キース・アウト

マスメディアはこう語った

行政に虚偽申請までして地域の部活のレベルを向上させようとし、バレて処分された教師がいる。もちろん嘘はまずい。しかし違法行為にまで手を出しかねない熱意を持った教師と、その支持者を無視しては部活の地域移行も何もないはずだ。

(写真:フォトAC)


記事

 

中学教諭、公式戦と偽って三田市営テニスコートを無料利用 料金計32万円の支払い免れる 停職3カ月の処分
(2023.05.30 神戸新聞NEXT)

www.kobe-np.co.jp


 公共施設の利用で虚偽の申請を繰り返し、利用料金計32万4800円の支払いを免れたとして、兵庫県教育委員会は30日、三田市立中学校の男性教諭(51)を停職3カ月の懲戒処分にしたと発表した。

 県教委によると、男性教諭は同市中学校体育連盟のソフトテニス副部長だった2018~22年度、市営テニスコートを予約する際に公式戦を装い、虚偽の大会要項を作って申請。公式戦のための利用なら、翌年度の年間利用分をまとめて無料で予約できる制度があるためだが、実際に行っていたのは丹有地区の生徒が対象の「強化練習会」で、本来は料金がかかり、申請のタイミングも利用の1週間前に限られるという。

 男性教諭は支払いを免れた利用料金を全額弁済。目的は丹有地区全体の実力の底上げで、計画的に練習会を行いたかったといい、県教委の聞き取りに「許されない行為。反省している」などと話しているという。

 この事件が世間からどういう扱いを受けるか、あちこちに転載されたその先まで丁寧に確認したが、大きな反響もなく通りすぎてしまったようだ。

【事件のあらまし】

 問題は兵庫県三田市立中学校の教諭が、立場を利用して不正に市営テニスコートを押さえ、5年間に渡って中学校の強化練習会を開き、市に32万4800円の損害をあたえたというものである。注目すべきは自らが顧問をする中学校だけでなく、地域の学校全体に呼びかけての練習会であったことである。数校が集まるとなれば自校だけではコートが足りなかったということなのだろう。

 部活顧問の中にはときおり、自分の学校だけでなく地域の学校全体の力量を高めようと奔走する人がいる。地域を勝ち抜いてひとつ上の大会を目指す程度だったら周辺の学校が弱い方がいいが、都道府県大会やさらにその上を目指そうという場合は、日常の練習相手となってくれる周辺の学校が弱小なのは困るのである。
 地域全体を強くする、すべての学校を全国に通用するほどに強くする、その上で、自分の学校が周囲を圧倒する――そこまで強くなれば、全国大会でもかなりいい成績が挙げられるはずだ、そう考えるわけである。
 今回処分を受けた教諭がそうしたタイプだったかどうかは定かではないが、地域の学校に声をかけ、会場の準備をし、休日をまるまる使って子どもたちの技能を高めようした行為は――虚偽申請とコートの不正使用は問題だが、その点を除けば、ひと昔前なら絶賛されていいものだったはずだ。それが停職3カ月とは!

【注目したが不完全燃焼】

 私がこの事件に注目したのは、かつてなら讃えられるべき渦中の教諭が、現在では同じ教員仲間の一部から「獅子身中の虫」もしくは「不倶戴天の敵」とみなされているからである。
 働き方改革の視点から部活動の地域移行・縮小・廃止を求める人々は彼らのことをBDK(部活大好き教員)と蔑み、BDKこそが部活改革の足を引っ張る守旧派だと考えている。つまり部活に熱心な教師を悪と見る立場があるからだ。
 
 したがって記事の教諭が世間からどう扱われるかは、世論を見る上で一つの試金石となるはずだった。
 「確かに良いことではないがその意志は尊重されるべき」という意見が多ければ部活動に熱心な教員たちに活躍の道筋は見えてくる。しかし「停職3カ月だって軽すぎる」といった意見が多数なら、私たちも部活顧問を見限った方がいいだろう。
 
 結果は――。
「部活に熱心な教師は働き方改革の敵」という考え方は一般的ではなかったようだった。
 話はもっと単純で、「教師が悪いことをやっちゃあイカンだろ」という人々と「自腹で弁済した上に停職3か月は気の毒」という人々の二グループに分かれて、噛み合わない意見が並べられただけであった。

【しかしこの人たちを忘れてはいけない】

 ただ、こんなふうに部活動のためにいくらでも時間やエネルギーを投入できる教員が、いまでも相当数いるということは意識しておく必要がある。誰もが部活を忌避しているわけではない。
 さらにこうしたBDKの背後には、顧問を強く支持しついて行こうとする生徒がいて、傍らにはともに支えて行こうとする保護者がいる。いまはまだ中学生にはなっていないものの、やがてBDKの世話になろうと考えている子どももいるし保護者もいる。将来は我が子をスポーツ選手にと考えている保護者の中には、すでに遠大な計画表を描き終えている人もいるだろう。
 
 その人たちを大切にしろとか優先的に考えろというわけではない。いま、部活の地域移行について繰り返し語られる中で、決して発言を求められることのないのがこの人たちだ。もちろん完全な地域移行が今日明日じゅうにできるわけはないから皆が安心して眺めているが、いつかその日が来た時に、全力で抵抗するのがこの人たちである。
「地域移行はすばらしいことだ。しかしそれはウチの子が卒業してからにしてくれ」
 皆がそんなふうに思っているに違いない。ことはすんなり進まない。