キース・アウト

マスメディアはこう語った

臨時教員のほぼすべてを正規教員にしてしまう――茨城県知事は日本の教育に革命を起こすかもしれないし、そうでなければどこかにまやかしのある胡散臭い話だ。

(写真:フォトAC)

 

記事

 

茨城県、正規教員増員へ 臨時教員、32年度までに1600人減
(2026.01.31 茨城新聞 クロスアイ) 

ibarakinews.jp

 茨城県は30日、育休産休などで代替が必要になった際に雇う臨時的任用教員(臨時教員)について、2032年度までに9割以上の約1600人減らす方針を発表した。その分、正規教員を増やして異動などで対応する。大井川和彦知事が定例会見で明らかにした。臨時教員を正規に置き換えると、県負担は年間約25億円増えることになるが、「都合よく代替職員を探すというやり方を切り替える」と説明した。
 
 県教育委員会によると、臨時教員を減らして正規を増やす対応は全国的に珍しいという。県は新たに来年度から、臨時教員が正規になるための特別選考や小学校体育専科教員の採用を実施する。
 
 県教委教育改革課によると、県内公立学校の教員は全体で約2万1000人。うち臨時教員は現在約1700人。臨時教員は常勤講師で任期は6カ月以内(更新可)。育休産休などの理由で欠員が生じる際に採用される。
 (以下、略)

 理解しがたいし、問題の大きな内容だ。

茨城県はこれまで、金を惜しんで正規教員を減らしてきたのか】

 一番の問題は次の部分。
 臨時教員を正規に置き換えると、県負担は年間約25億円増えることになるが、「都合よく代替職員を探すというやり方を切り替える」と説明した。
 これでは各都道府県が経費を惜しんで「臨時教員」を正規教員にせず、「都合よく」使ってきたという印象を与えかねない。それは前茨城県知事ばかりでなく、他の46都道府県知事を誹謗し貶めることにもなりかねない。
 臨時教員を置くのは歳費縮減のためではない。必要があるからだ。

【臨時教員が必要な三つの理由①】~産育休・療休代替

 自治体が学校に臨時教員(以下、臨時)を置く理由はいくつもあるが、代表的なのが記事にある、育休産休などで代替が必要になった際に雇うものだ。育休産休に関しては産育休代替(教員)、療養休暇に対しては療休代替(教員)と言ったりする。
 この産育休代替・療休代替には顕著な特徴があって、本来の教員が復帰したら立場を返さなくてはならないということだ。もちろん同じ学校・同じ学級でなくてもいいが、「復職しようと思ったらどこにも席がない」「席があくまで、無給でしばらく待機してもらう」ということになるようなら、怖くて産育休を取ることも、病気になることもできない。だからと言って年収数百万円に及ぶ正規をただ自宅待機させておくことは、納税者が許さないだろう。

 一番良いのは一時的にふたり担任制にして、一クラスをふたりで見るようにすれば教師も児童生徒も保護者も喜ぶが、教員給与の三分の一を出している国は絶対に許さない。もちろん不可能ではないが、財務省はこういうはずだ。
「定数法(教員配置の人数を決めた法律)を上回る教員配置をしても一向にかまわないけど、その場合、給与は全額そちらで出してね。三分の一なんか絶対に出さないから」
 大富豪自治体である東京都教委なら応えられるかもしれないが、普通の都道府県教委ではとても太刀打ちできる話ではない、常識的には。
 したがって重複する二人のうち、片方は無給で待機してもらわなくてはならない。それを強いることができるのは臨時教員だけである。――代替教員を臨時で賄う、それが最大の理由だ。

【臨時教員が必要な三つの理由】~将来のための正規教員抑制

 多くの臨時教員を貯め置く二つ目の理由は、少子化だ。
 子どもの数がこの先もずっと減っていくことは統計的に明らかである。そして定数法の基本的考え方では各校の教員数は学級数に対応するから、子どもの数が減ると学級数が減る、学級数が減ると配置される教員数が減るという流れは不可逆である。ところが一方、生身で生きる実際の教員は、簡単には減らせないという事実がある。特に正規教員は一度雇ってしまうと最大40年以上も居座ってしまうのだ。
 昨年の経団連(日本経済団体連合会)の報告では2040年までに18歳未満の子どもの数は3~4割減ると考えられる。単純には言えないが、それに対応して教員を今の95万人(幼小中高)から60万~70万人程度に減らさなくてはならないとしたら、25万~35万人をどう削減したらよいのか。新規採用をゼロにして、退職による自然減を待つととんでもなくいびつな職員構成となってしまうから、それだけで減らすことはできない。
 ここに臨時の必要性が出てくる。

【臨時教員が必要な三つの理由】~臨時教員自身の事情

 三つ目は、教員の側にも臨時教員の需要があるということだ。
 給与は少なくてもかまわない、正規の過酷な労働にはついていけない。臨時の立場で、自分の働き方を自分で決めていきたい、そういった教員もいる。特に子育てや介護のある教員にとって正規のようにフルタイムで働いた上に月(最低でも)30時間といった時間外労働をしなければならないとしたら、とてもではないが続けられない。もちろん優秀な人も少なくない。だったらそのまま臨時で勤めてもらおうというのが、臨時教員のなくならない三つ目の理由だ。

茨城県はとんでもない革命を起こそうとしているのかもしれない】

 ところが、茨城県はその臨時教員を9割以上も減らそうというのだ。残りの100人の中には“できれば教職を去ってほしい”という人もいるだろうから、実質的に全員を正規にするということなのだろう。

 さて、分からないのがこの先である。
 記事にあるような、育休産休などで代替が必要になった際に雇う臨時的任用教員(臨時教員)が正規になってしまう。正規となった教員は安定した身分で教育に専念し、良き指導を続ける。それはいいことだ。しかしやがて産育休を取っていた正規教員が復帰してくる。ひとつのクラスに正規がふたり――そして最初に挙げた問題が再浮上する。

  • 二人担任の学級をそのままにしていいのか、
  • 追い出されるとしたらどちらの教師か
  • 追い出された正規教員はどこに行けばいいのか

 記事を信頼して“ない知恵”を絞った挙句、たどり着いた答えはこれだ。
 茨城県は復帰した教師を「遊ばせておく」乃至はチーム・ティーチング、少人数指導など、何らかの仕事につけて、次の産育休代替に備えさせるらしい。

【要は知事の腹積もりひとつ】

 記事の割愛した部分には、こんな記述がある。
(臨時教師を正規にすることで)児童生徒にとっては同じ教員から継続的に指導を受けられ信頼関係を築きやすくなるほか、学校にとっては臨時教員を探す負担が減る。

 臨時教員を探す負担が減るというのは、いつもどこかで代替教員が準備して、待っていてくれるということである。私の推理を裏付ける十分な証拠だ。
 数字的に言えば、4月初めの段階で県内の相当数の学校で教職員数が「+1」だったり「+2」だったりするということ。他の都道府県からすれば夢のような話である。

 教員不足の時代なのになぜそんなことができるのかというと、それについても記事に説明があった。
 全国的に教員の志願者が減少傾向にある中、県では本年度、140人ほど増えた。
 いまでも志願者が増えているのに、来年度以降、学校に余剰の教員がいるようになれば働き方改革も大きく進み、採用試験の受験者数もさらに増加して質の低下問題もなくなるだろう。
 まさに茨城万々歳というところである。

 話は最初から単純だったのだ。定数以上の教員の正規受け入れなんてこれまでも、国庫を当てにせず、全額を都道府県が負担すると知事が決めれば、いくらでもできたはずなのだ。一度、正規となった教員は、長い人だと向こう40年間もやめることはないから25億円の支出増は延々と続くが、それでも茨城の子どもには必要だと、大井川知事決断した。これこそ歴史的英断と言うべきだろう。

【残された疑問】

 ただし不安な部分がないわけでもない。記事の信ぴょう性を確認しようと
 茨城県の学校基本統計(令和6年度分)を調べたのだが、記事にある
県内公立学校の教員は全体で約2万1000人。うち臨時教員は現在約1700人。
に対応する数字がうまく拾えないのだ。

 もちろん年度が違い時期(4月と1月)も違うからぴったりにはならないにしても、2万1000人に一番近い数字が20429人。茨城県内の小学校から高校までの全教員数の合計である。そこにはかなりの数の臨時教員がいるはずの特別支援学校教員2420人が入っていない。その数も含めると22912人と2万1000人をはるかに越えてしまう。しかたがないので高校と特別支援学校高等部を減らして「特別支援学校小学部中学部を含む小中学校の教員数」を推定して計算してもやはり合わない。
 そもそも令和6年度の臨時教員は小中合わせて1548人、高校を含めると1864人で、これも「臨時教員は現在約1700人」とうまくかみ合ってこないのだ。

 もしかしたら私の気づかない何らかのからくりがあるのかもしれない。歴史的英断と褒めたたえた私がアホに見えるような細工が施されているのかもしれない。
 何かと話題の多い*1大井川知事(話題が「多い側の知事」?)もう少し様子を見る必要もあるのかもしれない。いずれにしろ、
「イバラ危険」の話である。