キース・アウト

マスメディアはこう語った

令和3年度に「心の病気」を理由に1カ月以上休んだ公立学校の教員が、ついに1万人を越えた。休職者も6000人に近づこうとしている。マスコミによれば、どうやらそれは補充者が不足しているにもかかわらず、平気で産育休などを取る教員たちに原因があるらしいのだ。

(写真:フォトAC)

記事


「心の病」休職の教員、約2割が退職に 多忙で産業医面談拒否も

(2022.12.26 毎日新聞

mainichi.jp

 2021年度に「心の病」で1カ月以上休んだ公立学校の教員は、前年度比15・2%増の1万944人と初めて1万人を超えた。文科省は、「心の病」が原因で休職した公立校教員5897人が、22年4月時点で職場復帰したかどうかも調べた。41・9%(2473人)が復職した一方で、引き続き休職している教員は38・7%(2283人)、19・3%(1141人)が退職に至っていた。

「職場に復帰しても、再び精神疾患になって休職を繰り返し、最終的に退職するケースが少なくない」

 ある政令教育委員会の人事担当者は打ち明ける。この市では、復帰後2年間は学期ごとに教委の担当者らが学校を訪ね、個々の状況を把握している。ただ、ここ数年で休職者は約1・7倍に増え、理由も「仕事」「家庭事情」「保護者対応」など多岐にわたるという。

 この担当者は「突き詰めると、教員が足りないことが原因ではないか」とみる。学校では、年度初めに教員が定数を満たすよう配置されても、年度途中に産休や育休などで教員が欠けると補充が難しい。1人あたりの業務量が増加し、心に不調を覚えても、言い出せずに悪化することもある。

 また、学校ごとに教員の定数は決まっており、復職後は「即戦力で仕事をしなければならず、簡単な仕事からというわけにもいかない。子どもや保護者とのコミュニケーションに悩む教員も多い」と打ち明ける。
(以下、略)

 

【1万人もの教師が「心の病気」で退職に追いつめられつつある】

 毎年この時期になると教員の休職者の数が、わいせつ事件や体罰事件の数とともにセットで報道される。文部科学省が報道の元となる「公立学校教職員の人事行政状況調査について」を発表するからである(*1)。

 かつてはまず、体罰やわいせつ事件が大々的に報道されて「これほど教師は悪質になっている」という話が盛り上がったあと、申し訳程度に「心の病での休職者◯万人」が出されてきたが、ここ数年は休職者の方が優先的に報道されるようになっていた。その数が5000人を越えて高止まりするようになってからのことだ。

 その“休職者”が一気に6000人に近づいた今回、今までとは異なったことが起きた。それはうつ病」など精神疾患が原因で1カ月以上の長期療養をした教員という言い方で、休職には至らないものの、かろうじて学校に来続けている教員も合わせて「前年度比15・2%増の1万944人と初めて1万人を超えた」と報道した点である。
 これまでも「精神疾患による病気休職者及び1ヶ月以上の病気休暇取得者の状況一覧(教育職員)」という資料は出ていたのだが、やはり1万人の大台に乗って初めて意識されたのだろう。
 しかし6000人近い休職者がいて、明日にもその仲間となって教壇をあとにするかもしれないギリギリな教員が4000人以上もいるという状況――政府も国民もよく落ち着いていられるものだ。代わりがいればまだしも、ウチの子、ウチの孫の学級担任がいなくなるかもしれないというのに――。
 
 それにしても21年度に休職した教員のうち、2割弱が退職し、4割弱が引き続き休職して、復職した4割強も、
「職場に復帰しても、再び精神疾患になって休職を繰り返し、最終的に退職するケースが少なくない」
となるとこれは地獄だ。私自身の経験から言っても、復職してのちに生き生きと働く教員の姿というのは見たことがない。なにしろ、
「復帰後、すぐに担任を受け持たねばならない」
現場だ。いちど躓くとなかなか軌道に乗るのは難しい。いや、いきなり軌道に乗せられ走らされるのだから苦しい。

【原因は無暗に産育休などを取る教師】 

 記事は心の病気に罹る原因を、
「学校では、年度初めに教員が定数を満たすよう配置されても、年度途中に産休や育休などで教員が欠けると補充が難しい」
「1人あたりの業務量が増加し、心に不調を覚えても、言い出せずに悪化することもある」
と産育休を取る教員がいるからだと説明している。
 要するに補充者の供給能力を越えて教員が産育休や療休を取るから、そのシワ寄せが他の教員を圧迫し、療休者を拡大再生産するという理屈である。

 何とも底の浅い、そして底意地の悪い分析なのかと思う。しかもそれは毎日新聞の見解ではなく、「この担当者は」と書き加えて教育委員会の判断であるかのように記述する。汚いやり口だ。

 まあいいだろう。同じ日の産経新聞(*2)によると、そうした「産育休のために欠員が出る」状況を避けるために、「文科省では5年度から、公立小・中学校の産休や育休予定者の代替教員を年度当初の4月から配置できるように運用を見直すことにしている」という。
 毎日新聞の分析が正しいなら、令和5年度からは心の病気で休職する教員は格段に減るはずだ。期待せずに見ていよう。
*1:

www.mext.go.jp*2:

www.sankei.com