キース・アウト

マスメディアはこう語った

ウソつきの困るところは、その言葉の大部分が嘘ではないということだ。全部が全部ウソなら私たちは騙されることはない。マスコミはもちろんウソはつかない。しかししばしばワザと書かない。そしてしばしば、書いてもすぐには分からないように仕組んでくる。

(写真:フォトAC)

記事


首相、赤沢経産相に「私に恥かかせるな」日米関税交渉めぐり
 (2026年2月27日 朝日新聞)有料記事


 衆院選後の特別国会で初めてとなる衆院予算委員会が27日、開かれました。衆院解散、総選挙のために遅れていた政府の2026年度当初予算案の審議となります。

 (中略)

 高市早苗首相が3月19日に予定する日米首脳会談を前に、中道改革連合の後藤祐一氏が関税をめぐる日米合意から後退しないよう政府の姿勢をただした。日米交渉にあたる赤沢亮正経済産業相は「日本が不利になることのないように対応していきたい。全力をあげて協議している」と述べた。

 「総理、大丈夫ですか」と後藤氏がたたみかけると、高市氏は「私がトランプ大統領と堂々と渡り合えるように働いてくるのが赤沢大臣の仕事だ」としたうえで、背後に座る赤沢氏を振り返りながら「私に恥をかかせるな、と言ったよね」と念押しした。続けて高市氏は「というふうに言ったので、彼は一生懸命ラトニックさん(米商務長官)と交渉している」とした。
(以下、略)



 【高市早苗は傲慢な宰相なのか】

 記事の中身についてとやかく言うつもりはない。問題は書き方だ。
 首相、赤沢経産相に「私に恥かかせるな」日米関税交渉めぐり

 問題の核心は「長幼の序(赤沢大臣は高市総理より一つ年上)を守れ」ということでも「女は生意気を言うな」という話でもない。もう十二分に大人である者同士の一方が、他方を、権力をかさにきて命令口調で恫喝するとは何事かという問題だ。同じ国会議員である以上それぞれの背後には選出してくれた選挙民がいる。その選挙民の代表者たるひとりを、日本で最も注目される場で公然と見下したわけである。高市早苗総理の人間性が如実に現れたとも言える。私は許せない。
――と、ところが本文を下まで読んでいくと内容に、
「私に恥をかかせるな、と言ったよね」と念押しした
とある。「と言ったよね」とつくだけでかなり印象が和らぐ。

 さらに別の記事を探すと、同じ場面を表現するABEMA TIMESの見出しではこうなる。
「私に恥をかかせるなと、言ったよね」高市総理が赤沢大臣に“圧”?→議場爆笑 「私がトランプ大統領と渡り合えるように働くのが赤沢大臣の仕事」
 記事の書きっぷりも見出しの通りで、さらに続けて、
 高市総理は続けて「というふうに申し渡しましたので、彼は一生懸命この間からラトニックさんと交渉しています。日本も約束を守るわけですから、向こうにも守ってもらわなきゃいけない。そういった態度でしっかりと私自身も対峙をしていきたいと思っています」と述べた。

と結んでいる。要するに赤沢経産大臣との信頼関係の上に成り立った軽口なのだ。

 もちろんセクハラ・パワハラの大部分は加害者の誤った被害者との距離感から起きているとか、政治家の舌禍のほとんどはウケ狙い軽口から始まっているといった別の問題もあるが、少なくとも朝日新聞の記事にあるような、総理が大臣を公衆の面前で恫喝したといったような話でないことは分かる。
 二つ以上の記事を読み合わせないと真実に近づけないという恰好な例である。しかしそれとて万全ではない。
 かつて佐藤栄作というノーベル平和賞も受賞した総理大臣がいた。彼は引退会見の席で、テレビ以外は真実を伝えないと怒って新聞や雑誌の記者を会見場から追い出してしまった。よほど腹に据えかねていたのだと思うが、テレビだって信用に足るかどうか怪しいものだ。“見えているものだけが正しい”と信じるのも、また誤りである。聖書にも「見ずして信じる者は幸いである」と書いてあるではないか。

 複数の資料に当たらないとものごとが分からないもうひとつの例――。

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【トランプは何を語ったのか――分からないことを分かっていないと、分からないことは分からない】

記事
【アイスホッケー】金メダルの米国女子代表トランプ大統領の招待を一蹴「参加することできない」
 (2026.02.24 日刊スポーツ)

 ミラノ・コルティナ・オリンピック(五輪)のアイスホッケー女子で金メダルを獲得した米国代表チームがドナルド・トランプ大統領の招待を蹴った。24日にワシントンDCの米国議会議事堂で行われるトランプ大統領の一般教書演説に招待されたが辞退したと23日(日本時間24日)、米NBCニュースなどが報じた。米アイスホッケー協会の広報担当者は「金メダルを獲得した米国女子アイスホッケーチームへの招待に心から感謝し、彼女たちの素晴らしい功績が認められたことに深く感謝します。時期と、大会後に予定されていた学業や仕事の都合で、選手たちは参加することができません」とコメントを出した。
(以下、略)

「大統領の招待を蹴るなんてなんと肝の座った女たちなんだ!」と感心したが、それなりの事情があった。それは引用した記事の先の方にあるトランプ大統領が、女子と同じく金メダルを取った男子チームに語ったという、次のセリフが原因だった。
「言っておかなければならないんだけど、女子代表を連れてこないといけないのは知っているでしょ? (女子代表を招待しなかったら)私は弾劾されるかもしれないと思うよ」
 ただし、それが招待を蹴るほどのことだったかどうかはよくわからない。読みようによっては「男同士和気藹々とやりたいところだけど、今のご時世、女の子も呼ばなくちゃね」といった取るに足らない内輪話のようにも聞こえる。しかし他の記事を読み合わせると、そう簡単な話ではないことが分かってくるのだ*1
 
 男子チームはNHL(北米4大プロスポーツリーグの一つであるナショナルホッケーリーグ)の選手が中心であり、女子チームは歴史(2024年発足)も予算規模も人気もずっと小さなPWHL(女子プロリーグ)の選手かNCAA(全米大学体育協会)に所属する学生選手で構成されていた。そのため最初から扱いが違っていたのも仕方ないと言えば仕方のない面はあった。けれど今回、金メダルが与えられたのはプロリーグではなく、オリンピックというプロもアマもない場である。そのオリンピックの同一競技で同じ成績を収めたら、やはり同じように遇されなければならない。それが今回は違ったのだ。

 電話でトランプ大統領が「軍用機を差し向ける」とまで提案した男子チームは、結局チャーター機で帰ってきた。女子チームは一日遅れの普通の商用機で帰国した。一日遅れた分、一般教書演説に間に合わせるのが難しくなっていた。そもそも招待の連絡自体も、女子チームに対しては遅れていた。辞退してくれてけっこうというサインが二重三重に出されている。極めつけは大統領自身の言葉の中にある「(女子チームを)本来は呼びたくない」「政治的配慮としてしかたなく呼ぶ」「ついでに呼ぶ」という含み――だから大統領の(表面的な)招待を蹴ったところで、MAGA派の人々ですら非難しないのだ。

 情報はなくては困る。しかしあればいいというものでもない。
 それは何かしらの味付けをされたもの。何かしらの成分を抜かれたり、隠された何かを加えられたりしたものである。本来の味を確認するにはより多くの資料と経験と辛抱強い考察が必要だということだ。

*1:

www.jiji.com 他