キース・アウト

マスメディアはこう語った

文科省の6年ぶりの調査により「過労死ライン」と言われる月80時間の残業に相当する教員が今も中学校で36.6%、小学校で14.2%にも上ることが分かった。これではとんでもない大不況でも来ない限り、教員のなり手は増えない。

(写真:フォトAC)

記事

国の残業の上限超える教員 中学校77.1% 小学校64.5% 現場は

NHK 2023年4月28日) 

www3.nhk.or.jp文部科学省が6年ぶりに教員の勤務実態を調査したところ、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員が、中学校で77.1%、小学校では64.5%に上ることが分かりました。
文部科学省は、勤務時間は減少したものの依然、長時間勤務が続いているとして、教員の処遇の改善や働き方改革を進めることにしています。

働く時間減少も 依然として長時間勤務
この調査は、文部科学省が昨年度、小中学校の教員およそ3万5000人を対象に6年ぶりに行ったもので、28日、速報値を公表しました。
 10月と11月のそれぞれ1週間について、
学校での勤務時間を調べたところ、
一日当たりの平均は
平日で、
▽中学校では11時間1分、
▽小学校では10時間45分と
前回に比べていずれも30分程度減りました。

土日は、
▽中学校は2時間18分と前回より1時間余り減少し、
▽小学校では36分で、30分余り減少しました。
 一方、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員が、中学校の77.1%、小学校の64.5%に上ることが分かりました。

また、今回行われた調査で「過労死ライン」と言われる
月80時間の残業に相当する可能性がある教員は、
▽中学校で36.6%、
▽小学校で14.2%でした。

6年前の前回は
▽中学校で57.7%、
▽小学校で33.4%でした。

文部科学省は、ICTを活用した負担軽減策やコロナ禍での学校行事の縮小などで勤務時間は減少したものの、依然として長時間勤務が課題だとしています。

このため、今回の調査結果を分析し、教員の月給の4%を上乗せする代わりに、残業代を出さないことを定めた「給特法」の見直しや、働き方改革などについて検討を進めていくとしています。
(以下略)

 この問題に関しては、私も言いたいことは言い続けて、もはや出口はどこにもないことは分かっている。したがってこの記事を取り上げるのは単に記録を残して忘れないようにするためである。

【人は増やさない、仕事も減らさない、それが前提】

 財務省文科省も、教員の過剰労働について人を増やすことで克服しようという考えを棄ててしまった。彼らに不満を言えばこんなふうに答えるに違いない。
「法律を変え予算を増やしたところで、教員になってくれる人間がどこにいるのだ?」
 まったくその通りだ。もちろん給与を2倍にすれば命知らずの強者がどんどん応募してくるが、そこまで予算を増やすことは到底できない。

 人が増やせないなら仕事を減らせばよいようなものだが、それをする気もさっぱりない。
 総合的な学習の時間をはじめ、小学校英語、プログラミング学習、キャリア教育、特別の教科道徳、薬物乱用防止教育、食育など、平成以降に創設されたいわゆる「追加教育」を全部廃止すれば教師の仕事は劇的に楽になる。なぜならこれらはすべて「学級担任が新た匂うことになった仕事」だからだ。昭和の学級担任はこんなことはしなくて済んだ。
 教員評価も学校評価も全国学力学習状況調査もすべて平成以降に創設されたものだ。しかしそれも絶対になくならない。
 なぜなら、それらすべては“良きもの”であり、誰かの創設者の記念碑的事業だからだ。悪いものならすぐもなくせるし、誰かの業績でなければ簡単に変えられる。しかし教育行政はそのどちらでもない。
 仕事内容を減らすどころか、昨年7月に文科省有識者会議が「特定の分野で特異な才能のある子どもが、学校生活で困難を抱えるケースがあるとして、多様な学びの場を確保するといった支援策の素案を公表」(*)したとあるように、仕事は今後も増え続けるに違いない。
2022.07.25 NHK特異な才能ある子どもに“多様な学びの場を” 有識者会議

【教員の働き方改革は個々の努力とICTで】

 教員の働き方改革も結局は現場に丸投げ。学校ごと、会議を減らせ、部活動は外部に出せ、時間外の電話は受け付けるな、学級通信は月一度でいいだろう、ICTを利用せよ等々――細かなことを言うが現場は動かない。
 無理もない。児童生徒の優れた点・良かった点をこまごまと電話で連絡したり、学級通信毎週発行したり、家庭訪問をしたり――それぞれの教師が児童生徒・保護者との間に信頼関係を築く方法は千差万別、得手不得手があるのだ。それがどんなに過剰労働削減を妨げているとしても、自分にあった学級づくりの方法はなかなか手放せない。部活がなかなかなくならないのも、部活指導が信頼関係づくりの最大の武器である教師が少なからずいるからだ。
 勝手に仕事を増やしておいて武器は取り上げる。それでは通るものも通らない。

 業を煮やした文科省はついに今年、
2月3日、2020年に給特法に基づく指針で示した「公立学校の教師の勤務時間の上限」がいまだに条例や規則に反映されていない自治体に対し、23年度中に反映することを求めるとともに、反映されない場合には自治体名を公表する考えを都道府県と政令市の教育長に宛てて通知した。指針が定める在校等時間を把握し、教職員の勤務時間管理を徹底するよう強く求めている。2023.02.03 教育新聞
と強硬手段に出るが、やらないならまだしも、できないことを叱られても現場は意欲を失うだけだ。

 ICTの活用と言っても上のNHKの記事の、割愛した部分に出てくる5年生の担任は、
これまでは、翌日に準備するものを黒板に書いて連絡帳に書き写させていましたが、今は子どもたちが持つパソコンに送信することで、その手間を省略しました。
また、週に2日は子どもがパソコンの自動採点で解き進められる宿題を出すことで、最大で一日20分かかっていた丸付けの時間を削減しました。
と答えるしかない現状。
――黒板に書いていたものをパソコンに送信することで楽になったのは、教師だったのか児童の方なのか。
パソコンの自動採点で解き進められる宿題を出すこと
は、一日20分かかっていた丸付けの時間より格段に短時間で済むことなのだろうか? 時短になりしかも価値ある方法なら、なぜ週2回しかやらないのだ?

 さらに、研究主任として周りの教員たちの授業の準備にかかる時間を減らそうと、甲州市教育委員会が整備した市内の教員たちが作成した教材をウェブで共有できるシステムを活用するよう若手を中心に促しています。
 教材や指導案などWeb上に掃いて捨てるほどある。授業の事例集などは半世紀以上前から膨大に存在したが、問題はそれを読み、比較・研究する時間がないということだ。
 何時間も比較検討して、結局、自分に合ったものがないから、改めて最初から自分で考えることにする――そんな経験を何回かすると、ひとは事例集など読まなくなるものだ。

 結局どこにも出口はない。

【残業手当ができると意欲を失う人もいる】

 NHKの記事の最後に出てきた教員は、保育園に通う子どもを迎えに行くため、午後5時の退勤時刻に学校を出る。
「担任としての業務が減るわけではないので、日中は学校でしかできない校務に集中し、持ち帰ることができるものはすべて家でやるパターンが当たり前になっています。授業の準備が足りているか、児童のふとした変化に気づけているかなど、不安になることもあります」

 NHKがそのつもりで取り上げたかどうかわからないが、残業手当がきちんと創設されるとこの教員の収入は減る。本給の4%の「調整手当」がなくなるからである。
 だからといって保育園へのお迎えをやめて手当を稼ぐというわけにもいかないだろう。残業手当のおかげで意欲を失う人もいる。
 いずれにしろ八方塞がり。
 
 可能性は一点だけ――オイルショックリーマンショックのような経済的大事件が起こって就職における公務員人気が再び盛り返すことだ。
 そうすれば教員を増やすチャンスが生まれる。政府は今の状況を忘れないようにして、優秀な教員を確保すればいい。
 私はいま本気で、失われた十年(20年)」の再来を望んでいる