもなるのである。
 同じパンフレットの2ページ目にある「目標:超過勤務45時間/月を超える者の割合0% (令和4年度末)」の何と空しいことか。達成できるはずがない。

 

 もしかしたら「こんなありさまですが、是非とも本県の教員になってください」という土下座レベルのお願いなのかもしれないし、超過勤務があまりにも常態なのでうっかり整合性を取り忘れただけなのかもしれない。あるいは「実態はこうですが、超過勤務を大幅に減らせと政府が言うのでとりあえず書いておきます」といった小さな抵抗なのかもしれない。
 いずれにしろ茨城県教委がウソつきなのかバカ正直なのか、よくわからなくなる話では、ある。

*もっともパンフレットは一昨年配布された「令和4年度採用試験(令和3年度試験、令和4年4月採用)」用のものであり、今年度受験者のためのパンフレットはネットから探れない。もしかしたら実際には配布済みで、サイト上は批判のためにリンクを外しただけなのかもしれない。今は変なおじさんが解説するつまらない動画になっている(「茨城県の先生になろう!」)。

 

 

スポーツ庁の有識者会議が「部活動の地域移行」を提言する。しかしこの問題、20年以上前から言われているのにうまく行かない。それどころか「地域移行」で教師たちは死の淵に立たされるのだ。そこで私が書いたミニ恐怖小説「部活動の地域移行」。


(写真:フォトAC)

 

記事

「運動部活動の地域移行」来年度から3年間を改革集中期間に スポーツ庁有識者会議が提言案

(2022.04.12 TBSテレビ)

newsdig.tbs.co.jp

 

 公立中学校の部活動改革について議論しているスポーツ庁有識者会議は、「休日の部活動の指導を、来年度から3年かけ、民間団体などに移行する」などとする提言案を示しました。

 

 学校の部活動は少子化などの影響で部員が集まらず存続が難しくなったり、指導する教員に過度な負担がかかるなどの問題が指摘されています。

 

 スポーツ庁有識者会議がまとめた提言案では、公立中学校の部活動について、休日の指導を地域や民間の団体に委ねる「地域移行」を2023年度から25年度の3年間で達成することを目標としました。この目標にあわせ、自治体には具体的な取り組みやスケジュールを定めた推進計画の策定を求め、順調に進めば、平日の部活動でも移行を進めるとしています。

 

 また、地域や民間団体に指導を委ねることで、保護者らの出費が増えることが想定されるとして、学校の施設を低額で使えるようにするほか、経済的に困窮する家庭への国や自治体の支援も求めています。

 

 有識者会議は5月中に提言を取りまとめる予定です。

 

 

 

 まだ「案」だからだろうか、各メディアはあつかいが軽く、重点の置き方も異なっている。

 

 例えば「運動部活動の地域移行」の必要性を、”少子化によって各校の部活動が成り立たなくなっている現状”に求めるか、あるいは”教員の過重労働”に求めるかによってニュアンスは当然異なってくる。その中であえてTBSの短い記事を選んだのは、これが重要な点をいちおう網羅していると考えたからだ。

 

 記事によると、

  • 休日の部活動の指導を、来年度から3年かけ、民間団体などに移行するのは学校の部活動は少子化などの影響で部員が集まらず存続が難しくなったり、指導する教員に過度な負担がかかるなどの問題が指摘されているから

であり、その上で提言案は、

  • 公立中学校の部活動について、休日の指導を地域や民間の団体に委ねる「地域移行」を2023年度から25年度の3年間で達成することを目標とし、
  • この目標にあわせ、自治体には具体的な取り組みやスケジュールを定めた推進計画の策定を求め、順調に進めば、平日の部活動でも移行を進める

としているのである。

 

 しかしこの記事に欠けている部分も多い。例えばNHKが書いたような、
 休日の部活動を実施するための受け皿は、地域のスポーツクラブや民間事業者のほか、保護者会なども想定し、指導者の確保に向けては、資格取得や研修の実施を促し、企業やクラブチームと連携している例を参考にすべきだ
といった「民間団体など」の具体的な記載はなく、信濃毎日新聞のように、
 文化庁有識者会議も吹奏楽や合唱などの文化系部活動の地域移行について検討しており、7月に提言をまとめる見通し。
といった文科系部活への言及もない。

 

 また”学校は地域移行にどうかかわるのか”、その説明もないが、日本教育新聞は、 
 指導者の質の確保のため、指導者資格の取得、研修の実施が必要だとした。量の確保については、部活動指導員の活用や企業・大学との連携、人材バンクの設置の他、指導を望む教員が兼職兼業しやすい環境の整備を求めている。
とある。
 特に最後の部分は教員にとって極めて重要な内容である。

 

【小説「部活動の地域移行」第一章 たらいまわし

 さてここからは想像力の問題だ。
 有識者会議の提案に応じて、文科省都道府県を通して各市町村に指示を出す。
 休日の部活動を地域に移行するため、地域のスポーツクラブや民間事業者のほか、保護者会を調査し、組織して3年以内に活動を始めること、さらに指導者資格の取得、研修の実施が必要であるから、その準備を並行して行うこと。

 

 有識者会議の提案を丸投げされた市町村は困惑する。地域のスポーツクラブや民間事業者といってもあるのはスイミングスクールと音楽教室、幸いプロのサッカーチームもあるし独立リーグの野球チーム、バレーボール、バスケットのチームまである(架空の都市だから)が、いずれも営利団体赤字経営に青息吐息のプロリーグばかりだ。ただで面倒を見てくれと頼んでも、せいぜい月に1度が限界だろう。

 

 一方、市内には6500名もの中学生がいて、サッカーだけでも500人もの参加者がある。これを一か所に集めて指導というわけにはいかないだろう。やはり各校のそれぞれに休日指導組織をつくるしかない。それにしてもサッカー部のある市内15校に15人もの指導者を用意できるか? いまの顧問・副顧問の配置を考えると15人でも足りないくらいだ。

 

 サッカーや野球なら経験者も多く、やってくれる人もいるかと思うが、吹奏楽だの合唱だの、あるいは超マイナーな相撲部なんて果たして引き受け手がいるだろうか?
 ああ、国体の競技招致の時、なんで手を挙げて相撲なんて引っ張ってきたのだろう。あのとき張り切ってほとんどの中学校に相撲部をつくらせたのが間違いだった。大部分は滅びてしまったがまだ1校残っていて、しかも全国レベルだから潰すわけにも行かない。

 

 万策尽きた市町村は保護者に丸投げする。有識者会議の文書にも「保護者会も想定して」とあったからだ。
 保護者の対応は早かった。時と場所を定め、親たちは全員で集まって学校へ向かう。現在の顧問に外部指導者を依頼するためだ。
 もちろん趣旨が違うと顧問は難色を示し、校長も拒否する。団体交渉が何回か繰り返され、子どもを人質に取られている(と思っている)学校側がついに折れる。どうせ教員として別の学校に異動するまでの我慢だ。
 親たちも思っている。先生が代わったらまたお願いすればいいのだ。

 

【小説「部活動の地域移行」第二章 地獄】

 結局なにも変わらなかったじゃないか――と思ったが、そうではなかった。
 休日部活のため、顧問教諭は指導者資格取得のための講習会に出なくてはならなくなり、それからも定期的な講習に出かける羽目になる。
 それよりも大変だったのは、休日部活は民間組織の業務なので、校長や教育員会の指示・命令に服さなくてもよくなった点だ。

 

 「週末の部活動は土日いずれか一日のみ、しかも3時間以内」といった規定はすぐに無視される。市内に毎週土日5時間ずつやっている休日部活があると聞くと、普通の指導者は落ち着かなくなる。試合で生徒に恥をかかせないため、やっておきたい練習メニューはいくらでもあるのだ。向こうが土日5時間ずつだったら、こちらは6時間だ!

 

 順調に進めば、平日の部活動でも移行を進めるということだから学校の部活はなくなってしまう。生徒は4時半にいったん帰宅し、夕食後ふたたび集まって地域移行の部活に参加する。これだと毎日3時間の練習時間が確保できる。

 

 熱が入りすぎて事故や体罰が横行する。しかし体罰も昔なら懲戒免職で学校を去らなくてはならなかったが、いまは民間組織での出来事だから教職まで辞める必要はないだろう。

 ここに至って自治体も教育委員会も慌てる。しかし市の職員を組織に入れて監視するわけにもいかないから、「ここはやはり校長先生に中心になっていただいて・・・」ということになり、学校長が民間組織の長を兼任する。これで教育委員会の指示が通りやすくなり、「休日部活は土日のいずれか1日のみ、しかも3時間以内」も復活する。すべてが元通りになる。

 

 いや待て、すべてが元通りになるわけではない。
 民間部活の指導者は教員として働いているのではない。私人としてやっているのだ。したがって教員としての活動時間は大いに削減される。
 実質的な部活動の時間はとんでもなく増えるが、国への報告では統計上「教員の部活による時間外労働」がゼロになる。教員の休日出勤もほとんどなくなる。
 文科大臣は胸を張って国民に報告する。
「私の代で教員の超過労働は著しく削減されました。どうぞこれからは先生に何でも頼んでみてください。きっと対応してくれますよ。暇ですから」

【やがてノンフィクションになる】

 『小説「部活動の地域移行」』と書いたが、数年経ったらこれはノンフィクション「部活動の地域移行」となる。「時間外労働ゼロ」の最後の部分はおふざけにしても、それ以外の部分は確実にそうなる。絶対にそうなる。

 

 なぜなら今回の有識者会議の提案は、わずか15年前に一度試されているからある。いわゆる「部活動の社会体育への移行」がそれだ。
 やろうとしたことはまったく同じで、教員が社会体育を支えるようになって切羽詰まった。しかも今回はあらかじめ「指導を望む教員が兼職兼業しやすい環境の整備を求めている」というからさらに性質が悪い。最初から教員にやらせるつもりなのだ。

 

 前回の「社会体育への移行」で部活動の一部は完全に無法地帯になってしまった。平日の部活は夜7時から10時まで、土曜日は半日練習、日曜日に練習試合。保護者はもちろん協力的だったが、それは同時に圧力でもあった。

 

 歴史は繰り返すというが、同じ失敗を意図的に繰り返すのは愚かなことだ。しかしそんな愚かなことしか、政府・文科省にはやれることが残っていないのかもしれない。

 

つい最近まで10年おきに更新しなくてはならなかった教員免許が、もはやどうでもいいものになりつつある。東京都がついに免許なしでも教員になれる道を開いたのだ。大国ロシアが隣の小国を踏み潰したように、大東京都が地方の教員採用を破壊する。

f:id:kite-cafe:20220413141812j:plain(ヨースト・ファン・カースベーク 「聖アントニウスの誘惑」)

 

記事

都の教員採用試験、社会人枠は受験時免許不要に

(2022/04.12 日本教育新聞) 

www.kyoiku-press.com
 東京都教委は今夏に行う教員採用試験で、社会人を対象とした受験資格を緩和し、教員免許を持っていなくても受験できるようにする。合格した場合、来年度から2年以内に教員免許を取得することが条件となる。

 対象は、企業、官公庁、学校で、アルバイト・パートでの雇用を含め、2年以上の勤務経験がある人など。既に申し込み受け付けは始まっている。

 

 まさかと思って都の「令和4年度東京都公立学校教員採用候補者選考(5年度採用)実施要綱」確認したが事実だった。
 受験者数の減少に歯止めのかからない教員採用は、いよいよ何でもありの修羅場になろうとしている。

  ひと月前、私は他県の教採不合格者を拾おうとする佐賀県を嘲笑った。

kieth-out.hatenablog.jp

 しかし申し訳ないことをした。東京都がここまでやるなら、その他はさらに禁じ手を繰り出していくしかない。
 46道府県! 何でもありだ。頑張れ!!
(それにしても東京都は、自らの影響力にまるで無頓着な姿勢をなんとかできないのか?)

 

南房総市は市内の小中学校で1日5時間授業を実現するという。夏休みは5日ほど減るが日常の業務はかなり楽になる、はずだった。しかしよく調べると学校の負担増にしかならない欺瞞策。「教育改革はやるたびに教師を追いつめ、学校をダメにする」という原則の典型だ。

f:id:kite-cafe:20220330192250j:plain
(フォトAC)

 

記事

市内小中学校で1日5時間授業を導入 南房総
(2022.03.29 房日新聞)

bonichi.com 南房総市は、市内の小中学校で新年度から「1日5時間授業」を導入する。週2~3日の授業時間を5時間とし、教育活動や日課表にゆとりを持たせ、さまざまな教育活動の向上につなげる。児童生徒の授業時間が減らないようにするため、夏休みを5日間短縮して対応する。全国的にも珍しい取り組みだという。

 市教委によると小中学校では、学習指導要領の改訂もあり、週に29または30コマ(時間)の授業が常態化され、1日6時間授業が行われている。放課後の時間が取れず、児童生徒にも教職員にとっても学校活動にゆとりがないため、“空き時間”を確保しようと、市では1日5時間授業を導入することとした。

 5時間授業を導入することで、その日は昼休みを長くとったり、放課後の時間をつくったりして、子どもたちに遊びなどの中で人間関係の深化や主体性の伸長、活動の多様化といった、小中学校におけるより良い成長を図る活動に充てる。

 教職員については、会議や研修の時間を無理なく確保し、長時間勤務の解消だけでなく、授業研究、校内研修、教材研究を行い、力量向上につなげることも狙い。
(以下略)

 

 多忙とは何か。

 簡単に行ってしまえばそれは「仕事が多すぎて」「時間が足らず」「人手も足りない」状況のことである。したがって対応策も簡単で「仕事を減らす」「時間を増やす」「人を増やす」のいずれかを改善すればいいだけのことだ。しかも三つすべてに手をつける必要はなく、ひとつを劇的に改善するだけでも構わない。

 教員の働き方改革に関する基本的な考え方も同じで「三つにひとつ」なのだが、さて、どれがいじれるのか。

【良いことはなくせない、増えるのみ】

 学習指導要領に示された学習内容に悪いものはない、不必要なものもない、したがって減らすことは容易ではない。かつて一度減らしてみたが「ゆとり教育は教師のためのゆとりか」とさんざんに叩かれて結局ひっこめた。文科省は二度とあんな冒険はしない。つまり内容は減らさない。

 

 昨夜のニュースでは高校の教科書検定の話が出たが、今回の目玉は「探究」だとか。これからの時代は知識だけではダメだ、問題を発見し、調査し取材し、資料を検討して仲間と議論し合い、その上で解を導き出す探究の力こそ必要なのだという。

 ここで重要な点は「知識『だけ』ではダメだ」である。「知識は不要」とも「知識の獲得はそこそこに」とも言わない。「知識がある」ことはすでに前提で、「探究」はその上に目指すべき新たな力、つまり期待される追加の能力なのである。

 指導要領は改訂されるたびに内容が増える。これでは教師の仕事が減ることはない。

【100兆円つぎ込んでも教員を劇的に増やすことはできない】

 教員を増やす試みはどうだろう。
 もちろん増員は必要だが、1000人や2000人増やしたところでどうなるものでもない。現状を変えたいならせめて2割、できれば3割以上の増員が欲しいところだ。

 現状から2割ないし3割の増員、それは教師を20万人から30万人も増やせという要求だが、予算もさることながら、応募してくる人がいない。現在でも採用試験の受験者が不足しているのだから、1万人の増員すらできるものではない。

 その分を外部委託で凌ぐと言っても、吹奏楽だのバスケとボールだのを指導をしてくれる人材が、各地に何人いるというのか。プリントの印刷や配布の仕事をボランティアになどのアイデアもあるが、だれが人を探しに行くのか。結局PTAにお願いして保護者のPTA離れを加速するだけのことだ。

 絵に描いた餅はいらない。教員の働き方改革に資するほどの教職員の増加など、絶対にありえない。

【可能なのは授業日数を増やすことだけ】

 こうなると可能性は、時間(日数)を増やすこと以外になくなる。一日の授業時間を減らして過重労働を緩和し、減らした授業時間分を、長期休業を減らすことで回復する――南房総市の結論は、ここまでは私の結論とほぼ一致する。

 

 基本的な発想は、教師も児童生徒も学期中は忙しいが長期休業中は比較的に暇だ、ということから始まる。同じ地点から文科省は「長期休業中に休暇のまとめ取り」といったつまらない発想をしたが南房総市は違った。

「繁忙期の仕事を閑散期に移せばよい」

(1日6時間の授業が常態化しているために)放課後の時間が取れず、児童生徒にも教職員にとっても学校活動にゆとりがないため、“空き時間”を確保しようと、市では1日5時間授業を導入することとした。

 これこそ至極まっとうな考え方ではないか。すばらしいことだ。

 

 週2~3日の授業時間を5時間とし、教育活動や日課表にゆとりを持たせ、さまざまな教育活動の向上につなげる。児童生徒の授業時間が減らないようにするため、夏休みを5日間短縮して対応する。全国的にも珍しい取り組みだという。

 なるほど、これで放課後の2~3時間(一週につき)を職員は教材研究や事務仕事にあてることができる。中学校の教員は時間外の部活をやらずに済む。すべて万々歳とは言わないが、これでかなり楽になるはずだ。

 

 しかし実際問題として、週2~3回の5時間授業で不足した授業を、夏休みの5日間で回復できるものだろうか?

教育改革はやるたびに教師を追いつめ学校をダメにする

 私の試算によれば、これはできない。

 南房総市は週2~3日の授業時間を5時間としと言っているから仮に二日間だけ5時間授業にしたとしよう(週に2時間の減)。

 平均的な学校は現在およそ40週(200日)を登校日としているから、毎週2時間の授業時間減は年間で80時間減である。すると単純な計算で、夏休みに毎日5時間の授業を行っても80時間の不足を補うには16日間も登校しないといけないことになる。

 児童生徒の授業時間が減らないようにするため、夏休みを5日間短縮して対応するなど、とんでもないまやかしだ。

 

 さらに記事で私が割愛した部分には、

 学校再編で増えたスクールバス通学の子どもたちの運動量や体力向上の機会を設ける他、中学校では空いた6時間目に英語検定やプログラミングといった特設講座を開くなど、より多様な学習機会を提供することが可能だという。

という記述もある。

 つまりせっかく週5時間授業にしても、放課後(旧6時間目)には何らかの活動を入れ、児童生徒は家庭に戻さない、教員も子どもたちから離れさせない、夏休みは5日ほど減り、教員は特設講座などの新しい取り組みを計画し、準備し、実施しなくてはいけない。

 

 児童生徒にも教職員にとっても学校活動にゆとりがないため、“空き時間”を確保しよう
として、その上で“空き時間”教師の負担で埋める計画なのだ。

 結局、子どもが家にいては困る家庭のために、夏休みに5日間も学校が面倒を見てくれる行政サービスが増えただけの話だ

 

「(それがたとえ『教員の働き方改革』の場合でも)、教育改革はやるたびに教師を追いつめ、学校をダメにする」

という原則がここでも貫かれている。

 

 なお、私の提唱する“毎日5時間授業”は以下に示してある。教職員は誰も賛成してくれないだろうが、日常の負担軽減となればこれしか方法はない。

kite-cafe.hatenablog.com

kite-cafe.hatenablog.com

kite-cafe.hatenablog.com

秋田市内の教諭が、児童の成績の入ったUSBを紛失したと大騒ぎ。しかしなぜそんなものを持ち帰って家で成績をつけようとしたのか、理解できない人は案外多いのかもしれない。

f:id:kite-cafe:20220322195913j:plain

(写真:フォトAC)

記事

市立中の女性教諭、生徒の成績入ったUSB紛失…自宅で成績付けようとして気づく
(2022.03.20 読売新聞)

www.yomiuri.co.jp
 秋田県北秋田市教育委員会は18日、市立中学校の女性教諭が生徒の名前や学習成績などの個人情報を保存していたUSBメモリーを紛失したと発表した。データの外部流出は確認されていないという。何人分の情報なのかは学校の特定につながるとして公表していない。

 市教委によると、教諭は2月4日、USBをバッグに入れて帰宅。自宅で成績を付けようとしたが、USBが見つからなかったという。佐藤昭洋教育長は「生徒や保護者の信頼を損ない、おわびする」と陳謝した。

 

 世のサラリーマンで、仕事を家に持ち帰ってやるという人はどの程度いるのだろう?
 多くの企業は組織として仕事をしているから個人が持ち帰ってということはそうはないと思う。終わらない仕事は会社でやれば残業手当もつくし、目に見えるから評価にもつながる。それを家に持ち帰ったのでは元も子もない。


 さて、そうしたことを前提に、記事の、
「教諭は2月4日、USBをバッグに入れて帰宅。自宅で成績を付けようとした」
 この部分を世間の人たちはどう理解するか。
「この教諭、能力がないことがバレないように、隠れて仕事をしようとしたな」
とでも思うのだろうか。あるいは、
「よほど人間関係に問題があって学校にいられないのかもしれない」
「勤務時間内に仕事が終わらないなんて、だから教師はダメなんだ」
「教員の能力低下が言われて久しいが、ここまで落ちているとは思わなかった」
 そんなふうに考えるのかもしれない。


 そう言えば私自身が小中学生のころ、長期休業の直前に1週間程度の半日日課があった。忘れていたが人々は「あれは子どものためではなく、先生たちが成績をつけるための半日休みだ」と噂し合ったものだ。 

 しかしもちろん現代では許されない。”子どもが1週間も半日日課で帰ってくるなんて! その時間の子どもの面倒は、誰が見るのだ”と、地方議会議員まで動員しての反対運動が起こるに違いないからだ。

 

「都立高校のブラック校則全廃」と聞いてビビったが、内容は大したものではなかった。要するに古くなった項目は捨て、表現をもう少し洗練させればいいというだけのことだ。しかしそれにしても、世の中の人たちはこんなどうでもいいことに、なぜかくも熱心に取り組むのだろう。

f:id:kite-cafe:20220312091635j:plain(写真:フォトAC)

記事


都立高のブラック校則全廃 22年度で ツーブロックや下着の色
など
(2022.03.10 毎日新聞

mainichi.jp

 

 東京都立高校を中心とする都立学校が、地毛でも髪を一律に黒く染めさせるなどの校則5項目について、2022年度に全廃することが明らかになった。都教育委員会が10日の定例会で報告した。廃止する校則はこのほか、下着の色を指定する▽頭の側面を刈り上げ、頭頂部の髪を伸ばす「ツーブロック」を禁止する――など。生徒と学校側が話し合い、延べ196課程で見直しを決めた。学校の理不尽なルールを「ブラック校則」と呼んで問題視する動きは各地に広がる。都立学校は4月からホームページで校則を公開する。

 

 都教委は「ツーブロック禁止」など、必要性が疑われる校則を6項目にわたって提示。高校を中心とした全都立学校196校の全日制、定時制など計240課程に対して21年4月、該当する校則の有無を調査した。その結果、延べ216課程で同趣旨の校則があることが判明した(複数項目に該当する場合、それぞれ1課程と計算)。

 

 都教委は学校側にこれらの校則の必要性を点検するよう通知。各学校で生徒会役員と教員が意見を交わしたり、保護者から聞き取りをしたりした結果、21年12月までに延べ196課程が該当する校則の来年度からの廃止を決めた。6項目のうち5項目は全ての課程が廃止する。

 

 ◇地毛証明書の任意提出は残る

 一方で、生まれつき髪が黒くない生徒や、くせ毛の生徒に「地毛証明書」を任意で提出させる校則については、35課程が廃止を決め、20課程はそのまま残す。生徒や保護者から「届け出を残してほしい」という声があったという。

 

 10日の都教委定例会では、教育委員から点検を評価する声が相次いだ。北村友人委員は「生徒たち自身が主体的に考えて物事を決めていく環境が尊重されることが大事。大きな一歩だと感じる」と述べた。

 

 山口香委員は「すばらしい取り組みだが、ここまで時間がかかったのは残念」とした上で、「日本人はルールをただ守ることが美徳だという教育をされてきた。みんなで納得してルールを守る社会をつくるにはどうすればいいか、議論するきっかけになれば」と話した。【竹内麻子】

 

 ◇都立学校の校則

 ※丸括弧の数字は、その校則を設けている課程の数で、21年4月と22年度以降

  • 髪を一律に黒く染める(7→0)
  • 「地毛証明書」を任意で提出する(55→20)
  • ツーブロック」を禁止する(24→0)
  • 謹慎は校内の別室ではなく自宅で行う(22→0)
  • 下着の色を指定する(13→0)
  • 「高校生らしい」などの曖昧な表現で指導する(95→0)

 

【ポニーテールにうろたえるな】

 つい最近、鹿児島市内の女子高校生が中学校時代、担任の女性教師に「ポニーテール禁止は何のため?」と訊ねたら「男子がうなじに興奮するから」と答えたという話がネットで話題となった。

 本当にそんな答えをしたのかはなはだ疑問だが、事実だとしたら“生徒の質問に迂闊に答えるからこういうことになる”というたぐいの話である。私だったら、

 「そうだよね、よく分からんよね。でもこの校則ができたときほとんどの先生が反対しなかったわけだから、そこには何らかの理由があったはずだ。ぜひ調べて先生に教えておくれ」

 そんなふうに答えておく。その上で私自身があちこちの先生に訊きまくって、納得できる理由があれば次回に生かし、なければ生徒をけしかけて「ポニーテール禁止条項反対運動」でも起こさせればいい。たいていの生徒は面倒くさくてやらないし、万が一始めたとしても納得できる理由のないことは確認済みだから職員会でもすんなり通ってしまうだろう。

 それにしても今どき、教師と戦争してまでもポニーテールにしたい娘なんているのかね?

 

【「ブラック校則全廃」の実相】

 さて、今回の記事だが、ブラック校則を「全廃」するというのでかなりビビったが、内容を見ると穏やかなものだった。

 生来の赤毛までも「一律に黒く染める」ようでは明らかに行き過ぎで、「地毛証明」を出した上で、のまま学校生活を送ってもらえばいい。生徒の中にはやっかんでいろいろ言う子がいるかもしれないが、その時こそ水戸黄門の印籠よろしく「地毛証明」を出して見せればいいのだ。そのための証明書じゃないか。

 

「『高校生らしい』などの曖昧な表現で指導する」だって問題はない。少々たいへんだが文言を変えればいいだけのことだ。

 

「謹慎は校内の別室ではなく自宅で行う」

 これについてはなぜブラックなのか分からないが、“我が家の不良息子がひとりで家にいる”と考えただけでも気絶しそうになる保護者にとってはブラックだ、ということかもしれない。

 学校だって“わが校のヤンチャ生徒が別室に一人でいる”と考えただけでも教師は震え上がる。しかしこれだって空き時間の先生がべったりついて指導すればいいだけのことだ。そのぶん負担は増えるが、「教員の働き方改革」なんて最初から絵に描いた餅だ。次々と教師が倒れ、校内で教員の定数割れが起こればまた別の動きが出てくるのかもしれない。それまで、みんな頑張ってくれ。

 

【ツーブロ・カラー下着の賞味期限は切れた】

 さて問題は「ツーブロック禁止」と「下着の色指定」だ。私もつい先日、「ツーブロック禁止も必要だ」みたいな文書を書いたばかりなので気が引けるが、よく考えてみたらこれももはや、どうでもいいことになっていた。賞味期限が切れている。

 

 これらが校則になったのは実はその形状や色のためではない。ツーブロックとカラー下着が、反抗のシンボルだったからだ。

 大昔から辿れば、喫煙や飲酒、長ランや短ラン・ボンタン、茶髪にガングロ、ルーズソックスにミニスカート、逆にロング。ピアスにタトゥー、木刀にバタフライナイフ――これらすべては一部の先鋭な子たちが、フツーに勉強しフツーに生活する子たちから自らを差別化し、徒党を組んで他を圧倒し、威圧し、もってアイデンティティとするための道具だった。だから禁止対象となった。ところがこれには流行り廃りがあって、いつかその役目を失う。

 ルーズソックスにミニスカートはフツーの子が大量に参入することによって差別化の意味を失う。タバコは今も反抗のシンボルだが、少々値が張りすぎてたいへんだ。茶髪にガングロは今となっては子どもですら意味が分からない。そしてツーブロックにカラー下着の時代が来て、いま終わろうとしている。

 

 ツーブロックはフツーの子の穏やかなツーブロに侵食されて、どこからが不良なのかよくわからなくなってしまった。だからこれで差別化を図ろうとしたら昔のXジャパンくらいにとんでもなく髪を逆立てなくてはならない。そうなるともう誰もついてこられなくなるから教師は与しやすくなる。恐ろしいのは影響を受けた子たちが次々とあちら側に行ってしまうことで、誰もついて行けない不良は個別に指導すればいいだけのことだ。校則として維持するまでもない。

 

 カラー下着は謎だ。

 一般には教師たちがスカートをまくって下着検査をしたということになっているが、それで黙っている親も娘もないだろう。どこかでそんなことが起これば校名付きで全国ニュースになったはずだがそんな例はない。校則だからといってひとの子のスカートをまくって、セクハラ教師の汚名を着せられ懲戒免職になってもいと思うほど生徒指導に熱心な教師はいなかったのだろう。

 

 問題はスカートの中の見えない下着ではなく、上の方で透けて見える下着だ。一部の女の子たちがわざわざ透けるブラウスをみんなで揃え、その下にパステルカラーの下着をつけて結束の証とする――ガングロも茶髪もカラーギャングも色にこだわったから分からないでもないが、変なジジイの視線を限りなく引き寄せるあんな服装が、一時期とはいえ流行したこと自体が不思議だ。それで流行は意外と短く、いまやほとんど見かけることはない(というか、私はもう5年以上見たことがない)。

 

 要するにツーブロック・カラー下着が非行文化であった時代は終わった。だから禁止することもない。これを校則から外し、次に似たようなものが出てきたら改めて禁止する。昔ながらのイタチごっこを続けるだけのことである。

 それにしても東京都教委、さりげなく、うまいこと事態を収めたものだ。

定員に対する教員志望の全国一少ない佐賀県が、いよいよ受験生の落穂ひろいを始めたらしい。

f:id:kite-cafe:20220309130106p:plain

記事

 

小学校教員の秋採用、佐賀県で実施へ 全国最低の競争倍率に危機感
朝日新聞2022.03.09)

www.asahi.com

 佐賀県教育委員会は新年度から、小学校の教員採用試験を従来の夏に加え、秋にも実施するという全国でも珍しい取り組みを始める。受験者数が減って競争倍率の低下が進むなか、人材を確保するための工夫だ。県教委は「全国的にも珍しい」と話す。

 文部科学省によると、ここ15年の県の小学校教員採用試験の倍率は、2010年度の8・1倍をピークに下がり続けている。21年度採用は前年度と同じ1・4倍だったが、全国の都道府県で最低だった。

 県教委は、教員が多く必要な特別支援学級の増加や、団塊の世代の大量退職を補うために採用数を増やした一方で、受験者数が減ったことが要因とみている。これまでは、受験年齢制限と実技試験の撤廃などで人材確保に努めてきたが、依然低下傾向にあり、危機感を抱いているという。

 そこで秋採用に踏み切った。従来の夏採用は5月から募集し、7月に1次試験(主に筆記)、8月に2次試験(主に面接)、9月に合格発表だった。秋採用を採り入れると9月下旬から募集、11月中旬に筆記と面接をまとめて行い、12月に合格発表という流れが加わる。


 競争率が下がった理由として特別支援学級の増加はいいにしても、今さら団塊の世代の大量退職を補うためにはないだろう。団塊の世代は1947年~1949年生まれだから、現在75歳~73歳。佐賀県はこれまで、こんな人たちまで正規職員として留め置いたのか?
 要因の分析は間違っていると思うが、採用数が減らない中で志願者が十分増えない、あるいは減っているという状況には違いはないだろう。しかしそれにしても夏・秋2回の採用試験とは!
 他県で落ちた受験生を再度拾い上げようということだろう。佐賀県の1・4倍の夏試験で合格した受験生よりも、2倍以上の競争率の都道府県で落ちた受験生の方が優秀ということもある。それはそれで筋の通った苦肉の策だ。

 

 苦肉とは本来自分の肉体を痛めつけること、苦肉の策とは、本来、人間というものは自分を傷つけることはないという思い込みを利用して敵を騙す計略のことを言う。兵法三十六計の第三十四計にあたる戦術だという。
“ここまで来たら恥も外聞もない、とにかく教員を集めるしかない”という佐賀県の立場も分かるが、どう見ても本質的な問題解決とは言えない。もちろん佐賀県は先陣を切っただけのことで、全国どこで起こっても不思議のない話ではあるが――。