休校が続くからといって慌てて政府や学校をせっついて、オンライン授業なんか始めさせたら大変なことになるぞ。

 新年度が始まったとたんに再び休校になり、
 「子ども在宅ストレス障害」に陥った保護者から、
 オンライン授業への要求が高まっている。
 けれどあんなもの、
 うっかり導入すると大変なことになるぞ。
という話。

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(「パソコンで学習する子ども」 フォトACより 

 

記事

 

日本のコロナ「学力格差」を止めるための方策  
      
オンライン授業「後進国」日本は何をすべきか

親野 智可等 : 教育評論家
(2020.04.09 東洋経済オンライン)

toyokeizai.net


 新型コロナウイルス感染症の終わりが見えない。学校がいつ再開するかわからない地域も多い。再開したところでいつ休校になるかもわからない。先の見えない不安定な状態が続いていて、いつ安定するのかも皆目わからない。「長期戦」を覚悟する必要があると言う専門家も多い。

そんな中で、子どもの学力について保護者たちの不安が増大している。家庭で勉強するといっても限界がある。財力に余裕がある家庭は、家庭教師、個別指導塾、パソコンやタブレットでのオンライン学習、通信教材など、さまざまな選択肢が可能かもしれない。でも、そうでない家庭は学力格差が広がることへの不安が大きい。
 

オンライン授業、フランスやアメリカの場合

 では、どうしたらいいのか? 実は、答えはすでに明らかになっている。それはオンライン授業だ。これが唯一の解決策であり、これなくして問題解決はありえない。実際に、諸外国はいち早くオンライン授業の実施に舵を切っている。

例えば、フランスでは3月16日以降、幼稚園から大学まですべてが休みになったが、そのとき教育大臣は「これからの期間は、子どもたちが勉強できない期間ではない。勉強の方法が進化するだけだ。教育の続きを遠隔でおこなう」と宣言した。そして、オンライン授業が始まった。現在、主にZoomを使ってのオンライン授業が行われている。

柱になる内容としては2つあって、1つは既習内容についてのクイズ形式の問題、もう1つは画面を通して教師と生徒がやり取りしながら進めるオンライン授業だ。

毎日、先生から子どもたちへのメッセージと当日の勉強プログラムの説明ビデオが届くとのこと。また、家庭でプリントアウトできる教材を電子メールで送信することもある。オンラインで質疑応答したりビデオを見たりテストをしたりすることもできる。

アメリカのニューヨーク市では3月中旬からグーグル・クラスルームやユーチューブなどでオンライン授業を行っている。グーグル・クラスルームでは、学習教材や課題を提供したりメッセージのやり取りをしたりできる。子どもは課題ができたらオンラインで先生に提出する。先生に質問を送ったり返事をもらったりすることもできる。

シンガポールでは4月当初からオンライン授業を始めている。Zoomを使ってのやり取り、動画視聴、課題をこなしてからグーグル・クラスルームで提出するなどが主なところだ。

韓国では4月9日に高校3年生と中学3年生のオンライン授業が始まった。4月下旬からは小学校に広げるとのこと。
(以下、略)

  

 「日本の教育は劣っている」という話が出ると、私は反射的に「それはウソだ」と思う癖がついている。
 個々細かな点については優劣のあるものの、総合的に考えて日本を越える公教育を行っている国・地域はひとつもないからだ。

 そして調べる。
 その話にはどこかに錯誤か、嘘が混じっているからである。

 ところが今回取り上げた『日本のコロナ「学力格差」を止めるための方策 オンライン授業「後進国」日本は何をすべきか』は吟味するまでもなく、破綻がありすぎてどこから手をつけていいのかわからないほどなのだ。

 

【ニューヨークで可能なのか?】

 すぐにピンとくるのはニューヨーク。
 アメリカのニューヨーク市では3月中旬からグーグル・クラスルームやユーチューブなどでオンライン授業を行っている。
 多少なりともニューヨークについて知識を持っている人なら(といっても普通の大人程度でいいのだが)、そこがとんでもなく重い貧困問題を抱えた街だということを知っているはずだ。

 実際に今回、ニューヨークの一斉休校がトランプ大統領の国家非常事態宣言から一週間も遅れたのも、1日3食の食事を学校給食に頼っている子どもがかなりいて、彼らの命の保障をしてからでないと休みに入れなかったからだ。
 もしかしたらその一週間がニューヨークにとって命とりだったかもしれないが、それでも休校を遅らせざるを得なかった。目の前の子どもを救わざるをえなかったわけだ。
 そんなニューヨークで「一週間待つから、Wi-Fi環境と最低一台のパソコンを用意しなさい」と言われても全員ができるはずがない。
 案の定、3月20日付のDIAMOND ON LINEには次のような記事が出ている。

 学校のオンライン授業は、3月23日に開始される予定だ。報道によれば、公立学校の100万人以上の生徒たちのうち30万人は、必要な環境が家庭にない。このため、アップル社を始めとする大手企業の協力のもと、市はオンライン環境の整備にあたっているという。
 しかし休校から1週間後、オンライン授業を予定通りに無事に開始できるのだろうか。「この1週間で、生徒たちに配布されそうなiPadは2万5000台」という報道もある。その調子なら、全員に行き渡るのには少なくとも10週間が必要だ。不安や懸念は尽きない。
(2020.03.20  DIAMOND ONLINE『日本だけではない、コロナで「全校休校」を決めたニューヨーク市の苦闘』)

『日本のコロナ「学力格差」を止めるための方策』の筆者は、あとの方(省略された部分)で呑気に、
 問題はありつつも、しばらくすると教師も子どもたちも慣れてきてかなり使いこなせるようになることが多いようだ。家庭にいながらも、オンライン授業によって一定の緊張感が得られて生活にメリハリがつくという効果もある。
などと言っているが、実際に何が起こっているか、おそらく確認しようともしていない。

【韓国はいち早くオンライン教育に舵を切ったのか?】

 私は韓国に関する部分についても首をかしげる
 筆者は、
4月9日に高校3年生と中学3年生のオンライン授業が始まった。4月下旬からは小学校に広げるとのこと。
と紹介しているが、4月9日はこの記事が配信された当日だ。しかも朝の配信だからまだ授業は始まっていない。それにもかかわらず韓国も、
問題はありつつも、しばらくすると教師も子どもたちも慣れてきてかなり使いこなせるようになることが多いようだ。
のくくりの中に入れている。筆者は預言者か?

 私はそもそも韓国が「いち早くオンライン授業の実施に舵を切っている」国のひとつに上げられていること自体がおかしいと思う。
 なぜなら韓国の公立学校は12月下旬に冬休みに入って1~2月を全部休み、3月1日(今年は日曜日だったので3月2日)から新学期が始まる国なのだ。それが新型コロナ禍で3月に始められず、4月になっても始められないからオンライン授業を開始したたのである。

 2月中旬には感染者が増えて爆発直前までいったのだから3月2日の登校など夢のまた夢、その時点でオンライン授業を始めていれば「いち早く」の表現も悪くはないが、3カ月も休んだ後ではけっして早いとは言えないだろう。

 みんなが手探りでやっているのだから、迷いながらもようやく今月から始めた韓国の判断は間違っていない。しかしそれを「いち早く」と持ち上げて、返す刀で、
日本全体で言えば、はっきりいって諸外国に比べてあまりにも遅い、遅すぎる。
と切り捨てる筆者はあまりにもきたない(と私は思う)。

 ではフランスはどうか。

 

【フランスのオンライン教育は保護者の助けになったのか、授業の成果は?】

 フランスも貧困問題・移民問題があると思うが、どうやらWi-Fiやコンピュータの負担を保護者に押し付ける形で始めたらしい。
(意外な盲点があって、ワークシートなどを大量にプリントアウトするためにOA用紙がすぐになくなってしまい、買いに行こうにも文房具店がすべて休業という大変さもあったらしい。)

 調べてみるとこんな記事があった。

  • 「授業中・授業後、保護者は『ICT支援員』の代わりです。Zoomが固まったり、共有されたホワイトボードが自動で表示されなかったといったトラブルが発生すると、小学校低学年の子どもがすべてを解決するのは困難です。そして否が応でも、保護者は日々『授業参観状態』になります。家で会議資料を読み込んでいる最中も、どこかで子どもの一喜一憂に反応してしまいます」「子どもにオンライン教育を」と保護者は簡単に言うが、実は保護者にはICTに関する様々なサポートが、求められることをよく知っておく必要がありそうだ。
  •  授業中、チャットで友達に話しかけたり、大量のスタンプを投稿したり、さらにはZoomのホワイトボード機能に勝手に落書きしたりする子どもがいるなど、リアルの授業以上にカオスになることもあった
  •  「リアルな場でも同じですが、最初に場の雰囲気や、参加者同士の関係構築がうまくいかないと、自由に議論しづらくなります。特にオンラインだと相手の表情が掴みきれず、一つ一つの発言の裏にあるニュアンスが伝わらないので、場が温まるのに時間がかかりました」
  •  「アイデアを生み出す場合、雑談や余白がないといけないのですが、オンラインだと常にオンの状態なのですぐ煮詰まったり、真面目なアイデアしか出なくなりがちです。これは意図的に雑談や休憩、遊びを取り入れる、もしくは個人ワークの時間をオフラインにすることでうまくいくかもしれないですね」
    (2020.04.01  FNN PRIME「初めての子どものオンライン授業 保護者と教育者に求められるものは何か」

 こちらも手探りの最中で、決して好ましい状況とは言えない。

 

シンガポールはどうか】

 シンガポールのオンライン授業に関する最新の記事は今日(4月10日)のNews weekだから記事の筆者には気の毒だが、それでも取材は落ち着いてしなさいという警告の意味で引用しておく。

 シンガポール教育省は10日、教員にビデオ会議サービスの米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズが提供するアプリ「ズーム」の使用を停止するよう指示した。新型コロナウイルス感染拡大を受けてオンライン授業を実施するなかで「極めて重大な事案」が発生したという。

 現地の報道によると、10代の女子学生に対し地理の授業をオンライン配信していた際に、わいせつな画像やコメントが表示されたケースなどがあった。

 教育省幹部は「教育省はいずれの件についても調査を進めており、必要があれば警察にも協力を求める」と述べ、安全性の問題が解決されるまでは、教員による「ズーム」の使用は停止するとした。

(2020.04.10  News week Japan「シンガポール、教員に「ズーム使用停止」命じる オンライン授業中に重大事案が発生」 )

 すべて準備不足がなせる業だ。
 わいせつ画像や卑猥なコメントならまだしも、死体だの内臓だの写真がバンバン出てくるようなら、私も我慢できない。

 

【日本はどうするのか】

 ほんとうは新型コロナの感染拡大など起こらなければよかったのだが、それでも日本では最初の感染者が発見されてから2カ月以上も平穏だった。それが大きな利益だ。

 遅くなったおかげで「感染者の8割は軽症で済む」とか「無症状の感染者がかなりいる」とかいった知見が手に入り、「ドライブスルー方式のPCR検査」「軽症者の待機場所の確保」「アビガン等の試験的使用」といった優れた試みを真似することができた。

 オンライン授業も同じだ。「遅れている、遅れている」と急かすのではなく、遅れているからこそ得られる利益に注目すればいい。失敗や苦労は他人に負ってもらい、成果だけをいただく――。
 子どもを実験台に供するような先進的な取り組みは、公教育にはいらない。右顧左眄して半歩遅れて歩くくらいがちょうどいいのだ。

 え?
財力に余裕がある家庭は、家庭教師、個別指導塾、パソコンやタブレットでのオンライン学習、通信教材など、さまざまな選択肢が可能かもしれない。
って?

 大丈夫。金持ちの子でも塾やオンライン教育できちんと学習する子はわずかだ。むしろ中途半端な先行学習(一歩先の内容を学ぶ学習)で混乱してしまう子の方が多い。
 一方、塾にもいかず、しかし届いた新しい教科書がうれしくて、それだけで勝手に学習を進めてしまう子も少なくない。
 2~3か月まったく授業をしなくたって、みんな一緒に遅れるのだから問題はない。

 

*追補(2020.04.10夜)

懸念していたことが現実になった。オンライン授業初日の9日、全国各地でさまざまな混乱が起こり、質の低い授業に対する不満が出た。45分授業で5分の動画がすべてというクラスもあったし、ある授業では動画どころか教科書の資料とパワーポイントファイルだけ提供されたという。ビデオ会議のプログラムで出欠を確認するのに路上でスマートフォンのカメラで出席した学生もいた。

より大きな問題は、ほとんどの学校で学習管理サイトとして使用するEBS(韓国教育放送公社)のオンラインクラスに朝から繋がらなかったという事実だ。午前中、終始接続できない状況が繰り返され、授業に大きな支障が生じた。そんな中、パソコンからアクセスしなければならないとか、特定のブラウザを使わなければならないなどという未確認情報も溢れ、混乱を煽った。

(以下、略)

japanese.joins.com