キース・アウト

マスメディアはこう語った

「都立高校のブラック校則全廃」と聞いてビビったが、内容は大したものではなかった。要するに古くなった項目は捨て、表現をもう少し洗練させればいいというだけのことだ。しかしそれにしても、世の中の人たちはこんなどうでもいいことに、なぜかくも熱心に取り組むのだろう。

f:id:kite-cafe:20220312091635j:plain(写真:フォトAC)

記事


都立高のブラック校則全廃 22年度で ツーブロックや下着の色
など
(2022.03.10 毎日新聞

mainichi.jp

 

 東京都立高校を中心とする都立学校が、地毛でも髪を一律に黒く染めさせるなどの校則5項目について、2022年度に全廃することが明らかになった。都教育委員会が10日の定例会で報告した。廃止する校則はこのほか、下着の色を指定する▽頭の側面を刈り上げ、頭頂部の髪を伸ばす「ツーブロック」を禁止する――など。生徒と学校側が話し合い、延べ196課程で見直しを決めた。学校の理不尽なルールを「ブラック校則」と呼んで問題視する動きは各地に広がる。都立学校は4月からホームページで校則を公開する。

 

 都教委は「ツーブロック禁止」など、必要性が疑われる校則を6項目にわたって提示。高校を中心とした全都立学校196校の全日制、定時制など計240課程に対して21年4月、該当する校則の有無を調査した。その結果、延べ216課程で同趣旨の校則があることが判明した(複数項目に該当する場合、それぞれ1課程と計算)。

 

 都教委は学校側にこれらの校則の必要性を点検するよう通知。各学校で生徒会役員と教員が意見を交わしたり、保護者から聞き取りをしたりした結果、21年12月までに延べ196課程が該当する校則の来年度からの廃止を決めた。6項目のうち5項目は全ての課程が廃止する。

 

 ◇地毛証明書の任意提出は残る

 一方で、生まれつき髪が黒くない生徒や、くせ毛の生徒に「地毛証明書」を任意で提出させる校則については、35課程が廃止を決め、20課程はそのまま残す。生徒や保護者から「届け出を残してほしい」という声があったという。

 

 10日の都教委定例会では、教育委員から点検を評価する声が相次いだ。北村友人委員は「生徒たち自身が主体的に考えて物事を決めていく環境が尊重されることが大事。大きな一歩だと感じる」と述べた。

 

 山口香委員は「すばらしい取り組みだが、ここまで時間がかかったのは残念」とした上で、「日本人はルールをただ守ることが美徳だという教育をされてきた。みんなで納得してルールを守る社会をつくるにはどうすればいいか、議論するきっかけになれば」と話した。【竹内麻子】

 

 ◇都立学校の校則

 ※丸括弧の数字は、その校則を設けている課程の数で、21年4月と22年度以降

  • 髪を一律に黒く染める(7→0)
  • 「地毛証明書」を任意で提出する(55→20)
  • ツーブロック」を禁止する(24→0)
  • 謹慎は校内の別室ではなく自宅で行う(22→0)
  • 下着の色を指定する(13→0)
  • 「高校生らしい」などの曖昧な表現で指導する(95→0)

 

【ポニーテールにうろたえるな】

 つい最近、鹿児島市内の女子高校生が中学校時代、担任の女性教師に「ポニーテール禁止は何のため?」と訊ねたら「男子がうなじに興奮するから」と答えたという話がネットで話題となった。

 本当にそんな答えをしたのかはなはだ疑問だが、事実だとしたら“生徒の質問に迂闊に答えるからこういうことになる”というたぐいの話である。私だったら、

 「そうだよね、よく分からんよね。でもこの校則ができたときほとんどの先生が反対しなかったわけだから、そこには何らかの理由があったはずだ。ぜひ調べて先生に教えておくれ」

 そんなふうに答えておく。その上で私自身があちこちの先生に訊きまくって、納得できる理由があれば次回に生かし、なければ生徒をけしかけて「ポニーテール禁止条項反対運動」でも起こさせればいい。たいていの生徒は面倒くさくてやらないし、万が一始めたとしても納得できる理由のないことは確認済みだから職員会でもすんなり通ってしまうだろう。

 それにしても今どき、教師と戦争してまでもポニーテールにしたい娘なんているのかね?

 

【「ブラック校則全廃」の実相】

 さて、今回の記事だが、ブラック校則を「全廃」するというのでかなりビビったが、内容を見ると穏やかなものだった。

 生来の赤毛までも「一律に黒く染める」ようでは明らかに行き過ぎで、「地毛証明」を出した上で、のまま学校生活を送ってもらえばいい。生徒の中にはやっかんでいろいろ言う子がいるかもしれないが、その時こそ水戸黄門の印籠よろしく「地毛証明」を出して見せればいいのだ。そのための証明書じゃないか。

 

「『高校生らしい』などの曖昧な表現で指導する」だって問題はない。少々たいへんだが文言を変えればいいだけのことだ。

 

「謹慎は校内の別室ではなく自宅で行う」

 これについてはなぜブラックなのか分からないが、“我が家の不良息子がひとりで家にいる”と考えただけでも気絶しそうになる保護者にとってはブラックだ、ということかもしれない。

 学校だって“わが校のヤンチャ生徒が別室に一人でいる”と考えただけでも教師は震え上がる。しかしこれだって空き時間の先生がべったりついて指導すればいいだけのことだ。そのぶん負担は増えるが、「教員の働き方改革」なんて最初から絵に描いた餅だ。次々と教師が倒れ、校内で教員の定数割れが起こればまた別の動きが出てくるのかもしれない。それまで、みんな頑張ってくれ。

 

【ツーブロ・カラー下着の賞味期限は切れた】

 さて問題は「ツーブロック禁止」と「下着の色指定」だ。私もつい先日、「ツーブロック禁止も必要だ」みたいな文書を書いたばかりなので気が引けるが、よく考えてみたらこれももはや、どうでもいいことになっていた。賞味期限が切れている。

 

 これらが校則になったのは実はその形状や色のためではない。ツーブロックとカラー下着が、反抗のシンボルだったからだ。

 大昔から辿れば、喫煙や飲酒、長ランや短ラン・ボンタン、茶髪にガングロ、ルーズソックスにミニスカート、逆にロング。ピアスにタトゥー、木刀にバタフライナイフ――これらすべては一部の先鋭な子たちが、フツーに勉強しフツーに生活する子たちから自らを差別化し、徒党を組んで他を圧倒し、威圧し、もってアイデンティティとするための道具だった。だから禁止対象となった。ところがこれには流行り廃りがあって、いつかその役目を失う。

 ルーズソックスにミニスカートはフツーの子が大量に参入することによって差別化の意味を失う。タバコは今も反抗のシンボルだが、少々値が張りすぎてたいへんだ。茶髪にガングロは今となっては子どもですら意味が分からない。そしてツーブロックにカラー下着の時代が来て、いま終わろうとしている。

 

 ツーブロックはフツーの子の穏やかなツーブロに侵食されて、どこからが不良なのかよくわからなくなってしまった。だからこれで差別化を図ろうとしたら昔のXジャパンくらいにとんでもなく髪を逆立てなくてはならない。そうなるともう誰もついてこられなくなるから教師は与しやすくなる。恐ろしいのは影響を受けた子たちが次々とあちら側に行ってしまうことで、誰もついて行けない不良は個別に指導すればいいだけのことだ。校則として維持するまでもない。

 

 カラー下着は謎だ。

 一般には教師たちがスカートをまくって下着検査をしたということになっているが、それで黙っている親も娘もないだろう。どこかでそんなことが起これば校名付きで全国ニュースになったはずだがそんな例はない。校則だからといってひとの子のスカートをまくって、セクハラ教師の汚名を着せられ懲戒免職になってもいと思うほど生徒指導に熱心な教師はいなかったのだろう。

 

 問題はスカートの中の見えない下着ではなく、上の方で透けて見える下着だ。一部の女の子たちがわざわざ透けるブラウスをみんなで揃え、その下にパステルカラーの下着をつけて結束の証とする――ガングロも茶髪もカラーギャングも色にこだわったから分からないでもないが、変なジジイの視線を限りなく引き寄せるあんな服装が、一時期とはいえ流行したこと自体が不思議だ。それで流行は意外と短く、いまやほとんど見かけることはない(というか、私はもう5年以上見たことがない)。

 

 要するにツーブロック・カラー下着が非行文化であった時代は終わった。だから禁止することもない。これを校則から外し、次に似たようなものが出てきたら改めて禁止する。昔ながらのイタチごっこを続けるだけのことである。

 それにしても東京都教委、さりげなく、うまいこと事態を収めたものだ。