(写真:フォトAC)
記事
神戸市内の公立中「部活動」終了へ 地域のスポーツ団体等のクラブ活動に移行 全面移行は政令市で全国初
(2024.12.16 関西テレビ)
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神戸市は、再来年度から公立中学校の部活動を終了し、地域のスポーツ団体などによるクラブ活動に移行することを決めました。
平日も含めた全面移行の試みは、政令市では全国で初めてです。
神戸市教育委員会によると、市内全ての公立中学校で、2026年8月までに学校単位での部活動をすべて終了するということです。
終了後は、地域のスポーツ団体などが運営主体となり、学校施設などを利用するクラブ活動「KOBE◆KATSU(コベカツ)」を始めて、生徒が市内のクラブ活動を自由に選べるようにするということです。
(以下略)
評
神戸市というのは日本有数の港湾都市で、文化的に世界に広く開かれているとともに、国内でもっとも開明的な街として知られている。実際はどうか知らないが、少なくともそう信じられている。
教育政策についても、例えば2018年には校長の昇任試験から筆記試験を外し、2020年からは教頭の昇任試験からも筆記試験を廃止して応募しやすくした。さらに主幹教諭の年齢制限も「40歳以上」から「30歳以上」へと引き下げて30代の管理職登用への道も開いた。(神戸新聞NEXT|総合|全国初、校長と教頭の昇任試験廃止 年齢引き下げ「30代教頭」も 神戸市教委)
小学校の動物飼育を縮小し、運動会のほか入学式や卒業式、音楽会、文化祭などの学校行事の簡素化も指示。小学校でのスキー実習も段階的に廃止し、中学校では野外活動などは1、2年で計3泊する学校が多かったのを「計2泊以内を原則とする」としたり、通知票の所見欄をなくしたり、家庭訪問を希望制にしたりと、大胆な改革を進めて来た。(神戸新聞NEXT|教育|神戸市、教員の業務軽減 動物飼育を縮小、通知表の所見欄廃止…)
そして今度は学校部活の廃止だ。
【今の状況で、部活動の地域移行は、そもそも可能なのか】
私は部活動の地域移行ないしは地域展開の問題を、是非ではなく、可・不可の問題としてしか考えない。良いか悪いかと言ったら少なくとも悪いことではないからだ。しかしいかに良いことでもできないことはできない。さらに可・不可にもレベルがある。
学校から部活動が切り離され、中高生の文化スポーツ活動が現在のスイミング・スクールのように月謝5000円~7000円程度で運営され、移送が保護者に任される。その結果、参加生徒が全生徒の1割程度となったとき、それでも地域移行ができたというのは難しいだろう。
先行きは細るにしても、とりあえず現状の9割程度の生徒が移行できるものでなければ世間は納得しない。
現在の部活動は、基本的に平日は毎日1~2時間、休日は週1回3~4時間、無料で参加できて対外試合などの特別な場合以外は保護者の負担ゼロなのだ。それを、
- 明日からは数千円の参加費がかかります。
- 会場から遠い場合は毎日保護者が送り迎えしてください。道具の移送が当番制になります。
- 学校の活動ではなくなるので、体育館やグランドは一般のチームと競合することになります。会場の確保は保護者でお願いします。
- 競技によっては指導者不足から1会場しか設定できないこともありますから、その場合は選抜を行うか、選抜しないまでも選手になれる可能性は極めて低くなることがあります。3年間頑張っても試合に出られない場合があるということです。
- 中には会場が市内に一か所しかないという競技も出て来る可能性があります。その場合は参加を諦めてください。
で、通るのか――。
【納得しない人々はこうする】
生徒・保護者、地域、各種競技団体で納得しない人々には対抗手段がある。
将来、子どもを甲子園に出そう、箱根を走らせよう、オリンピックを目指させよう、そこまで行かなくても、上の子が味わったような切磋琢磨の世界を下の子にも味合わせたい、いやそんなつもりはさらさらないが、中高生の息子が毎日4時に家に帰って来るなんて考えただけでも恐ろしい、だからと言って払う金も、送り迎えをする時間的余裕も、手段も何もない、貧乏人の子は情操教育を受けなくてもいいのか、自治体がそんな差別を許してもいいのか――と、何人かの保護者が騒ぎ出し、騒がなくても正義派のポピュリスト議員が議会で市長・教委委員長を突き上げ、マスコミがツッコミ、SNSは「教師や学校が楽をするために児童生徒を泣かせるのか」と大騒ぎを始め、結局、行政と学校がひざを折る――そういうことにならないのかと思うのである。
結局屈するなら、最初からやらない方がいい。それが韓国の戒厳から学んだ大きな教訓だ(というのは少し違うかもしれないが)。
【神戸市の行く末を見たい】
しかしそれにしてもこの神戸市当局の強気は何を背景としているのだろう。
「新居を立てる前に旧居を壊すな」
というが全国の自治体は部活動を廃止するにあたって、まず受け皿を用意しなくてはならないと考えるから苦労している。それを神戸市は、
- まずやめることに決めた。2025年の4月からの1年生は26年夏(2年生の夏)までは学校部活で活動し、全国大会が終了したら学校部活に先はない。
- 26年度の8月以降もで文化スポーツ活動をしたい生徒は市のクラブ活動「KOBE◆KATSU(コベカツ)」に加入して、そこで活動してもらうことになる。
- 「KOBE◆KATSU(コベカツ)」の運営団体の募集は来年1月(来月)から始めるから、奮って参加してほしい。
- 『生徒・保護者のニーズはより「楽しむこと」に変化しています。また、中学生になってからやってみたい活動として、「ダンス」「釣り」「料理」「eスポーツ」といった、これまでの部活動になかった種目が上位にあがっています。一方で、より専門的な指導を求める生徒は、部活動ではなく、すでに民間のクラブチーム(サッカー、野球、バスケ、テニス等)に通っているケースも少なくありません』
『「競技力の向上を突き詰めたい」などの場合には、これまでと同様に民間のクラブチーム等で活動いただくことが可能です』 - 地域のスポーツクラブも夜間に中学校の施設を使うことに期待が高まっており、「KOBE◆KATSU(コベカツ)」に応募しようというスポーツクラブや料理教室、ヒップホップダンスチーム等は少なくなくない。
と言い切るのだ。この条件で4月には新1年生を迎える。それができるとの自信はどこからくるのだろうか。神戸には神戸の特殊事情があるのかもしれないが。(引用は神戸市ホームページ「部活動の地域移行」Q&Aより)
【教育政策は評価が定まってから真似するのが得策】
教育政策の失敗は大人ではなく、その下で学んだ子どもたちが背負う。1940年代前半に学校教育を受けた軍国少年たちは、その借財を自分たちで返した。1960年代~70年代の受験地獄を生き抜いた少年少女は「学歴」という重荷を今も引きずっている。「ゆとり」と蔑まれた世代も、社会に屈折した負い目を感じながら生きて来た。
全国的な動きであってもこの始末だ。ましてや地域の実験的な試みに供されて失敗したら、そのたちの人生がどうなっていくかは想像もつかない。
神戸市の現在の6年生は2年後、これまでだったら、
「さて、重石の3年生がいなくなった。これからはボクらの時代だ」
と張りきるときに部活がなくなるのだ。
本格的にスポーツをやりたい子は民間のクラブチームに行けばいいというが、そんな子はそもそも途中でなくなることがはっきりしている学校部活などには入らないだろう。
残された選択肢は「KOBE◆KATSU(コベカツ)」に登録したママさんバレーやママさんコーラス、大人のヒップホップダンス同好会と一緒に活動するか、家にいるか、あるいは親たちのつくってくれた独自チームで活動するしかない。それが「自由な選択」の意味だ。
私は神戸市の試みを否定するわけではない。これがうまく行けば「神戸方式」といった命名がされて全国の自治体があとから殺到することになる。しかしそれは十分に意味あることだと検証されてからでいい。慌てて追従して、海に飛び込むネズミの群れに自分たちの教え子を投げ込んではいけない。