キース・アウト

マスメディアはこう語った

教員の働き方改革に真っ向から抵抗し、教師の増員にまったく応じない悪の元凶・財務省。バカだ、無能だと、責め続けたら逆切れをした。市町村こそ金を出せという。その二つに挟まれて文科省は、首をすくめて隠れようとしている。

(写真:フォトAC)

記事

教員が担う必要ない業務、国や教委が強制的にでも整理を 財務省
(2023.05.01 教育新聞) 

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 教員の働き方改革を巡り、4月28日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会で、財務省は「教員が担う必要のない業務については、文科省・教委が強制的にでも教員の業務としない整理をするなど、踏み込んだ業務の適正化を行うべき」と指摘し、国や教委主導でスクールソーシャルワーカーや部活動指導員などの外部人材の活用などを加速させるよう促した。一方、教員の時間外勤務手当を付けることについては、「服務監督者である市町村が教員の給与を負担していないため、勤務時間が長時間化する恐れ(がある)」などと改めて消極的な姿勢を示したものの、教務主任や学年主任など主任業務にあたる一部の教員が長時間勤務であることを問題視。「頑張っている者が報われるような、メリハリの効いた給与体系に見直すことで、若者が教職に魅力を感じるよう変革していく必要」があると指摘し、既存の給与体系を見直す余地があるとした。

 財務省は、先月28日に公表された「2022年度教員勤務実態調査」を踏まえ、小中学校教員の勤務時間について「授業以外の時間が多くを占めており、事務・会議や外部対応などの業務は、相対的に教員自身の負担感が高く、やりがいや重要度が低い」と指摘し、スクールソーシャルワーカースクールカウンセラー、部活動指導員など外部人材を活用することなどに触れた。

 例として、地方財政措置でスクールロイヤーを活用した事例や、奈良県教委や沖縄県教委が保護者宛てに、勤務時間外の教職員対応は原則行わない協力依頼を出した事例を紹介した。さらに「教員に過度な負担を負わせない取り組みを導入・展開することにより、教員を保護する環境を作っていくべき」とし、文科省や教委、学校が一体となり、仕組みづくりを強化するよう求めた。
(以下略)

 実のところ、財務省がこれほどあからさまに怒るとは思わなかったので思わず笑ってしまった。しかし無理のない話でもある。教員の働き方改革について、「財務省が金を出さない」とよほど叩かれているのだろう。公務員はどんな場でも精一杯誠意を尽くして働いている。それをバカだのアホだの間抜けだの言われ続けると、ついホンネが出て毒づきたくもなるのだ。

【逆切れする財務省

 もちろんホイホイと金を出せば解決する問題でもある。例えば、とりあえず教員の給与を2倍にしてペーパーティーチャーやら転職希望者やらを掘り出し、志願者が倍増したところで今度は定数法を改正して教員数も2倍にすれば働き方改革の大半は成就してしまう。しかしそんなことができるか?
 財務省に金のなる木があるわけでなし、増税を言い出だせばとりあえず政府・自民党が壁になる、世間も誉めてくれない、というわけでの逆切れ状態なのだが、カネも出さないのに、
「教員が担う必要のない業務については、文科省・教委が強制的にでも教員の業務としない整理をするなど、踏み込んだ業務の適正化を行うべき」
だの、
「教員に過度な負担を負わせない取り組みを導入・展開することにより、教員を保護する環境を作っていくべき」
と上から目線で偉そうに言ってくる点は、事情を知らない人には解せないかもしれない。また、
「服務監督者である市町村が教員の給与を負担していないため、勤務時間が長時間化する恐れ(がある)」
といった部分は事情を知って気に留めて置かないと、よく理解できないだろう。

【市町村立小中学校の職員はいわば、保護されない派遣労働者である】

 少し横道に逸れるが20年近く前、総合的な学習の時間にALT(外国語指導助手)が参加するようになったころ、当初は市町村教委の直接雇いだったALTが派遣会社を頼るようになってやや困った事態が発生した。労働者派遣法の軛である。

 ひとつは時給で派遣されているALTは事前打ち合わせにも時給が発生するため、安易に呼び出すことができないこと、さらに厄介だったのはありとあらゆる指示・取り決めはいちいち派遣会社を通さなくてはできなかったことである。授業時数を増やすとか、特別な行事への参加を求めるとかは、すべて派遣会社を通して依頼しなくてはならない。
 それには納得できる理由があって、小学校のALTはまだしも、派遣会社は自社の社員が派遣先で勝手な契約を結ばされたりすると、社員を守り切れないことがあるからである。
 
 この話を始めたのは、市町村立の学校の教職員がこれとよく似た状況にあるからである。
 彼らの給与は都道府県と国から出ている。その負担割合は都道府県2に対して国1(昔は1:1だった)。また都道府県は教職員の任命者であり、その意味ではここにこそ雇用関係はある。
 ところが実際に働く場は市町村立の小中学校で、服務監督の責任も市町村にある。つまり労働者派遣法では派遣先が勝手に働かせることを禁じているのに対し、教職員は文科省都道府県教委の指導の下にありながら、市町村教委の指導に従わなくてはならないのだ。
 
 引用した教育新聞記事にあった、
「服務監督者である市町村が教員の給与を負担していないため、勤務時間が長時間化する恐れ(がある)」
はそれについて言っている。時間外勤務手当をつけたところで、市町村が都道府県・国の財政を守るために長時間労働を抑制してくれるはずがない。それどころか持ち帰り仕事が減って長時間勤務に移行するのは目に見えている。翻って現在定額働かせ放題」の誹りは「定額」しか出さない財務省が背負わされているが、働かせ放題の責任は市町村にあるじゃないか
と言いたいのだ。「市町村にできることがあるだろう!」

財務省は言う:学校が心配なら市町村だって金を出せよ!】

 自分たちとしては現在小学校4年生まで進んだ35人学級編成を全学年に広げるための増員で手いっぱいだ。しかも定数法の制約もあり、これ以上教員を増やすことはできない。しかしよく見ると先生たちが苦しんでいるのはむしろ教員免許がなくてもできる仕事の部分じゃないか。だったら市町村独自の予算で、スクールソーシャルワーカースクールカウンセラー、部活動指導員あるいはスクールローヤーを入れて先生たちをもっと楽にしてやれよ!
 さらに重ねて財務省は、
 奈良県教委や沖縄県教委のように保護者宛てに、勤務時間外の教職員対応は原則行わない協力依頼を出した事例を紹介するといったやり方もある
と、市町村教委なら当然知っている事例を挙げて当てつけたのである。
 もちろんそう言われれば市町村は「どこにそんな金がある」と反発するに決まっているが「どこにそんな金がある」は財務省も同じだ。文句を言うな!

文科省は隠れている】

 文科省は間に挟まって静かに隠れている。ひとが増やせないなら仕事を減らすという道もあるが、そんなことを偉大な政治家たちが許すはずがない。どれもこれも先人の偉大な成果だし、隙あらば自分たちも「偉業」を残したいと思っているのだ。
 だから誰かが「仕事を減らす」という方法に気づいて文科省に矛先を向けないよう、ひたすら静かにしているのだ。