キース・アウト

マスメディアはこう語った

神戸市は校長・教頭への昇任試験をやめてしまうらしい。やめて管理職を一本釣りするらしいが、何か根本的な勘違いをしていないか?

神戸市は、校長・教頭のなり手がいないので昇任試験をやめてしまうという。
なりたい人がいないので、なってほしい人を管理職にするつもりらしい。
しかしそれでうまくやって行けるのだろうか。
神戸市教委には根本的な勘違いがあるらしい。
という話。

f:id:kite-cafe:20200911145923j:plain(「勉強中 受験 本とノート イメージ素材」 フォトACより)

 

記事

 全国初、校長と教頭の昇任試験廃止 年齢引き下げ「30代教頭」も 神戸市教委

(2020.09.10 神戸新聞NEXT)

www.kobe-np.co.jp

 

 神戸市教育委員会は来春の人事異動に向け、本年度から市立学校の校長、教頭の昇任試験を全て取りやめる方針を固めた。阪神・淡路大震災後、教員採用を絞った世代が適齢期に入ったことや、管理職の激務から、受験者が減っているのが大きな理由。本人の意向調査と面談を経て引き上げる方針で、適任者がいれば「30代の教頭先生」もあり得るとする。文部科学省によると、「昇任試験なし」は全国的にも例がないという。(井上 駿)

 神戸市教委は毎年11~12月、校長、教頭への昇任希望者に筆記試験と面談を実施。翌年春の異動に反映させてきた。校長については先行して2018年度から筆記試験をやめている。

 昇任試験の競争倍率は年々低下。教頭では、08年度に小学校で5・12倍(169人中33人合格)、中学校は8・78倍(158人中18人合格)だったが、19年度には小学校で1・5倍(45人中30人合格)、中学校は2・04倍(53人中26人合格)まで落ち込んだ。背景には、管理職の多忙化や重責があるとみられ、「手を挙げる人がいない」と市教委。中堅層が少ないことと合わせ「管理職の育成が危機的な状況」という。

 また市教委は来春から、一般教諭対象の「神戸方式」と呼ばれた人事異動ルールも全面廃止する。本人の意向を踏まえて校長同士で調整して素案を作るが、対象者には拒否できる権利もあったため、実態に即した人員配置が難しくなっていた。同方式は、東須磨小学校の教員間暴力・暴言問題でも、背景の一因として指摘されていた。

 今後は管理職、一般職ともほぼ同様に、本人の意向調査▽校長らの評価▽各校を巡回して支援する地区統括官の意見-などを総合的に評価し、全市的な視点で人事案を作る。校長らを補佐する立場の主幹教諭の要件も「40歳以上」から「30歳以上」に引き下げ、管理職候補として育成する。

 市教委の担当者は「積極的に若手を登用し、適任者がいれば、30代の管理職も考えられる」とする。文科省の担当者は「管理職の昇任試験を部分的に取りやめている自治体はあるが、全面的にやめるのは聞いたことがない。神戸市の取り組みは一つのモデルになるのでは」としている。

 

 内容的にはまったく意気の上がらないものなのに、
「神戸市の取り組みは一つのモデルになるのでは」
とは、神戸市教委はどこまで能天気なのだ?

 記事を読んで、
小学校で1・5倍(45人中30人合格)、中学校は2・04倍(53人中26人合格)
なら十分じゃないかと思う自治体も少なくないと思うが、神戸市では学校運営を通して自己の教育理念を実現しようとする立派な教師とともに、何かの勘違いをしたお調子者が多数、昇任試験を受けに来るとでもいうのだろうか?
 いずれにしろ、何か私とは根本的な違いがあってこういうことになったのだろう。

 

【管理職不足の先駆け、東京都はどうしたか】

 私にとって神戸市は「高塚高校校門圧死事件」のあった街であり、「酒鬼薔薇聖斗事件」の現場であり、最近では「東須磨小教員いじめ事件」のあった場所である。あるいは教員の負担軽減を理由に、教育の最も大切なものを奪おうとした市でもある(*1)
 
印象とすれば、行政が強圧的で現場のことをまったくわかっていない市だと言える。教委は学校も教員も何も守ってくれない――。

 こんな土地で学校の管理職、特に校長であることは楽ではない。同じ管理職でも教頭は教師の頭(かしら)だが、校長は行政の末端である。「強圧的」で「学校も教師も何も守ってくれない」教委の施策は、実際には校長が教員に下ろさなくてはならないのだ。誰が好んでなるものか。

 さてその上で、なり手のいない管理職をどのように埋めていくか――。
 その点で先輩である東京都は、退職校長を再任用で学校に留め置くという方法で凌ごうとしてきた。校長を安易に退職させると副校長(東京都には教頭はいない)を昇任させざるをえず、そうなるとさらに下の職である主任教諭も繰り上げなければならない。ところがこの主任教諭の座が、質的には埋まっていないのだ。もう20年に渡ってマイナスなのである。
 これ以上、空席を増やすわけには行かない――そこで昇任人事の流れに制動をかけ、主任教諭を昇任させず、副校長を校長にせず、定年退職を止めるわけにも行かないので一部を再任用校長として留めたのである。
 おかげで副校長の中には副校長のまま定年退職を迎える人まで出てきているという。殺人的な職務を何年も続けた上での退職である。ほんとうに気の毒だ。

 神戸市教委も、当然そうした事情は承知しているようで、そこで選んだ方法が「昇任試験の廃止」だ。

 

【神戸市はこうすることに決めた】 

 しかし昇任試験を廃してどうするのか。
 今後は管理職、一般職ともほぼ同様に、本人の意向調査▽校長らの評価▽各校を巡回して支援する地区統括官の意見-などを総合的に評価し、全市的な視点で人事案を作る。
 どういう意味か分かるか?

 要するに管理職になりたい教員を待っているのではなく、教育委員会が選んで決めるということなのだ。もちろん本人の意向調査を謳っている以上、無理やり昇任させるわけにもいかない、つまり選んだ上で説得する――誰が?

 これは実質的に校長の仕事となるだろう。日ごろの人間関係のない教委が出てきても成果は期待できないからだ。場合によっては、これも校長の大きな負担となるだろう。説得に応じない教員が出てきたら教委との間で板挟みになる。
 もちろんそんな苦しい校長の立場を見て、折れて管理職になろうとする心優しいい教員もいるが、絶対にあんなにふうにはなりたくないと改めて意を強くする教員だって出てくる。つまり昇任に応じない。
 たいへんな仕事になるのは目に見えている。事故が起きないといいのだが(*2)。

 

【30代で管理職になる不幸】

 市教委の能天気はまだ続く。
「積極的に若手を登用し、適任者がいれば、30代の管理職も考えられる」
 こう言えば教師たちは喜ぶとでも思ったのだろうか?

 確かに一般企業や役所で「30代でも管理職」と言えば意欲の出る人もいるだろう。しかし教員は違う。
 一般企業でも、例えば意欲に燃えて現場で働いているエンジニアに「明日から管理職」と言っても喜ばないのと同じで、子どもとふれあい、子どもを育て、子どもとともに生きることを喜びとする教員に「30代でも管理職」と言っても誰も喜ばない。そもそも、
背景には、管理職の多忙化や重責があるとみられ、「手を挙げる人がいない」
という状況で、「30代でも管理職。定年まで30年、がんばってちょ~だい!」とか言っても震え上がるだけだろう。私だったら職と命を懸けて断る。

 市教委担当者、何を考えているのだ?


《注》
*1

kieth-out.hatenablog.jp
*2
 もう14年も前のことになるが、千葉県で昇任試験を強要された教員が自殺するという事件があった。神戸市も気をつけた方がいい。


 昇任試験強要が引き金か 千葉市立中の教諭自殺
(2006.10.17 共同通信

 千葉市立中学校の男性教諭(50)が9月、校長(58)の行き過ぎとみられる指導後に自殺した問題で、教諭が自殺する約1週間前に、校長に教頭昇任の管理職選考試験の受験断念を伝えたところ、同僚の前で激しく怒られていたことが17日、関係者の話で分かった。

 市教育委員会も同様の事実を把握。教諭はこの直後から出勤しなくなっており、校長の受験強要が自殺の引き金になった可能性があるとみて調査している。

 関係者によると、今年の選考試験は9月21日に申し込みが締め切られ、11月の実施予定。受験資格は51歳未満で、教諭にとって最後の機会だった。