キース・アウト

マスメディアはこう語った

「中学校における部活動の地域移行」が、指導者や施設の確保が難しいことなどを理由に先延ばしになった。しかしそんなことは始める前から分かっていたことだ。分かっていながら指示を出さなければならなかった文科省。そこには浅~いわけがある。

記事

 

中学校の部活動の地域移行 懸念受け対応見直し 政府
(2022.12.16 NHK

www3.nhk.or.jp

政府は、来年度から中学校の休日の部活動を地域のスポーツクラブなどに移行する取り組みを始めることにしていましたが、地域によっては指導者や施設の確保が難しいという指摘が出されたことから、来年度は調査を行うなど対応を見直すことになりました。

 

教員の働き方改革などと両立させるため、政府は中学校の休日の部活動について、来年度から段階的に地域のスポーツクラブや文化芸術団体などに移行する取り組みを始めることにしていました。

 

これに対し自治体や学校の関係者から、地域によっては指導者や施設の確保が難しいという指摘のほか、新たに発生する費用など保護者の経済的負担が重くなるのではないかという懸念が相次ぎました。

 

このため政府は対応を見直し、来年度は地域の実情を詳しく把握するため調査や研究を行うことになりました。

 

全国でモデル校を選定して試行的に実施し、課題などを整理したうえで改めて本格的な実施の時期や方法を検討することにしています。

 

 ほら見ろやっぱりできないじゃないか。わかっていたのに始めるなんて文科省はほんとうにバカか?
――と言ってはいけない
 頭脳明晰なる文科省官僚たちがその程度のこと、分かっていないわけがない。分かっていながらそうせざるを得なかったのは文科大臣自身、あるいは大臣を通してどこぞからくる圧力に抗しきれないからだ。
「できるできないの問題じゃない。やるかやらないかの問題だ!」
 そう言われているのは学校も省庁も同じ。公務員同士仲よくしよう。

【アホの責任は文科省にない】

 かつて伏魔殿だの悪の巣窟だのと言われた省庁の閉鎖性・独立性は、今や見る影もない。当時の官僚たちは国会議員に対して面従腹背。国政を実質的に握っているのはオレたちだと言わんばかりの傲慢さだったが、いまはそんな官僚はいない。
 2014年に内閣人事局が設置されて官邸が省庁の人事を握ると、能力や実績の客観的評価よりもどれだけ政権に忠誠かが人事の判断基準となってしまった。これによって官僚たちは否が応にも政治家の顔を窺わなくてはならなくなったのだ。
 素直に指示に従うことはもちろん、責任を取りたくない政治家が明確に指示を出さなくても、それをそれと察して手配するのが優秀な官僚ということになる。20年前の官僚の辞書には「忖度」などという言葉はなかったから、当時の役人がこれを聞けば衝撃を受けるに違いない。

 また、良きにつけ悪しきにつけ、官僚政治の時代には長期的な文教政策というものがあった。頑固で融通が利かず、動きも鈍かったが一貫性だけはあった。しかしいまは実にフットワーク軽く、大臣や議員たちの思いつきはすぐに政治に反映し、すぐに撤回される。今回の「部活動の地域移行」もそのひとつだ。

【地域移行の目標時期撤回は織り込み済み】

 官僚たちは部活動の地域移行なんて不可能だと十分に知っていた。しかし彼らにとっての「お上」が言う以上は反論できず、一度はやってみるしかなかった。そして案の定、
自治体や学校の関係者から、地域によっては指導者や施設の確保が難しいという指摘のほか、新たに発生する費用など保護者の経済的負担が重くなるのではないかという懸念が相次ぎました。
ということになるので、かねて用意の代案を示す。
対応を見直し、来年度は地域の実情を詳しく把握するため調査や研究を行うことになりました。
全国でモデル校を選定して試行的に実施し、課題などを整理したうえで改めて本格的な実施の時期や方法を検討することにしています。
 これは文科省が大昔から得意とするやり方だ。
 調査研究をしているうちに5年・10年はすぐに経ってしまい、その間に状況が変化すれば現在不可能なことも可能になるかもしれない。例えば小学校35人学級編成のための教員配置が終われば、財務省も予算措置を考えてくれるかもしれないのである。それに期待しようということだ。10年経てば時代も変わっているから何とかなるかもしれない。

【これで「部活動の地域移行」は棚上げになる】

 「部活動の地域移行」という、ある一群にとっては夢や希望であり、別の一群にとっては不安・心配のタネであり、さらに別の一群にとっては悩ましい政治課題だったものが、こうしてひと段落する。

 

 都会の一部では移行が進み、最初から可能性のなかった田舎では検討すること自体が終わる。
 私は今回の黒幕が、少子化のために学校単位の活動ができなくなった野球部やサッカー部の関係者ではないかと疑っている。スポーツ庁が方針を示した4月から、地域移行の必要性は「学校の部活動は少子化などの影響で部員が集まらず存続が難しくなったり、指導する教員に過度な負担がかかるなどの問題が指摘されています」(2022.04.12 TBSテレビ)といったふうに、凋落傾向のある大型部活の救済が第一、教員の働き方改革が二番目として説明されてきたからである。
 今回の地域移行宣言によってそれらの部では学校の垣根を越えた活動が可能となっただろう。めでたいことだ。中学校における野球部の退潮にも歯止めがかかるかもしれない。
 「お上」の目的が本当に野球部やサッカー部の存続だったとしたら、とうぶん「部活動の地域移行」が蒸し返されることはないだろう。目標は一部、達成されてしまったのだから。

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