キース・アウト

マスメディアはこう語った

就職超氷河期を除けば、元々教職なんてエリートの就く仕事ではなかった。しかしそれでも「新規採用教員のうち4割近くの出身学部の入試偏差値が50に満たない」となると由々しき事態だ。もう日本の教員は学校を支えられない。しかしそのデータ、正しいんだよね?

(写真:フォトAC)

記事

 

教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
(2025.02.06ニューズウィーク日本版)

www.newsweekjapan.jp


<新規採用教員のうち4割近くの出身学部の入試偏差値が50に満たない>

背景には教員の処遇改善が進まず教職の人気が低下していることがある
戦前期では、教員養成は公立(官立)の師範学校で行われていたが、戦後になってから「開放制」の原則がとられるようになっている。私立大学も教職課程を設置でき、それを履修すれば、教員免許状を取得することができる。
字のごとく教員免許状の取得ルートを「開放」することだが、時代と共に教員のリクルート源は多様化してきている。公立学校の新規採用教員の学歴を見ると、2001年度では教員養成大学出身者が40.4%、一般大学出身者は44.9%だったが、2024年度では順に24.5%、66.0%と、一般大学卒の比重が高まっている(文科省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」)。
(以下、略)

【問題の所在】

 嫌な比較を思いついて、面白くもない数字を拾い出してきたものだ。しかもおそらく間違いではないから始末が悪い。

 

 話の筋はこうだ。
 太平洋戦争前の制度では公立の教員養成学校(師範学校)の卒業生のみが教員になれたのが、戦後は門戸を広げ、国公立の一般学部や私大出身者でも教員採用試験が受験できるようになった*1。その結果、かつて師範学校卒と同じような学力の最低保証がなくなり、下限も見えなくなった。
 それでも2001年ごろの新規採用者は教員養成大学出身者が40.4%、一般大学出身者は44.9%で教員養成大学出身者とそうでない大学の卒業生はほぼ拮抗していた。それが今や24.5%、66.0%と一般大学卒の方がはるかに大きくなっているのだ。それのどこが問題かというと、一般大学・一般学部卒の学力は、どこまでも低くなる可能性があるということだ。
 実際に2024年春の新規採用者(関東の1都6県に限る)の出身大学を偏差値別で見ると、偏差値65以上のAクラス私大出身者はわずか5.3%、ところが偏差値50未満のEクラス大学出身者は37.9%にものぼる。これがどれほど異常な数字かというと、同じ公務員でも教員以外だとAクラス大学出身者は教員の4倍近い19.5%、逆にEクラス大学者は半分ほどの19.8%しかいない。
 さらに枠を広げて全就業者で調べるとAクラスの大学の出身者は17.5%。公務員よりやや劣るがそれでも教員の3.4倍ほど。Eクラスは逆に教員の4分の3にあたる28.4%しかいない。

 

 もっとも教員の15.2%は国公立出身者で、その割合は全就業者の3倍、一般公務員の1.5倍ほどだから多少は補われる面はある。しかしそれにしても現状には、憂うべきものがある
最近では学力が同世代の中央値にも満たない人が教壇に立つことも多くなっているだろう。
 こうした身も蓋もない説明も、数字を見る限り当たらずとも遠からずといった気もしてくる。
教員の不人気を解消し、優秀な人材に来てもらおうと、国も教員の処遇改善に取り組んでいる。
 その通りだ。
 そして結論、
(しかし)そもそもお金云々ではなく、教員があたかも「何でも屋」のように扱われている現状を変えなければならない。(中略)教員は、教えることの専門職。この原点に立ち返り、役割革新を進めることが真の処遇改善というものだ。
 まあ、これもその通りではある。
*1:不肖私も、私大法学部出身で中高の免許(社会科)を取り、小学校の免許は通信教育で取得した。 

【就職超氷河期にスーパーエリート教員が生れる】

 ところで記事にある、
公立学校の新規採用教員の学歴を見ると、2001年度では教員養成大学出身者が40.4%、一般大学出身者は44.9%だったが、
のくだりは、なぜ2001年なのだろう? 21世紀の最初の年というただそれだけのことなのだろうか? というのは2000年前後というのは我が国にとって、あるいは我が国の教育界にとって、特殊な時期であるからだ。

 

 その2年前の1999年(平成11年)は国立教員養成大学卒業生で教員になった学生の割合が過去最低の32%を記録した年だ(現在は令和4年春の統計で66.9%)*2。前年の2000年(平成12年)は教員採用試験の受験倍率が過去最高(13.3倍)を記録した*3年である。
 つまり2000年代初頭は、平成不況、就職超氷河期の最高点に達した時期で、「最低でも4年間、教師になるためだけに努力してきた国立教員養成大学の4年生が」「死ぬほど頑張っても三人にひとりしか受からなかった時期で」「それでもさすがは専門の勉強をしてきた連中だ、私大出身者も含めて、全合格者の4割以上が教員養成大学の出身者で占めることができた」「ほんとうにすごい」時期だったわけある。それを基準に、「今は一般大学の出身者ばかりだからなあ」とボヤかれても困る。

 

 考えてみると教員採用試験でそんなにすごい学生たちを集められたのは、(戦前を別にすれば)このころだけだ。さらに溯って昭和にまで行っても、教員はそんな超一流の若者のつく職ではなかった。大学で言えば旧帝大、高校で言えば首都御三家(都立日比谷、西、新宿の三高校)の卒業生で、公立学校の教員になる人は、まったくいないわけでもなかったがかなり珍しい存在だった。それなのに就職超氷河期の平成12年前後だけは、とんでもない高学歴の学生さんも、教員採用試験の会場に紛れ込んでいたのである。

 

 その時期に教員あるいは公務員になった人たちの優秀さは今も語り草だ。当時40代の地方公務員だった私の弟は、「20代前半のあいつらに、たった今、出世競争で負けてもオレは悔しくない」と言わせたほどである。私もたまたま若い教師の多く配属されていた学校に勤務していて、彼らの仕事ぶりに舌を巻いていた。その先見性、計画性、粘り強さ、ついでに言えば素直さ――頭がいいというのはこういうことなのだとほとほと感心させられたのだ。人間性も学習で身につくものだと、初めて教えてもらったのも彼らからだった。
*2 国立の教員養成大学・学部(教員養成課程)卒業者の教員就職状況
*3 2000年(平成12年)教採最高倍率 13.3倍

【平成のスーパーエリートが背負ったものを、今の教員は背負えない】

 一方、平成不況の真っただ中の2000年(平成12年)前後は、教職がもっとも妬まれた時期でもある。公務員で安定しており、しかも“子ども相手の楽な仕事”。高給取りで退職金も年金もたっぷりあるというのに夏休みなど長期休業にも恵まれている。
「そんなに羨ましいならなればいいのに」
と悪態もつきたいところだが、あいにくのところ、児童生徒の急減期で採用数は最低。試験も超難関となるとそうも言っていられない。

 

 政府はここぞとばかりに学校を叩き、組合も圧力に抗しきれなくなる。
「キャリア教育」の開始が1999年(平成11年)、「教員評価」が始まったのが2000年(平成12年)、「総合的な学習の時間」が同じ2000年から段階的に始まると、「教育再生会議」が2006(平成18年)につくられ、さっそく翌年から「全国学力学習状況調査」(2007年(平成19年))。ゆとり教育で内容と時数を減らしたのに「脱ゆとり教育」(2011(平成23年)~2012年(平成24))で内容をほぼ戻したので「時数は減ったのに学習量が元に戻る」という苦しい状況が始まったのもこの時期。

 

 失われた20年――、あのころは学校をどんなに叩こうが、どれほど負荷をかけようが、社会は拍手喝采で決して同情的になることはなかった。そしてここが一番大事な点なのだが、2000年(平成12年)を頂点とする就職超氷河期に教員となったスーパーエリートみたいな彼らは、その重荷を軽々と担いでしまったのだ。
 それを現在、普通の能力の教員たちが担ごうとしているのだから、無理なのは目に見えている。今後はさらに悪くなる。

【ところで、取り上げた記事の数字は正しいのだろうか?】

 さて、文科省財務省との約束で、今後、教員の時間外勤務を劇的に減らすつもりらしい。仕事も減らさず、人も増やさないまま――。当然、今いる教員は疲弊し、新卒の志望者は減る。これからはEクラスの大学の卒業生ばかりではなく、高卒の人も大学を出たことにして教壇に立たせなくてはならない時代が来るかもしれない――。

 

 ところで、今さらなのだが、今日取り上げた記事の数字、ホントに正しいのだろうか?
 2024年春の全就業者のうち、偏差値65以上の私大を卒業した者は17.8%だという。しかし偏差値65以上といえば六大学・MARCHレベルである。数学的に言えば全体の6.68%しかいないはずなのになぜ2.5倍以上の17.8%も就職しているのだろう? なぜこんな歪みが出るのか。
 さらに言うと全就業者や公務員の場合。偏差値65以上の大学の卒業生と、偏差値55~60の大学の卒業生の数はほぼ同じ(全就業者は17.8%と17.5%、公務員は19.5%と18.5%)なのに、その中間の偏差値60~65の大学の卒業生は、半分以下という少なさ(それぞれ8.1%。数学的には9.19%ほどいるはず)。つまり偏差値60~65の大学の卒業生は有意に就労していない、公務員にもならない、ただ教職にだけは人数にふさわしく(10.3%)就いている、ということだ。なんとも不思議な話ではある*4
*4:ちなみに教員の場合、偏差値65以上の大学の卒業生が5.3%。以下偏差値5刻みで60~65が10.3%、55~60が11.3%、50~55は20.0%、偏差値50未満は37.9%である(これに国公立の15.2%を加えると100%になる)。それぞれの幅に対する数学的な割合は6.68%、9.19%、14.98%、19.15%だからほぼ対応することになる。母数の大きな「全就業者」の方で数が歪むのは実に不思議というしかない。