キース・アウト

マスメディアはこう語った

いま国会で起きていること:教職調整額を4%から10%に。しかし仕事を減らさないままの強制時短。担任手当はなくなった。代わりに役職が一つ増えてこれをエサに教員を釣ろうとする。

(写真:フォトAC)

記事

 

授業時数の削減を「附帯決議」にしかできなかった給特法改正案のダメさ、次期学習指導要領改定に期待か?
(2025.05.17 Yahooニュース)

news.yahoo.co.jp


 それだけを「柱」のままでよかったのだろうか?公立学校の教員の給与や労働条件を定めた「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」の改正案が、5月15日の衆議院本会議で可決されて参議院に送られた。改正案について『読売新聞オンライン』(5月15日付)は、「教員に残業代の代わりに基本給の4%を上乗せして支給する『教職調整額』を段階的に10%に引き上げることが柱だ」と説明している。しかし、教職調整額を引き上げるだけでは、教員の働き方は改善されるはずがないし、教員志望者も増えないだろう。

(以下略)


【目新しいことは何もない】

 簡単に言ってしまうと、

  1. 給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」の改正案が、5月15日の衆議院本会議で可決されて参議院に送られた。
  2. 4%だった調整額を段階的に10%に引き上げようというものだが、同時に残業時間を減らすための計画策定および公表を教育委員会に義務付けている。
  3. 業務量を減らさず教員数も増やさない中での残業時間の縮小は持ち帰り仕事を増やすだけである。
  4. 野党は修正案を提出し、それに基づいてつけられたのが付帯決議の14番目「国は教育職員の業務の縮減のため教育職員の担当授業時数を軽減するための教育課程と教育課程の実施と抜本的な教職員定数の改善に努めること」。これが業務縮小に関する唯一の記載である。
  5. 努力義務であって法的拘束力はない。この点に関しては今後の参議院での議論も注目すべきだが、さらに次期学習指導要領の改訂にも注目する必要がある。

ということだ。目新しいことは何もない。で、そのまま通り過ぎようとしてふと考えた。
「あれ? そう言えば学級担任など職務や勤務の状況に応じた手当をつくるって、そういう話、なかったっけ?」

【学級担任手当とかの話はなくなっていた】

 私がボケていただけなのかもしれないと思って衆議院のサイトに行き、15日に審議された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」を見に行ったが、これがまあ、ほんとうに大変だった。

 これまでも法律案というものを見たことがないはずはないのだが、もしかしたら「改正案」というのは初めてかも知れない。
「第◯条第2項のAをB、CをD、EをF、GをH、✕✕✕✕✕✕を△△△△△△、IをJ、▲▲▲▲▲▲を■■■■■■、KをLに改める」
 こんな文章を元の法律文と対照させながら、延々と思案するのだから、国会議員は本当に頭がいいか、寝ている。

 議員よりはるかに頭の悪い私としてはとてもついていけないのでChatGPTに、
「『公立の義務教育諸学校等(中略)を改正する法律案』 について、学級担任など職務や勤務の状況に応じた手当をつくるって、そういう話、なかったっけ?」
と訊くと、
「はい、『公立の義務教育諸学校等(中略)を改正する法律案』では、学級担任などの職務や勤務の状況に応じた手当の新設が盛り込まれています」
 ほっとはしたものの参考文献に「教育新聞」とあって、待てよ、コイツ、法案の原文を参照していないな?と思って、仕方なく自分の目で確認すると――やはりその話はなかった。ChatGPTもトボけている。
 代わりに「主務教諭」という今までなかった役職を創設する話が出ていて、これが複数の法律に関わるために異常な頻度で出て来るのだ。

【優しい草食動物を肉で釣ろうとする】

 天下の東京都でさえ主幹教諭も配置し切らないのに指導教諭だの主務教諭だの次々と新しい役職をつくる。もちろん作った分だけ職員数を増やしてもらえるならいいが、副校長を置いたら教頭がいなくなり、主幹教諭に出世して管理職業務に専念できるかと思っていたら引き続き学級担任だったり――。そう言えば昔も「司書教諭を全校に配置する」「特別支援コーディネーターを配置する」と言っても新しく教員を増やすのではなく、人身御供みたいに選ばれた職員に研修を受けさせ、肩書をあたえて仕事を被せた――あの頃とまったく変わっていない。

 教員みたいな善人ばかりの集団――いわば草食動物のような優しく真面目な人たちの目の前に肉をぶら下げて、『善人ヅラしたところでやっぱ欲しいよな、お・に・く! 無理をしなくていいから引っかかっておいで』と誘惑してみる卑しさ――困ったことにタヌキみたいな雑食教師がたまに引っかかるので、証明されたみたいに見えるが、大多数は出世にも金にもあまり興味はない。

 教員に妙な下心を邪推する邪心に満ちた東京都を見てみるがいい、主幹教諭を含む管理職不足は現在の教員不足よりはるか昔から始まっていて、もはや四半世紀の歴史がある。それにもかかわらず今度は主務教諭なのだ。席が埋まるのか? それにもかかわらず近い将来、主務教諭は主務一種と主務二種に分かれ、後者は「シュムニ」と呼ばれるに違いない。
 調整額10%に気を取られているとこんなところで足元を掬われる。

文科省が悪いのではない】

 文科省は政府の言いなりだ。その政府は国会議員の言いなりで、国会議員は有権者の顔色ばかりをうかがっている。その、一番強いはずの有権者の大部分を育てたのは私たち教師だ。しかしその教師も政治家と保護者に首根っこを掴まれ、不本意な教育しかしてこなかった――あれ? どこで空回りした?