キース・アウト

マスメディアはこう語った

いよいよ教員の給与改定が話題になり始めた。残業手当を創設するか、調整手当を大幅に増額するか、はたまた学級担任や部活顧問にはそれぞれ別の手当てを出すか――教員にはひどく喜ばしい話のようだが、しばし待て。そもそもこれは金の問題だったのか?

(写真:フォトAC)

記事

 

残業代支給か、調整額アップか、手当増か… 自民が教員給与改善案
(2023.02.22朝日新聞デジタル

www.asahi.com

 文部科学省が今年、公立学校教員の給与制度見直しの議論を本格化させるのを前に、自民党が三つの具体案を検討していることが分かった。自民党は今春、提言をまとめて政府に提出する方針で、文科省の制度設計に大きな影響を与えるとみられる。

(中略)

 党関係者によると、委員会では現在、三つの案が水面下で検討されている。一つ目は、給特法を廃止し、会社員と同じように時間に応じた残業代を支給するというものだ。

 二つ目は、給特法を維持しつつ、現在は基本給の4%となっている教職調整額を十数%まで引き上げるというもの。

 三つ目は、この二つの「折衷案」だ。給特法を維持し教職調整額については4%から数ポイント引き上げたうえで、学級担任や部活の顧問を務めたり、主任の職に就いたりしている教員に相応の手当を上積みする。

 文科省は今夏以降、中央教育審議会文科相の諮問機関)に給与体系の見直しを諮問するとみられ、自民党の提言が議論に大きな影響を与えそうだ。

【教員の給与改定がいよいよ話題になり始めた】

 教員の給与が増えるのは悪いことではない。
会社員と同じように時間に応じた残業代を支給する
のもいいし、
教職調整額を十数%まで引き上げる
のも悪くない。
 総合的な学習の時間やプログラミング学習、キャリア教育、小学校英語、部活動で首が締まっているのは基本的に学級担任や部活顧問なのだから、
学級担任や部活の顧問を務めたり、主任の職に就いたりしている教員に相応の手当を上積みする
のは何十年も前からあるべき施策だった。

 しかし実際にできるのか?
 
 昨年の連合総研の報告で2022年の6月、
 教員の1か月の労働時間は 293 時間 46 分に達し、月間所定労働時間の 170 時間 30 分(7 時間 45 分×6 月の勤務日数 22 日)を 123 時間 16 分上回っている。
という調査結果を発表した。その123時間16分全部に残業手当が出せるはずもないから「上限45時間」あるいは「上限20時間」くらいで切ろうとするだろうが、それで教師たちは納得するのだろうか。
 「残業を認めろ」「認めない」で副校長や教頭と一般職とのバトルが始まる。パワハラも逆ハラも起こる。仕方ないので妥協点として残業時間のデータの改ざんが始まる。それまで持ち帰りだった教師も無理をして学校に残るようになる・・・。
 こんなふうで持続可能な制度に育って行くのだろうか?

 

 だったら教職調整額を十数%まで引き上げる方が現実的と言えるが、それはそれで現在の長時間労働を双方で認め合うことになりかねない。平たく言えば、「十分払っているんだから我慢しろや!」である。管理職が言うのではない。社会全体がそれで納得してしまうのだ。
 学担や部活顧問、主任職などに特別な手当てを受けた場合も同じで、金で解決を図ろうとすれば、必ず問題が起こる。なぜなら教員の働き方改革の問題は、最初から金の問題ではなかったからである。

【聖人ぶっても結局はひとの子、金さえ渡せば教師も黙るだろう】

 働き方改革で教員側から金の問題が出たのは、給与が低すぎたからではない。給与なら十分とは言えないものの、公務員としてはむしろよい方である。

 さらに言えばもらったところで使う時間がない。土日も何らかの仕事をしている。家族サービスの時間も趣味の時間も、そもそも最初からなかったのだ。

 しかしそれにも関わらず金にこだわったのは、

  •  月に123時間以上も余計に働いて調整額が1万2000円ほど(基本給30万円の4%)にしかならないとしたら、単純計算で時給は100円。大学で専門の勉強をした教員が骨身を削ってやっている仕事が、高校生のアルバイトの十分の一くらいの価値しかないと計算される屈辱、惨めさ、それが一点。
  • 担任や顧問・主任は他より多くの仕事をしているから、その分は評価されるべきだという思い。
  • そして何より、残業手当を設けることで時間外労働に歯止めがかかるのではないかと期待したからである。

 しかしあさはかであった。月123時間16分を、45時間以下にする魔法の方法などないのだ。

 政府・自民党は教員を増やす気もなければ、学習内容を減らすこともまったく考えていない。いまの多忙と人手不足をそのままに、金さえ渡せば教師は黙ると踏んでいる。
 舐められたものだ。