キース・アウト

マスメディアはこう語った

大学院を2年で終了して就職すると、定年までの期間は普通の大卒より2年間短くなる。失う給与はその最初の2年分ではなく、大卒生が普通にもらう給与の、最後の2年分だ。ボーナスも年金も違ってくる。果たして教職にそれだけの魅力はあるのだろうか?

(写真:フォトAC)

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院修了で奨学金返済免除 教員不足対策、来春から
(2024.03.19共同通信

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 教員不足解消策を話し合う中教審部会は19日、教員になった教職大学院修了者を中心に、院在籍中に貸与された奨学金の返済を免除する制度導入を求める提言をまとめた。文部科学省が詳細な制度設計に着手し、2025年春の新卒採用教員から適用する方針。

 提言では、教員志願者の確保と質の向上が重要と強調。教職以外の大学院修了者でも、学校での実習などを通じて専門性を身に付けた教員を対象にすべきだとした。

 学部生については今後の検討課題となった。委員からは、既に返済支援をしている自治体もあるとして「地域差が出ないよう国が対応してほしい」との意見が出た。

【そもそも打つ手がほとんどない】

 ネットニュースのコメント欄では不評紛々。
 これが根本的解決になるのか、文科省は何を考えているのか、どうやったって教員が増えるわけがない等々。だがそんなことは文科省も十分に分かっている。
 分かっているが教員を増やすのは法律上、容易ではないし、給与を上げようにも予算がない。だったら仕事内容を減らせばいいのだが、偉大な政治家や文科省の先輩が苦労してつくったものを簡単に減らすこともできない。
 いま思えば故安倍晋三総理のもとで成立した「教員免許更新制」も、なくせたこと自体が奇跡なのだ。二度とあんな大規模な変革はできない――と、そうこうしているうちに志願者自体がいなくなってしまった。

 様子を見ればその減り方は、少しぐらいの待遇改善では戻ってきそうにない規模だ。もうておくれ、打つ手はほとんど残っていない。
「院修了で奨学金返済免除」でいったいどれだけの教職志願者が増やせるのか――もともと院卒は少ないうえに、奨学金も全員がもらっているわけではない。もしかしたら対象者は全国で数十人といったちっぽけな話かもしれない。そうでないにしても、この制度のおかげで教職大学院へ進む者が増えるとか、教員志望者自体が増えるとか、そういった話にはなりそうにない。
 それでも、何もしないよりはマシだろう、と官僚は思ったのかもしれない。

【大学院で学ぶ経済的なメリットはあるのか】

 私は高校生3年生のとき、無謀な大学受験をしようとして担任教師にこんなことを言われたことがある。
「あのなあ、1年、浪人をするということはなあ、他の連中より就職が1年遅れるということだ。しかし定年は一緒だから、それはつまり就労年数が1年少なくなるということだよな。
 他の人が38年働けるところを、おまえは37年しか働けない、もらう給与が一年分少なくなるわけだ。しかし考えてみろよ、その1年分は就職初年度の1年じゃなくて、最終年の1年分。他の人が38年目にもらう給与がまるまるもらえないということだ。
 いまから40年近くも先のことだから1年分の給与は1千万円くらいになるのかな? 当然ボーナスも退職金も年金も違ってくる。さて、それでもおまえは浪人してみるのか? もったいなくはないか?」
 私は結局、無謀な挑戦をして低い生涯賃金に甘んじたが、収入の少ないことに覚悟があったかというとそうでもなく、単にだらしなく時を過ごした結果だった。

 恩師の教えを広げれば、学部から大学院へ行くということは2年間浪人すると同じで、失う生涯賃金は2千数百万円にもなる。おまけに大学院に行っていた2年分の学費と生活費――院卒の給与はそれを相殺するほど出してもらえるのだろうか? あるいは下働きのような仕事を免除してもらえるのだろうか?

 
 いずれにしろ「院卒で奨学金返済免除」というこのニュース、検討する価値もないくらいのちいさな出来事だということは間違いない。