キース・アウト

マスメディアはこう語った

昔の保護者は教師にクレームを入れるのに、学級PTA会長を押し立てて来た。だから行き過ぎがあると必ず袖を引いてもらえた。今は地域でも保護者間でも孤立した保護者が、単独で乗り込んでくるから厄介だ。ことは簡単に済まない。学校も特に若い教師を守る仕組みをつくるべきだ。

(写真:フォトAC)

記事

 

「教師は保護者の御用聞きじゃない!」スーパーモンペがはびこる驚愕の学校事情。「甘やかし教育」の成れの果てか?「カスハラ」に思えて仕方ない親たちの言動問題とは【専門家解説】
(2025.03.05 FORZASTYLE)

forzastyle.com


全国各地で卒業式が行われるこの時期、早くも次年度に向け、心を新たにしている方も多いことだろう。一方で、子供たちを送り出す教育現場は連日大忙しだという。

現在、コーチングアドバイザーや教育問題に関する記事の監修者として活動している小学校教諭歴17年の岡島真尋氏は、この時期の小学校の裏側についてこう話す。
「学級納めや卒業式の準備、3学期の成績処理に加え1年間の成績処理、さらに次年度のクラス編成や引き継ぎ資料の作成などなど…と、この時期はとにかくやることがたくさんありますね」
岡島氏は、この時期ならではの「別件」業務があるという。
「『あの子と同じクラスにさせないで』『この先生が担任じゃないなら学校行かないと言っている』といったクラス替え・担任についての要望への対応です」
(以下略)

 記事の下の方ではこんな話が出てくる。
 ある小学校の保護者から不登校気味の児童について、「習い事で知り合った友達が入学する予定の中学なら子供は通うと言っている。学区外からその中学に進学させてくれ」という申し出があった。もちろん学校や学級担任教師にあれこれできる話ではなかったが、「不登校を直せなかった学校の責任として、特例を認めるべきだ」と激しくねじ込まれ、学校全体が翻弄された挙句、担任教師は心労がたたって離職を余儀なくされた。

【学区の変更(越境通学)は意外と重い話だ】 

 学区の変更(越境通学)というのは世間が思うよりははるかに重大な問題で、例えばひとり移動しただけで40人の予定で動いていた学年が20人と21人の2学級にしなくてはならなくなることがある。教師がひとり足りなくなる。これだけ講師不足が深刻な時代に、再来週からひとりと言われても簡単に見つかるかどうか――。
 しかしさらに深刻なのはその逆で、20人と21人の2学級で始めるつもりが、ひとり別の学区へ移ってしまったので40人学級1クラスに戻さなくてはならない場合だ。恐ろしいことに先生がひとり余ってしまう。余るから便利に使おうという訳には行かない。平均年収500~600万円と言われる教員を、必要もないのに使っていたら税金の無駄遣いだ。何を言われるか分からない。仕方がないので校内人事を入れ替えて、4月から担任を持つはずだった講師ひとりに辞めてもらうことになる。非情な話だが、講師はこうしたときにクビにし易いから置いてあるという側面がある。3月も半ば過ぎに突然職を失う身についても考えてやらなくてはならない。

 もちろん保護者の転勤転居といったことはざらにあるから学校はアンテナを高くして情報集めに神経を使うのだが、児童自身が「あっちに行きたい」「こちらに戻りたい」というのをすべて聞いていたら、学級編成などいつまで経ってもできない。学区変更(越境通学)が難しいのはそのためで、これは担任レべルどころか校長レベルの問題ですらなく、設置者である市町村教委の案件である。
 
 それをなぜ、記事の担任と学校はわが身の問題として背負ってしまったのか――人間関係には流れがあっていつの間にか深みにはまっているということもあるから一概には言えないが、この問題は早い段階で担任や学校の手から離し、教委に預けるべきものだった。そう簡単に教委を頼れない、迷惑はかけられないと思う校長・教頭もいるかもしれないが大丈夫だ。教委はそのテのクレームには馴れっこだ。元教員とは違って、市職あがりの教委事務局員の中にはモンスターハンターみたいな猛者がいくらでもいて、硬軟合わせ持った対応でいかようにも料理してくれる。彼らに任せた方がはるかにうまくいくはずだ。

【若い教員にとっての教委の使い方、校長・教頭の使い方】

 一般に教員は管理職になって初めて教育委員会との付き合いが始まるため、教委との付き合い方、教委の使い方がよく分かっていない。若い新任の教師となるとさらに手前の、校長や副校長・教頭、主幹教諭や学年主任の使いかたもよく分かっていない。初任の4月第一週から授業をしなくてはならない教師たちは、なかなか学校の構造を学んでいる時間がないのだ。だから聞かなくていい保護者のクレームまで、全部聞いて追い込まれてしまう。

 だから若い先生にはこんなふうに教えておくべきなのだ。
「保護者の一部は学校をデパートと同じサービス業だと思って、言わなきゃ損だとばかりに消費者気分であれこれ言ってくる人がいる。しかしそれを全部引き受けていたらたちまち粉砕されてしまう。担任教師は――特に若いうちは先輩や上司を頼って、あちらが相談窓口だと保護者に教えてあげるだけでいい。
 つまりこんなふうだ。
『学区の変更。学校では対応できないので教育員会へお願いします。ただし教頭先生にひとこと連絡しておいてくださいね。
 担任の変更・希望。校長先生へお願いします。ただし難しいと思います(と付け加えて)。
 クラス替えのことは学年主任へ。なかなか希望に叶うか分かりませんが(と付け加えて)
 それ以外のことはいちおう私にご相談ください。下っ端なのでできることはほとんどありませんが、だれが問題解決の糸口になるかは、調べてお知らせすることはできます』
 そういって、決して矢面に立たないようにする。あとはベテランたちが何とかしてくれるさ」

 言うまでもなく学校態勢として若い教師をクレームから守り、ベテランが引き受ける準備をしておくことは必要である。学年主任、主幹教諭、教頭、副校長、校長、みなそのために経験を積んでそこにいるのだ。若い教師に実力を見せつけよう。
 もっとも自分が担任しているクラスの子どもや保護者と違って、他のクラスの子や保護者は案外扱いやすい。年齢的にも保護者より若年の学級担任が話すより、年齢も経験もたっぷりあり、それなりの地位についている人の方がやり易いことはいくらでもあるのだ。若い先生のために汗をかいてもらおう。それでいい。