キース・アウト

マスメディアはこう語った

全国学力テスト:練習もしないであんなものに向かわせるなんて、あまりにも可哀そうだ。さっさと事前対策をして、そこそこいい点数を取らせ、あとは一刻も早く日常生活に戻ろう。真面目に取り組んでいいものではない。

記事


国学力テストで「事前対策」 小学校現役教員が実態など証言

(2022.10.21 NHK

www3.nhk.or.jp

小学6年生と中学3年生を対象に毎年、実施されている「全国学力テスト」をめぐり、行き過ぎた「事前対策」が各地で行われていたことが明らかになっている問題で、石川県の小学校の現役教員がNHKの取材に応じました。教員は、テストの直前には授業で教科書を使わず、いわゆる「過去問」を繰り返し解かせるといった「事前対策」の実態や、テストの結果の信頼性にかかわる対応について語りました。

「全国学力テスト」をめぐっては、全国トップクラスの成績が続く石川県で、ことし4月のテスト直前、多くの学校が授業時間を削り、過去の問題を繰り返し解かせるなど、「事前対策」をしていたことが県教職員組合が行った実態調査で明らかになり、その後、秋田県富山県などでも「事前対策」が行われていたことがわかっています。
(以下略)

 記事の大部分を割愛したが内容を知る上ではこれで十分だろう。石川県教組の告発で慌てて調べたら、あそこの県もここの県も同じように事前対策が行われていたという話。しかしやるのが当たり前なのだ。いや、しなくてはならない。

【全国学テの成績が低いと学校はひどい目に遭う】

 2007年、初めて実施された全国学力学習状況調査(以下、全国学テと略す)を、私は転任したばかりの学校で担当した。結果は惨敗。テストの三日前にいじめに関する保護者会を開いているようでは学習に実が入るはずはない。問題の多い6年生で勉強どころではなかったのだ。
 夏が過ぎて成績が返ってくると案の定、市内で最下位。点数は「振り向けば沖縄」という状態だった。この言い方、沖縄県には失礼だが、子どもたちが学習に前向きでないことは既に知れ渡っていた。私の勤務校も同じような状況だった。
 
 市教委からはさっそく担当者がやってきて授業の見学、さらに「授業再建計画」を至急提出せよとのこと。一応それなりのものをつくったが朱を入れて返され、再提出。以来計画が順調に進んでいるか、3カ月ごとの査察が入った。あちこちのクラスを参観して、そのたびに臨時の研修会を設けてご指導を受ける。そのあとは若手教員を中心に個別の指導だ。中でも屈辱的だったのは主事を児童に見立てての模擬授業だった。教育実習でもあるまい。いまさら指導を受ける先生方の、胸中は察して余りあった。
 低い成績の原因が教師の教科指導法にないことは明らかだった。ほとんど学級崩壊状態だった1クラスが、もう少し落ち着いてさえいれば最下位ということはなかったに違いない。他の2クラスはほぼ平均点に近かったのだから。私はホゾを噛んだ。
 
 しかし市教委を恨むのも気の毒だ。市教委は市教委で圧力がかかっている。市長や市議会、県教委や県議会。中でも議会は特に怖い。下手に機嫌を損ねたら通したい予算も通らなくなる。逆に点数さえ上げておけば気持ちよく税金を回してくれることも少なくないのだ。そのわずかな増額分が、県教委・市教委・学校にとって決定的ということもある。例えば県費または市費の講師が一人増えるだけで、学校がどんなに助かるか――そう考えると成績の振るわない学校を指導したくもなる。点数もバカにできないのだ。
 
 翌年、私は新6年生の担任と少人数加配の講師にお願いして4月の始めに数時間の試験対策を実施した。
 その結果は市内第2位。半年間私の学校を指導し続けた主事はまるで自分の手柄であるかのように「やったじゃないですか、あと一歩で1位だった!」と喜び、そのあとかなりの間、顔を見ることはなかった。他の、成績の低い学校を指導するのに忙しかったからだろう。

【全国学テは事前対策がよく馴染む】

 その翌年以降も私は6年の担任には必ず事前対策をしてもらうよう声を掛けた。その背景には、少人数指導担当の講師の次のような言葉があった。
「先生! 事前対策、そんなにしなくていいみたい。ちょっとやればすぐに成績が上がりますよ!」
 実際その通りだった。
 全国学テで点数が取れない理由は大きく分けて二つ。ひとつは「部分点」というものに子どもが慣れていなかったことである。
「とにかく解答欄を真っ白なまま出すな。途中でもいいから思いついたことは何でも書け、書いた分だけ点数がもらえる」
 それだけの理由でおそらく平均点は5点以上あがった。

 もうひとつは二つ以上の内容を関連付けた問題というものに、子どもたちが慣れていなかったことである。
 小学校の場合、日常的に行っているのはいわゆる「単元テスト」で、単元をまたぐ問題が出ることは稀だ。ところが全国学テの大部分は総合的な能力を問われる。確かに良問が多いが、初めての形式なのでそのための学習はどうしても必要になる。どのようにやるのがいいのか。
 答えは簡単だ。十分によく考えられた問題の集まり、つまり過去問を解けばいいのだ。それが一番である。かくして全国学力学習状況調査への対策はいかにも受験対策めいてくる。しかし必要なことだ。

徒手空拳で受験させるのはあまりにも可哀そうだ】

 2007年の第一回全国学力学習状況調査では、私の学校から1名分の解答用紙が提出できなかった。テストが始まってしばらくすると、ひとりの児童が用紙を引きちぎって捨ててしまったからである。担任によると「泣きじゃくって以後何もできなかった」というのだ。
 
 理解できない話ではない。これまでの単元テストでは80点以下など考えられないのだ。それが全く異なる出題形式のテストで手も足も出ない。絶望的な気持ちになるのも無理ない。
 全国学テは児童生徒に直接返ってくるものがあまりに少ないテストである。そんなもので子どもを深く傷つけることはないだろう。事前に練習くらいはさせたいものである。

【事前対策はどこまで負担なのか】

 記事の割愛した部分にはこんな話がある。
教員によりますと、勤務する小学校では、5年生の2学期ごろから昼休みや放課後などを使って「過去問」を解かせるということです。
 わざわざ授業時間をはずすとは律義なことだ。それが、
そして、6年生になると4月のテスト直前は授業の時間にも教科書は使わず、繰り返し「過去問」を解かせることが常態化しているといいます。
となる。もはや過去問も15年分近くあるから、やろうと思えば国語だけでも15時間も当てられることになる。しかしそこまでやる必要もないだろう。先に言ったように全国学テは事前対策がよく馴染むテストで、その特殊性を克服すればあとは日ごろの学力がものを言うだけである。
 
 学習指導要領では中学生でも年間の授業時数は1015時間となっている。週29時間授業で35週間、つまり175日間登校すれば消化できる量である。それを実際には200日も登校しているのだから試験対策に6時間ほど削ったところでどうということないはずだ。

 全国学テは学校間の競争によって学力を高めようと考えた愚かな政府のお偉方を、満足させるためだけのものだ。だからやめるが一番いいが「良いことは簡単にやめられない」が原則だ。そうである以上は適当に凌いで、さっさと先に進むがいい。
 真面目に取り組むことこそバカらしい。