キース・アウト

マスメディアはこう語った

大阪府で、緊急事態宣言下であるのも関わらず、府の要請に従わなかった教職員が775名も処分された。深夜まで残業をして、それから夕食に向かっても二人以上だと処分対象となる厳しさだが、それでも絶対にやるべきではなかった。

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(写真:フォトAC)

 

 

記事

大阪府・市教委が校長ら教職員775人処分 自粛要請中に多人数会食

(毎日新聞 2021.09.10)

mainichi.jp

 今春の歓送迎会シーズンに新型コロナウイルス対策として大阪府民に求めていた少人数会食などの自粛内容に反して会食していたとして、大阪府教委と大阪市教委は10日、校長7人を含む教職員計775人を処分したと発表した。

 処分されたのは、府が校長2人を含む453人、市が校長5人を含む322人。

 府教委によると、処分の内訳は、戒告2人(校長2人)▽厳重注意3人(教頭2人、事務長1人)▽所属長注意448人(教諭など440人、実習助手6人、主査2人)。

 市教委によると、戒告は校長5人と、市教委の指導主事(課長級)1人の計6人。316人は口頭注意とした。

 

 府・市は3月1日から4月上旬までの間に「5人以上」または「午後9時以降」の会食の自粛要請に反して職員同士で会食していたケースについて、教職員も含めて調査。7月には府・市職員計1474人が処分されている。

 

 

 学校を、児童生徒という立場から見たことのある人は多いが、組織内部の大人として見た経験のある人は少ない。また、一般企業とはかなり価値観の違う世界で、労働というものに関する考え方もあまりにも異なるので何かと誤解されやすい。それが学校だ。

 教師はあまりにも清廉で、だからこそ勘ぐられることも多く、間違った判断が横行する。

 私はそうした誤解や判断の間違いをできるだけ是正したいし、だからこそ多少わかりにくい事象に関しても首を突っ込み、できるだけ好意的に解釈しようとしてきた。しかしそんな私でも説明に窮することがある。今回の記事がまさにそれだ。

 

 

【あれはこういう時期だった】

 今春の歓送迎会シーズン、3~4月といえばまさに新型コロナウイルス感染拡大第4波の真っ最中。そのあと経験した第5波と比べれば、1日の新規感染者数も約四分の一と規模は小さく、大した波ではなかったように見えるが、当時は第3波をはるかに凌ぐ巨大な波になるのではないかと肝を冷やしたものである。

 さらに特徴的なのは、このときの感染拡大は首都圏以外で顕著で、近畿・北海道・愛知・福岡・沖縄などが急速に患者を増やし、特に大阪では初めて、重篤な患者が入院できない医療崩壊の状況が生れ、私たちを怯えさせた。そのまさに真っ最中に、大阪の教職員が会食をしていたのである。豪気にもほどがある。しかも7名もの校長が参加していたとは!

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【最大限、学校に寄せて考えればこうなる】

 と、ここまで嘆いておいて――、さて、どうせ私には現地まで行って事実究明をする力はないのだ。良い方にも悪い方にもいくらでも拡大解釈できる。だったらどこまで好意的に解釈できるか、一応、学校側に思いっきり寄せて、都合よく考えてみてみることにする。

 

 まず考えられるのは、これが飲酒を伴う会食だったかどうかという問題である。そう思って記事を読みなおすと、

 府・市は3月1日から4月上旬までの間に「5人以上」または「午後9時以降」の会食の自粛要請に反して職員同士で会食していたケースについて、教職員も含めて調査。

 つまり必ずしも飲酒をしていたとは限らない。単なる夕食会でもダメな場合があるのだ。

 

 例えば年度末、あるいは年度初めの忙しいさなか、夕食も食べずに仕事をしていた若手の教員が9時過ぎに切り上げて食事に行ったら、たとえ二人きりの食事でも「午後9時以降」の会食に該当。

 あるいは、私の勤務してきた学校では通常、新年度初日の昼は新任職員の歓迎も込めて、職員室や集会室で一堂に会して注文弁当を食べる昼食会が習わしだったが、これも、今やれば「5人以上」の「歓迎会」に違いない、アウト!

 

 処分された7人の校長はそれにも関わらず、校内で歓迎昼食会を開いて責任を取らされたのかもしれない。もちろん教育委員会や校長会では議論の上、こういった些末な事例にも細かく指示を出していたはずである。しかし当該の校長は何らかの事情で説明の会議を欠席した上に文書を精査し損ねたのだろう。あるいは単にボーっと生きているだけの人だっただけなのかもしれないが。

 

 遅くまで仕事をしてから夕食に行った若手教員も、それが「午後9時以降の会食」に当てはまるとは考えていなかった。しかしそうした迂闊さ自体が処罰されるべきだと言われれば、それもそうに違いない。

 

 

【果たしてそんな細かなことまで報告するだろうか】

 その上で、“大規模宴会を開いたわけでもないのに、教員はそうした具体的な会食会をいちいち報告するのか”という点が問題になるかもしれない。しかしこれはほぼ間違いなく、問われれば報告する。

 

 私は20km/hほどの速度超過で警察のお世話になった職員を連れて、教育員会(具体的には教育長)に謝罪に行ったことがある。そのとき市の担当者である課長が、ぼそっとこんなことを言った。

「黙っていれば分からないことを、この程度でいちいち報告してくる職員はいないよ」

 10年以上前の話で今は違うのかもしれないが、当時の私は、

「世の中、そうなっているんだ」

とつくづく感心したことを覚えている。

 

 

【道徳や倫理の問題ではない】

 緊急事態宣言下の会食、これは道徳や倫理の問題ではなく、危機管理の問題である。飲酒したかどうか、5人以上だったかどうか、あるいはマスク会食になっていたかどうか――それらは全部“どうでもいいこと”であって、疑われる可能性のある行為は一切してはならなかったはずだ。

 

 いったん処分が行われたら中身が精査されることはない。

「校長みずからの音頭で数十人の飲酒を伴う歓迎会が行われ、そこでは教員がマスクも付けずに飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをした」

 そんなうわさが広まっても訂正しようがない。そして学校運営あるいは学級運営は極めてやりにくくなる。そういった事態は絶対に避けなくてはならない。

 

 大阪市を含む大阪府内の小中学校・高校はおよそ1950、教職員は総数6万4千人ほどである。したがって処分された校長7名は280校にひとり、処分された教職員775名は全教職員の83名にひとり、1校について0・4人ほどにあたる。

 決して多い数とは言えないが、危機管理の点からすれば、限りなくゼロに近くなくてはならない数字である。

 

 大阪府下の教職員の猛省を望む。