キース・アウト

マスメディアはこう語った

地域移行といって外に出されても吹奏楽部の行くところはない。結局、親に頼まれ、部員にすがられ、元の教員が休日の指導を続けるしかないのだが、そのとき教師は別の名で呼ばれる。「休日も指導を希望する教員」、だから時間外勤務の対象にもならないのだ。

(写真:フォトAC)

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 中学文化部も来年度から3年で地域移行を 文化庁有識者会議が提言案
 (2022.07.12 朝日新聞デジタル) 

www.asahi.com 中学校の文化部活動の地域への移行を議論している文化庁有識者会議で12日、提言案が示された。運動部と同様、2023~25年度を「改革集中期間」とし、公立中の休日の文化部活動を、地域の文化芸術団体や外部指導者らにゆだねる取り組みを進めるとしている。
 
 部活の地域移行は、少子化による廃部や活動の縮小、教員の長時間労働などの課題に対応するため、スポーツ庁有識者会議が先行して運動部について議論し、6月に提言をとりまとめた。文化部の提言案も、運動部の方向性に沿ったもので、将来的には平日の移行も視野に入れている。
 
 提言案では、文化芸術団体や民間教室、芸術系大学が地域移行の受け皿となり、それらの団体に所属する人たちなどが外部指導者になることを想定。休日も指導を希望する教員は、兼業の許可を得て地域で指導できるようにする。
 

【どう考えてもイメージがわかない】

 文化庁有識者会議の人々の頭に、どんな心象が描かれているのだろう?
 月曜日から金曜日まで、コンクールの課題曲と自由曲の練習を学校で続け、土曜日または日曜日になると地域に出て行って・・・で、何をするのだ? 
 顧問と意思疎通の十分にできている指導者が、同じ考えをもって、顧問以上の指導力で続きをしてくれるのならいい。しかしそれだと私の住む市では、15中学校に15人の地域指導者が必要になるのであって、毎週休日を使って吹奏楽の指導ができる専門家をそれだけ用意できるかどうかが問題になる。もちろんできるはずがない。
 
 いやそうではない、休日の部活は数校集まっての合同練習だ、ということになれば、今度は場所や楽器移動の問題が生れる。仮に三校一緒の練習だとして部員はざっと60~70人。それだけの保護者が休日の朝、自分の子の学校へ行って楽器を受け取り、練習後は返還に行かなくてはならないのだ。自宅にトラックでもあればまとめて移送ということにもなるが、そうでなければひとりひとりの親が動くしかない。さて、そんな生活に耐えてくれるだろうか?
 

【誰が受け皿になる?】

 そもそも受け皿となってくれる文化芸術団体や民間教室、芸術系大学がどれくらいあるか、文化庁は調査してから提案しているのだろうか? 
 地域の文化芸術団体といっても、ほとんどが勤務の傍ら、自分の楽しみのために時間を割いてがんばっている人たちだ。とてもではないが他人のために譲る時間はない。そもそも演奏ができることと指導できることは別なのだ。

 民間の教室もいいが、月4回の講座で20000円もの月謝を取る音楽教室がタダでやってくれるとは思えない。受益者負担? ホラきた「困ったときの受益者負担」。だとしたらはじめから「義務教育は、これを無償とする」などと言いつつ、部活動など始めなければよかったのだ。

 ついでだが、我が田舎県にも芸大のひとつくらいはあっていい。是非とも早急に設置してもらいたいものである。

【結局、部活顧問しかない】

 どう見ても――上から見ても下から見ても、前後左右どちらから見ても、吹奏楽部の地域移行などできるはずがない。合唱部も然り、美術部も然りである。
 
 結局、部活顧問が親に懇願され部員に泣きつかれて休日も続けるしかないのだが、異動の際にはひと悶着あるだろう。
 親は「転任してもこのまま休日指導を続けくれ」と強く迫り、断れば新任の音楽教師を手ぐすね引いて待つ。うまく行かなければ議員に泣きつき、議員は教委を脅し、教委は校長を締め上げて次は校内で闘争だ。管理職と一般教員の仲は悪くなる一方。
 教員の働き方改革によって、職員集団が極めて居心地の悪いものとなっていく。


 
 【ひとつだけ、いいことがある】

 いや待て、悪いことばかりではない。
 もはや休日に指導している教員は「休日も指導を希望する教員」。やりたくてやっているわけだから、時間外労働の枠には入れなくて済む。おまけに兼業の許可を得て地域で指導できるわけだから、そこで多少の収入が出てきてもかまわない。自治体が民間の指導者と一緒に予算化してくれるかもしれないし、ほんとうに困ったら親も出してくれるだろう。これで「定額働かせ放題」の非難も多少はかわせるだろう、ホイ、ホイ。
 有識者会議はそんなふうに考えたのかもしれない。