キース・アウト

マスメディアはこう語った

もはや“破天荒”は笑い事では済まされない。やろうとしたことの軽さと結果の重さがあまりにも不釣り合いで危険だからだ。若者よ、キミの親や祖父母がかつてやったかもしれない「おふざけ」が、今やどれだけ高くつくか、まず計算してからことに及ぼう。

(写真:フォトAC)

記事

 

スシロー迷惑動画、しょうゆ差しなめた少年を提訴…6700万円損賠請求
(2023.06.08 読売ON LINE)

www.yomiuri.co.jp


 回転ずしチェーン「スシロー」の店舗で客の少年がしょうゆ差しをなめる動画が拡散した問題で、スシローの運営会社が岐阜県の少年に約6700万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したことがわかった。
 提訴したのは、運営会社「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)で、3月22日付。

 訴状では、少年は1月、岐阜市のスシロー岐阜正木店で、卓上のしょうゆボトルの注ぎ口をなめたほか、湯飲みをなめた後に未使用の置き場に戻したり、回転レーン上の商品に唾液をつけたりした。この様子を撮影した動画が1月29日、SNSで拡散し、全国の店舗で客が大幅に減少。同31日には親会社の株価が5%近く下落し、1日で160億円以上の経済的な価値が失われたとした。(以下略)

 道徳には馴染まないし特別活動のうちの学級活動のひとつとして取り上げて、1時間の授業するほどのことでもない。朝の会あたりで触れるのがやっとかもしれないが、それでも話しておくのは必要なことだ。

【謝れば済むという問題ではない】

 損害賠償を請求された少年は軽い気持ちでスシローの醤油さしを舐め、軽い気持ちでインスタグラムに投稿した。その時点では大したことはなかった。ところがそれが150万フォロワーを擁するツイッターアカウントで取り上げられ、このときも「何をこの程度のことで――」と舐めた態度をとったことで大炎上。マスコミに取り上げられ、警察まで出動し、大評判になっていま、6700万円も請求されようとしているのだ。
 報道されると同時に本人は保護者を伴ってスシローに謝罪に行ったが、相手は甘い顔をしなかった。甘く許せば次の犯罪も防げないからだ。
 醤油さしはもちろん、ネット社会やマスコミも舐めてはいけない。 
 それが事件から学ぶべき教訓の第一だ。

【もはや破天荒が人生を終わらせる時代だ】

 キミたちの両親や祖父母が若かった時代はまだ自由がきいた。多少の悪さをしてもそれを知るのはごく狭い範囲の人だけだったからだ。互いに利害が絡み合うから互いに許し合うしかなかった。若いころに背負った負債はいつか地域に返せばいいだけだったのだ。
「あいつも昔はヤンチャだったが、今はそれなりになったなあ」


 ところが今や直接的には利害の絡まない人、つまり正義であり続けることのできる人たちが、いくらでもキミの情報に接することができる時代だ。彼らは“正義の人たち”だから絶対に容赦しない。“妥協”は正義の敗北だと言わんばかりに繰り返し襲いかかってくる。


 試みにキミの悪さをひとつ、撮影して友だちと共有してみよう。もちろん信頼できるともだちとだ。キミのことを良く知っていて絶対に傷つけたりしない友だち――しかしその友だちにも友だちがいる。キミの友だちにとって、とても信頼できるヤツで、自分の仲間を絶対に裏切らない親友――と、しかしここで考えてほしい、その「友だちの友だち」は、キミにとっても友だちなのか? 必ずそうかい? 違うよね。友だちの友だちは、もしかしたら顔も見たことのない人間で、キミのことを大切にしなくてはならない理由がまったくないヤツかもしれない。そしてその彼がキミの悪さを面白半分に拡散させる。キミの人生が終わる。ネットの先にいる人たちはキミの友だちやご近所の人たちほどには優しくないからね。

【金の価値を具体的につかんでみる】

 6700万円という金額がどのくらいのものか分かるかい? 1000円~2000円ならよく分かるけど、6700万円となるとよく分からないよね。そこで計算してみる。すると6700万円はね、
 1日100円ずつの貯金、つまり1カ月3000円の貯金で1861年もかかる金額だ。これではとてもではないが間に合わないので月々1万円の貯金に代えてみる。それでも558年。月々10万円の返済にしてようやく55・8年で返せるわけだ。
 わかるかい? 毎月10万円も払っても人生の大半を費やさないと返しきれない金額なのだ。それがあの「醤油さしペロリ」の代償だと考えれば、自分がどれだけ愚かなことをしてしまったか分かろうというものだ。やる前に気がつけばよかったよね。

【まあ、命で支払うよりはいいけどね】

 世の中には冗談半分では済まないことがいくつもある。
 路上のポスターを引きちぎるにも、商品の宣伝ポスターと運動期間中の選挙ポスターでは天と地ほども扱いが異なってくる。後者には選挙妨害の可能性があるからだ。

 

 同じ子どものイタズラでも、公共施設へのイタズラ書きと、火遊びや線路の置き石では社会の対応がまったく異なる。警察も黙っていない。
 前者と後者を分けるのは最悪の場合の被害の大きさだ。子どもの火遊びが都市を丸ごと飲み込むような大火になったり、置き石のために列車が転覆して数百人が亡くなったりといった可能性がないわけではない。大いにあり得る。したがってこれも警察は容赦しない。マスコミも放っておかない。

 

 刑法上、最高刑が死刑という罪は殺人をはじめとして12個しかないが、以下の4つは意外と罪の重さが自覚しにくいので、機会があれば子どもたちに話しておくがいい。

  1. 人が住んでいる家への放火《現住建造物等放火(108条)》
  2.  堤防などを壊して人が住む住宅を浸水させること《現住建造物等浸害(119条)》
  3. 置き石や標識の損壊などによって列車を転覆させたり船を沈めたりする罪《往来危険による汽車転覆(127条)》
  4. 水源地に毒を混入させる罪《水道毒物等混入及び同致死(146条)》


 残りの八つは、当面、子どもには関係なさそうな内乱(第77条)、外患誘致(81条)、外患援助(82条)、爆発物やボイラーなどを破裂させて周囲のものを破壊しようとする激発物破裂(117条)、意図的な汽車転覆等及び同致死(126条)、殺人(199条)、強盗(236条)、強盗致死傷(240条)、強盗・強制性交等及び同致死(241条)である。
 そこまで話を広げなくてもいいかもしれないが、軽い気持ちでやったことで「死をもって償う」などということにならないよう、今からしっかり勉強させておこう。