キース・アウト

マスメディアはこう語った

先日開かれた中教審の特別部会で、残業代の代わりに支給する「教職調整額」の引き上げを求める意見が相次いだという。教員の間では教職調整額の廃止と残業手当の導入を望む声も多い。しかし実際には調整額の引き上げの方が、現実的で問題が少ないだろう。

(写真:フォトAC)

 

記事


教員「残業代」、中教審で増額意見が大半 今春に方向性
(2024.04.04 日経新聞) 

www.nikkei.com

教員の確保に向けた議論を進める中央教育審議会文部科学相の諮問機関)の特別部会が4日開かれ、残業代の代わりに支給する「教職調整額」の引き上げを求める意見が相次いだ。特別部会は教員の待遇について今春中に働き方改革などとあわせて方向性をまとめる。

教員は授業準備や教材研究など明確に業務を切り分けることが難しく、時間ごとの残業代を支払わない代わりに教職員給与特別措置法(給特法)に基づき月給の4%を教職調整額として支給している。

ただ「定額働かせ放題」と揶揄(やゆ)されるなど長時間労働が根強い問題となっている。採用倍率の低下など人材確保にも深刻な影響が出ているのが現状だ。

4日の会合では従来の枠組みを維持したうえで待遇を引き上げるべきだとの意見が大半を占めた。委員からは「管理職が個別具体的に時間外勤務かどうかを見極めるのは実務上難しい」「あえて行えば混乱を生じさせる」といった声が上がった。

調整額の4%は1971年の給特法制定当時に月8時間程度だった教員の残業時間などから算定された。現在の残業時間が大幅に増えていることも踏まえ「少なくとも10%以上に引き上げるべきだ」といった指摘もあった。

教員らからは給特法を廃止するなど抜本的に見直し、民間企業と同様に残業手当を支給すべきだとの意見もある。

(以下略)

 実現するかどうかは別にして、現実的で、ある意味、妥当な話し合い行われているようだ。
教員らからは給特法を廃止するなど抜本的に見直し、民間企業と同様に残業手当を支給すべきだとの意見もある。
 月に80時間もの時間外労働を強いられている側からすれば、すべてに金を払えと言いたくなるのも無理ないが、その80時間すべてに残業手当を払うとなると現在の調整額(8時間=4%)の10倍。つまり本給の40%、およそ13万円にもなってしまう。政府・地方自治体、どう考えたってこんなに出してくれるわけはない。そもそも民間だって残業手当に上限はあるのだ。働基準法第36条に基づいた協定(いわゆる36協定)では月の上限45時間、年360時間となっているのだ。

【残業手当が格差を生み、教師を分断する】

 上限45時間は繁忙期を想定してのことで、平均を考えれば360時間÷12カ月=30時間が毎月の残業の上限と考えられる。教職調整手当4%は月8時間の時間外労働に相当すると考えれば、30時間はその3.75倍。本給の15%ということになる。
 毎月30時間以上残業をする教員にとっては、現在の調整手当4%が亡くなっても15%の残業手当がつけば差し引き11%分の輸入増。悪くない話だ。ただしこれは「?毎月30時間以上残業をする教員にとっては」の話で、残業のできない教師たちは違う。
 毎日、保育園にお迎えに行かなくてはならない教員、介護がある教員、ボランティアで地域のスポーツ団体(外部委託された部活)の指導をする人、地域に役を持っている教員、自主研修を行う教員、などは学校に残れない。実際に私も、子どもが義務教育に在籍中はほとんど学校に残らなかった。大量の持ち帰り仕事を抱えて、定時退校していたのだ――この人たちは残業手当11%がもらえないだけでなく、調整手当4%が減額となる。
 
 もっとも実際にはそうならないだろう。
 同じ分量の仕事をしながら、学校でやるのと家でやるのとでは合わせて「15%の給与の差」という不条理に人は耐えられない。しかも誰かの残業手当11%の一部は自分の失った4%なのだ。そう考えると、家庭や地域を犠牲にしても彼らは学校に残る。かくして教員の生活は今より苦しくなる。

【残業手当は管理職と一般職の間に亀裂を生む】

 教職調整手当が創設されたときの考え方、
教職員の職務自体は自発性・創造性に期待する面が大きく,その勤務すべてにわたって一般の公務員と同様に勤務時間の長短によって評価することが難しい」
は今なお生きている。
 教員世界に残業手当の概念を持ち込めば、管理する副校長や教頭と一般教員の間で、毎日「その仕事を残業として認めるかどうか」のせめぎ合いが起こる。
 教員の仕事は、しばしば有機的なつながりを持たない自己完結的なもので、やらなくても他の職員に迷惑のかからないものも少なくない。教材研究や教室整備など、やり出したらきりがないし、やりたくもなる。
 それを残業として認めろ、認めないは、それもまた学校になじまない話だ。
 
――そう考えると、調整手当を、
「少なくとも10%以上に引き上げるべきだ」
というのは実に合理的のように思う。民間でいう「固定残業代」だと考えればいい。