キース・アウト

マスメディアはこう語った

子どものしつけという重要問題を、保護者にすべて任せていいものだろうか。彼らはあまりにも素人で、ときにまったく欠格であるというのに。教育のプロとして、教員はしつけについても責任がある。問題はその責任を果たせないほどに、教師たちが疲れ切っていることだ。

(写真:フォトAC)

記事

 

「子どもがYouTubeばかり観てるんです」 夏休み中に指導するのは先生の仕事? 保護者の相談が議論に
(2023.08.10 Hint-Pot編集部)

hint-pot.jp

子どもたちが夏休みの真っ只中でも、先生は学校でさまざまなお仕事をしています。そんななか、保護者からのとある相談に絶句してしまったという小学校教員の投稿が、ネット上で話題となっています。

 ◇ ◇ ◇

夏休み中の保護者から、家庭内でのYouTube視聴について指導してほしいと相談

「夏休み中保護者から電話ありけり。『子どもがYouTubeばかり観てるんです。先生から本人に話してくれませんか?』……??」
(中略)
 一応、電話越しに児童本人と話をしたというものの、「夏休み中で、家庭で指導することではないのか? と疑問に思いました。また、自分の子どもなら親が指導しなければ、後々親の言うことを聞かなくなるだろうことは想像できるだろうに、これでは困ると思いました。さすがに管理職もちょっと信じられないという雰囲気で、こういう保護者が増えてきて我々も困っています。やきもきした気持ちでツイートを投稿させていただきました」とのことです。

 投稿には「あー情けな、叱れない親が増えているんだね……。しつけは親の責任。しつけと教育は別!」「マジ知らんわーって話 こういうので『それはご家庭での対応をお願いします。仕事がありますので失礼します』って先生が言える世の中になってほしい」「学校に通い始めたら学校の先生がなんでも正してくれると思ってる親っているよねw 家でのしつけは親のお前の仕事だろっていう」といった共感の声が多く寄せられています。
(以下略)

【しつけは学校教育の仕事ではないのか】

「あー情けな、叱れない親が増えているんだね……」
「しつけは親の責任。しつけと教育は別!」
「学校に通い始めたら学校の先生がなんでも正してくれると思ってる親っているよね」
「家でのしつけは親のお前の仕事だろっていう」
 いちいち正論であるような、ないような……。

 

 ただし学校教育法第21条(*)を読めば、あながち、
「しつけは親の責任。しつけと教育は別!」
と言い切るのも難しいだろう。

 

 休みだからと言ってYoutubeばかりを見ている生活は「自主、自律」などと程遠く規範意識「公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度」とも程遠い。
 「家族と家庭の役割」としても問題なら、「運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること」とも齟齬する。
 つまりこれは学校でも扱うべき、極めて教育的な問題だとも言えないこともないのである。
 
 しかも保護者は、授業の忙しい学期中を避けて、わざわざ夏休み中に相談の電話を寄こしている。それを、
「夏休み中で、家庭で指導することではないのか?」
というのはやはり杓子定規にすぎないか。余裕のある夏休み中にYoutube問題に取り組んで、その成果を2学期に生かすというのも悪くない気がするがいかがか。

学校教育法第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。

(二、三略
四 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
(五~七略
八 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。


【親は困っている。簡単に相談できる専門家は教師しかいない】

 教育に関して親の責任を言い立てることは、気の毒だし非現実的だと私は思っている。
 いくら教えても学習が身につかない子どもがいるように、いくら説明しても子育てのうまくできない親がいる。能力に欠けるどころか、やってはならない指導ばかり繰り返す親もいる。それは残念ながら事実であって、私たちが前提としなくてはならないことだ。

 

 そうした前提に立つと、「しつけは親の責任」とは言いにくくなる。親に任せて、親の間違ったしつけも認めて行こうとなると、不道徳な家からは不道徳な子しか育たず、不道徳が世襲されることになる。そしてそれは社会全体の損失にもつながってくるのだ。

 

 保護者の多くは子どもをひとりかふたりしか持たなかった子育て・教育の素人である。だから彼らはしばしば困惑し、切羽詰まる。
 子どもがサッパリ勉強しない、ゲームばかりしている、妙な連中と付き合い始めた……そんなときに気軽に相談できる教育の専門家といったら、普通は学校の教師しかいないだろう。だから彼らは学校に相談するのだ。

 

「あー情けな、叱れない親が増えているんだね……」
(子どもの問題をやたら学校に持ち込む)こういう保護者が増えてきて我々も困っています。」
 そんなことはない。保護者が教育に関して学校に依存的なのは、少なくとも私が教員になった40年前も同じだった。親がやたらとネットから学ぶようになり、簡単に問題が解決したような気になりやすい最近の方が、むしろ少なくなったくらいだ。
 しかしそんな中途半端をされてのちのち面倒なことになるより、早めに相談してくれた方がよほどありがたい、と私などは思うがどうだろう?

【教員の夏休みを昔のようなゆとりあるものにしたい】

 保護者が子どものしつけなどについて、すぐに学校に持ち込んでくることが問題なのではない。教師が保護者の困惑にきちんと向き合えないほどに疲れていて、できれば指導を回避したいと願うほどになっていることが問題なのである。

 子どもの夏休みの大半を、教師は学校で勤務している。その時間にこそ、日ごろ対応できない子どもの問題と真摯に向き合える時間でもある。そのためにも夏休み中の教員を研修漬けにすることなく、ゆとりを与え、ものを考え自己研鑽できる期間にしたいものである。